日本ちゃんとアメリカくん
「はぁ、」
ついため息が漏れます。
最近、学校にいるのが憂鬱になるの。
仲のいい同級生もいるけど、同じクラスの人達からちょっと距離をおかれているのです。
私は普通の女の子で、普通の女子高校生だと思うんだけど。
婚約者というか、許嫁がいるとこは変わってるかもしれないけど、それ以外はわりと普通……だと思うんだけど。
固いとか、マジメ過ぎとか言われてるみたい。
他にも裏で変なことをしてるって、噂にされてるとか。
そんなにおかしなことをした憶えも無いのだけど、なんでそんな風に言われるようになっちゃったのかな。
たぶん最近、私に絡んでくるあの人のせいだと思う。
お昼休みに教室を出て階段を下りて自販機に。お茶でも買おうかな。
ぼんやりしてたら廊下で後ろから肩を掴まれて。
え? あれ?
ビックリしてるうちに引っ張られて廊下の壁に背中をぶつけて。いたた。
見上げるとそこには私のクラスの問題児。
いつも問題を起こしてる乱暴者の同級生がいて、私に覆い被さるように廊下の壁に手をついて。
えっと、これって……壁ドン? とかいうの?
睨むような三白眼、でも、ちょっとかっこいいかも……、
彼が私に顔を近づけてきて、ちょっと、近い、近いです。
「おい、日本」
「な、なに? 北朝鮮くん」
最近、なぜか私にちょっかいをかけてくる、不良の北朝鮮くん。
なんでそんなに私にかまうの?
「日本、お前、アメリカの奴とつきあってるって、ほんとか?」
「つきあってるっていうか、昔からの許嫁なんだけど」
「はん、許嫁? そんなもん昔に強引に決められたもんだろうが。あんな奴とは別れろよ」
「そ、そういうわけには、いかないわ。私ひとりじゃ、決められないもの」
「は、じゃあ誰が決めてんだよ? あんな奴とは別れろよ。で、日本、俺のものになれよ」
「やめて、北朝鮮くん」
ぐぐっと顔を近づけてくる北朝鮮くん、やだ、近い、近い。
北朝鮮くんはキスするみたいに顔を近づけて、
「でないと、俺、お前に……」
声を潜めて、耳許でくすぐるように囁いてきて、
「お前に、核、落としちゃうぜ?」
ダメ、そんな……、
核なんて、落とされたら、
私、メチャクチャになっちゃう!
「そこで何をしている!」
「ちっ」
廊下の向こうからこっちに走ってくる人は……アメリカくん?
「北朝鮮。お前はまた日本にちょっかいをかけてるのか?」
「アメリカ、てめぇには関係無ぇだろ」
「関係ある。お前はいつもいつも問題を起こしてばかりで」
「は、生徒会長様はご立派だねぇ」
この学校の生徒会長。
そして私の許嫁のアメリカくん。
ふたりはしばらく睨みあって、
「けっ」
北朝鮮くんが目をそらして離れて行きます。去り際に私とすれ違うときに、
「日本、俺は諦めねぇからな」
と、呟いていきました。
「まったく、なんであんな奴がこの学校にいるのか」
「あ、あの、ありがとう、アメリカくん」
背の高いアメリカくんを見上げながら言うと、アメリカくんは辺りをキョロキョロと見て、他の生徒がいないことを確認して、
「日本、お前はまた北朝鮮に絡まれてたのか?」
冷たい目で私を見下ろします。
「いちいち手間をかけさせるな」
「ご、ごめんなさい」
「まったくトロい女」
うぅ、ひどい。好きで絡まれてるんじゃ無いのに。
アメリカくんは私以外の生徒の前や先生の前では、立派な生徒会長です。
だけど、二面性というか、私相手には本性出して言いたい放題です。
「まぁいい。それで日本、金はあるか?」
「え? またお金?」
「今週、あのゲームの続編が出るのを忘れてた。だから、金」
「そんなにいつもいつもすぐに用意できないよ。国民さんに怒られちゃう」
「何を言ってる? 日本」
アメリカくんが冷たい目で私を見下ろして、ずいっと近づいて来ます。
「お前は俺専用のATMだろ。俺が金を出せと言ったら黙って出せばいいんだ。でなきゃ日本、お前みたいなグズをおれが守ってやるワケが無いだろう?」
「ひどいよ、アメリカくん……」
「許嫁なんて言っても、金以外の取り柄が無い女を相手にするのは俺ぐらいだ。それを解ってるのか?」
「うぅ……」
「まぁ、ただで金を出すというのも限界はあるか。俺の武器を売ってやる」
「そんな、私、武器なんて持ったこと無いのに」
「そんなだから北朝鮮になめられるんだろう。こっちも余った武器を売っぱらって経済復興したいからな。俺から武器を買ってそれで自衛しろ」
「そんなこと、急に言われても、無理だよー」
「ち、めんどくさい女。とにかくさっさと金を持ってこい。あと武器を買えるように早いとこ憲法を変えろ」
「簡単には変えられないよ。それに私の憲法を作ったのは、アメリカくんじゃ無い」
「グチグチグチグチと言い訳ばっかりか。そんなだからお前は時代に乗り遅れるんだ。とにかく、ゲームの発売日が明後日だから、それまでに金を持ってこい。いいな」
「うぅ……、はい」
言うだけ言ってアメリカくんは行ってしまいました。
私以外には外面いいのに、私には優しくしてくれない。
また、国民さんに怒られる。でもアメリカくんには逆らえないし。
いきなり武器を買えって言われても、そんなの家に持って帰ったら、国民さんにまた怒られるのに。
憲法、憲法かぁー。
イギリスさんもドイツちゃんもちょくちょく変えてるし。
1度も変えたこと無いって言ったら、遅れてるーって言われちゃった。
憲法九条を世界遺産にって国民さんはがんばってるけど、私の憲法を作ったのってアメリカくんだから、世界遺産登録ってアメリカくんになるんじゃない?
んー、校則違犯だけど、みんなスカートの丈を短くしたりしてるし。
今までやったこと無いけど、私が憲法をちょっとくらい、変えても、いいよね?
みんなやってることだし。
あと、アメリカくんにお金かー。
でも、アメリカくんが本性を見せてくれるのは私だけ。
これってアメリカくんが私に甘えてるって、ことなのかな?
そう考えると胸がキュンと鳴る。
金をよこせって言うアメリカくんの冷たい目。
お金を渡したときだけ、優しく頭を撫でてくれる大きな手。
そういうのが、ちょっと、好き。
あと、お金しか取り柄が無い、とか。
私って貢ぐだけの存在なんだ、とか
私って搾取されるだけの雌豚なんだって思うと。
身体が熱くなって、
背筋がゾクゾクしちゃう。
ハァハァしちゃう。
たまらない。
ごめんなさい、国民さん。
日本はちょっと変態な女の子です。