13 すべてが明るみに②
どういうことかわからず、尊は山川へ物問いたげな視線を当てる。
「私が聞いた話では。林くんが埴生くんに、いくらでもかまへんからカネ貸してくれって無心して……このままやったら何回も無心されると思た埴生くんがなけなしの小遣いから五千円出して、もう関わってくるなって言うたんやって……」
「そ、そんなん、ウソやっ」
唐突に林は立ち上がり、ひっくり返った声で叫んだ。
「ウソや、埴生はウソついてるんや!ウソやなかったら、ヘンな勘違いしてるんやっ!」
叫ぶと林は、椅子の上にガクンと腰を落とし、はあはあと苦しそうに肩で息をした。過呼吸になっているのかもしれない。
「山川先生」
不意に川野が声を上げた。
「そんな話、俺ら初めて聞きましたけど?大体、林がカネの無心?ありえんで」
「そうです」
尊も言う。
「こいつ、見た目は悪ぶってますけど。根はマジメっちゅうのんか、そんなことするようなヤツやないですよ」
田中は何を思っているのか、昏い目でうつむいて唇を引き結んだ。
不意に、この場に似つかわしくない明るい笑い声が、しらじらしいほどの朗らかさで響いた。校長だ。
「なるほど。ようわかりました」
卓の上で両手を組み、校長はうなずく。
「要するに、お互い行き違いがあったということやね。埴生くんは林くんに無心されたと勘違いしてたし、林くんは埴生くんに、カネ渡されて絶交されたんやと勘違いしてた、と。そして君ら三年生は、林くんに同情して今回の件を起こしてしもた、と」
いかにも情理を知り尽くした訳知りらしく、校長は話をまとめ始めた。
「そもそも、ナンでそんな風な勘違いが起こって話が拗れたんかはわからんけど。まあ、ヒトとヒトの揉め事なんてそんなもんやろうし、これ以上引きずっても水掛け論になるだけやろうねえ」
妙に嬉しそうに校長は続ける。
「今のところ、校長先生の方から頼んで埴生さんへ、警察に届けるっちゅう話は一時棚上げにしてもらってます。確かにとんでもないことをやってしもたけど、四人とも未来ある少年やからこらえてくれ、と。早川くんを始め三人はもうすぐ卒業で、それぞれ卒業後の進路に希望を持ってる様子やから、今から閉ざすのも酷や、と。納得まではいかんものの、アチラさんも理解してくれてはる。これからもう一回、校長先生と山川先生で埴生さんと話をして、君らの気持ち、こうなった経緯を話してきます。君らも自分のしたことを十分反省してる、言うこともちゃんと伝えてきますよ。君らの直接の謝罪なんかは後日改めてするとして、後は先生らに任せておきなさい」
(……なるほど)
やはり、この男はタヌキだ。
埴生の親にこの件を警察沙汰にされて困るのは、学校側……校長も、だ。
むしろ尊のようなヤンキーよりも、校長の方がダメージがキツイ。
なんとか公にしないで済む方法を、必死に模索していたのだろう。
こうして尊たちに話を聞いたのも、この件を内々に収めるシナリオを補強する為、そして生徒を公平に扱っている体裁を整える為……なのだろう。
白け果てた気分でそう思い、尊は校長の顔をつくづく見た。
やはり小物の詐欺師だ、この男は。
しかしこの詐欺師もどきに、ある程度は任せるしかない。
世間体の悪いことにしたくないだろうから、おそらく、うまく内々に収めるだろう。
尊だって決してこの件を大袈裟にしたくはないし、すっきりしないが、ある程度以上は大人に任せるしかないのが現実だ。
尊たちは所詮、中坊。
一ヤンキー、一ガキに過ぎない。
最後に、この件を引きずってもう一度埴生に手を出すようなことは決してないように、と、校長からくぎを刺された。
もう一度同じようなことが起これば学校側ももう庇えない……的な、それとない脅しもあったが、尊たち四人は概ね穏やかに、校長室から解放された。
のろのろ廊下を歩くうち、尊の胸の内へもやもやしたものがどんどんたまってきた。
無言で歩く尊の雰囲気に吞まれたのか、林もツレたちも無言だった。
校門の近くまで来た時。
いきなり尊は立ち止まった。
「林」
呼びかけ、尊は改めて林の顔を見た。
林は青ざめ、おびえたように尊を見返した。
「ちょっと……訊きたいことある。残ってくれんか?」
そして無言で尊を見るツレ二人へ、
「個人的に、林に確認したいことがあるねん」
と言い、自宅の鍵をたまたま近くにいた田中へ渡した。
「先に帰って、俺のウチで待っててくれへんか?」
二人はうなずき、校門を出て行った。




