11 十五歳の厳冬Ⅱ③
その後、埴生と同じクラスらしい倉田に、埴生の情報を少し聞き出した。
倉田とて埴生と親しい訳ではないから、大した情報を持っている訳ではない。
ヤツが2年B組のクラス委員長をしていること、部活動はしていないこと、時々遅くまで図書室に籠っているらしいこと……くらいしかわからなかった。
「図書室?」
尊にとっては職員室以上に縁遠い場所だ。
密かに母の殺人計画を練っていた小学生の頃、ちょっと離れた場所にある市立図書館へはちょくちょく行ったが、学校の図書室など授業以外で足を踏み入れたことはない。
学校内で物騒な計画の為の調べ物をするほど迂闊でもないし、度胸もなかった。
そもそも、蔵書の主流が絵本や童話、児童文学作品である小学校の図書室に、尊の欲しい情報は大してない。
市立図書館の方はともかく、中学生になって以来、尊が学校の図書室へ足を踏み入れた回数など、ほぼゼロだ。
「図書室なんかに行って、ナニしてんねん、ソイツ」
やや怪訝そうに川野が訊く。
倉田も首を傾げる。
「さあ。昼休みなんかにちょいちょい、分厚い本を面白そうに読みふけってますから、本が好きなんとちゃいますか?あいつ成績エエですし、テスト前は勉強してるんかもしれません」
聞いた瞬間、尊はどす黒いような思いが湧いてきて、軽い吐き気がした。
「けっ。どこまでもイキってんねんな。成績優秀なクラス委員長サマのご趣味は、これ見よがしに小難しい本をお読みあそばすことかい」
タバコの煙と一緒にそう言い捨てる尊へ、林と倉田が微妙に表情を曇らせ何か言いたそうにしたが、結局曖昧に笑ってごまかした。
「あの。あいつが図書室の常連らしいんは確かです」
一度軽く面を伏せた後、林が言う。
「今日あいつ、図書室で本読んでましたし」
「お前、そんなことナンで知ってんねん?」
田中が問うと、いえその、と、何故か林は目を泳がせた。
「たまたま、です。そのう、今日の放課後、学校終わってすぐ家に帰るんもうっとうしいんで、校内ウロウロしてて……寒さしのぎのつもりで何の気なしに、図書室行ったんです。ほしたらあいつがおって。雰囲気的に、図書室の空気に慣れてるっちゅうか、いつも来てるみたいな感じでした。思いがけんヤツに会うて、俺、懐かしなってつい声かけて……」
「あー、なるほど」
普段まったく接点のない、ヤンキーと他クラスのクラス委員長が何故、今日に限って一緒の帰るような状況になったのか不思議だったが、そういうことかと尊は納得した。
「アホのヤンキーがそんなトコ行くから、ツマラン目ェに合うんや」
川野に言われ、スミマセンと林は小さくなった。
「そう言うたんな。ヤンキーが図書室行くことそのものは、別に悪いことやないねんし」
尊が連日泰夫の見舞いへ行っていたせいで、結果的に林の放課後の居場所を奪っていたようだ。
うっすらと罪悪感がきざし、尊は林をかばった。
もう遅いということで、その日は解散した。
倉田と佐々木が、ここしばらく埴生の動向を探るということになった。
ヤツと『お話』をするのなら、出来るだけ邪魔が入らない状況で、じっくりとしたい。
だから放課後遅く、ひと気が少なくなってからの方が都合がいい。
今日のようにヤツはちょいちょい、図書室で下校のチャイムが鳴るギリギリの時間までいるらしいが、当然毎日ではない。
次に図書室へ行く日に、待ち伏せて『お話』しようと皆で決める。
埴生は、あまり周囲のことに興味を示さない、倉田いわく『一匹狼』らしいが、小波中学の生徒である限り『近年稀に見る』という枕詞がつく、学校の内外で『最凶トリオ』とすらささやかれている、尊・田中・川野の顔くらい知っていよう。
この物騒な三人に囲まれた時点で、詰んだと埴生が自覚してくれれば話は早い。
後は林に、心からの詫びを入れてもらおう。
一番大事なのはそこだ。
その前に二、三発、軽く殴るくらいは愛嬌の内だろう。




