12 信頼③
食べ終わり、三人はそれぞれひと息ついた。
尊は、紙ナプキンで口の周りの油を雑にぬぐっているツレたちへ、チラチラ目を当てていたが思い切って
「あの」
と話しかけた。
物問いたげにこちらを見る二人へ
「えと。その。朝めしメッチャ美味かったしありがとうやねんけど。なんでまたこんなん、わざわざ買てきてくれたんや?それも、こんな朝早い時間に……」
言いつつちらりと時計に目をやる。壁にかけられた時計は6時半をちょっと過ぎた時刻を指していた。
つまり、こいつらは5時頃には起き出して6時よりかなり前に待ち合わせをし、店で朝めしを買って6時過ぎにはこちらへ来たことになる。
田中と川野はお互いの顔を横目で見、ニヤッとした。
「別にィ。昨日帰りしなに、ナンでかマクドの朝メニューの話になって……」
田中が面倒くさそうな口調で言うと、川野が続ける。
「せやねん、久しぶりに食いたいなぁって盛り上がってなァ。ほんならハヤカワとも一緒に食おやないか、ゆーことになったんや。一緒に食うなら、お前が朝めし食う前に持って行かな意味ないやん?連絡入れても良かってんけど、突然持って行った方がびっくりするやろからおもろいかなって」
川野は笑う。そしてちょっと目を伏せ、
「まあ……俺は元々早起きやねん。ウチの仕事柄、朝も早よから仕込みとかでバタバタしてるから勝手に目が覚めるっちゅうのんか」
言い訳するようにそう言った。田中もぼそぼそと
「俺のウチも兄貴の仕事次第で、早よから起きることあるからな。早起き自体は別に苦にならん」
などと、取って付けたように言う。
(……嘘をつけ)
その割には二人とも、目がしょぼしょぼしているではないか。
色々はぐらかしているが、こいつらなりに尊のことを本気で心配し、気遣ってこうしてくれたことくらい、わかる。
尊は少し考えたが、礼だけをちゃんと言うことにした。
「そう……か。いや、ありがとうマジで。昨日の晩なんとなく食いっぱぐれてて、メチャ腹減ってたから助かったで。ホンマありがとう」
二人はふっと真顔になったが、すぐのん気な笑みを作ってみせた。
「はは。そんなん気にすんな。俺らは単に、朝メニュー食いたかっただけやねんから」
「そうそう」
ツレたちが帰った後、尊は熱いシャワーを浴びて身体をきれいに洗った。
今回の件は昨日の段階で、小波中の教師の一部と埴生の家族が漠然と知っている程度であり、埴生が入院してしまったこともあって宙に浮いているというか、ちょっと深刻なトラブルがあった…程度の認識で、一時的に止まっているらしい。
しかし今日以降の近いうちに、トラブルの当事者たちはその保護者を交え、話をすることになるだろうと川野は言った。
「ウチのアホ親には、昨日仕事がごたついたらしィて顔合わしてないから、まだ直接この件は言うてないねんけど。多分、例の従兄からメールくらいは行ってるやろうな。帰ったらすぐシメられるやろうけど、それはまあ……覚悟してる」
タバコをふかしながら川野が言うと、田中がちょっと疲れた声で
「俺は昨夜、兄貴に言うた」
とつぶやき、ポケットを探ってつぶれかけたタバコの箱を出すと、一本くわえて火を点けた。
「拳骨ひとつ、思い切り落とされたけど。一緒に謝りに行ったる、そう言われたワ」
尊は軽く目を閉じた。
昨夜、泰夫にこの件が知られたら生きてゆけないような、絶望的な気分になったが。
一晩眠り、食事をしたことで落ち着いたというか、心の芯の部分が定まった気がする。
たとえ泰夫に呆れられようが嫌われようが、自分の口からこの件の顛末をちゃんと話さなくてはならない、と強く思った。
おどおどと逃げているうちに他人の口から、思い込みや知ったかぶりでこの件を、雑に泰夫へ伝えられたくはない。
やってしまったことはなかったことに出来ないのだ、ならば覚悟を決め、自分が負うべき責任を負おう。
「俺はこの後、ヤッちゃん……叔父貴のところへ、行くことにするワ」
ツレたちは無言でうなずいた。




