13 余韻と後悔と再会と
私が王都について今日で2日目です。
キルさんの護衛依頼は終わりましたが、まだ依頼報告はしていません。というか、王都に来てからずっと宿屋にこもっています。
キルさんは自分の仕事へ戻って行きました。
とても心配してくれましたが・・・最後にシースさんという人を知っているかと聞いてみたら、驚いていました。
シースさんは、王都に大商店を構える商会の会長だそうです。シースさんの商会は、この国でも第2位の規模だとか・・・
そんなにすごい人だったんですね。あの馬車の大きさにも納得です。シースさんラーファスで1番か2番くらいって言ってましたけど、ラーファスに限れば1番じゃないんですか?
そう思いキルさんに聞いてみると、シースさんの商会の店は王都を除くとラーファスの逆である、王都の北側に位置していると言っていました。それでも1番か2番くらいって・・・
因みに私が王都に来たことはキルさんに伝えてくれるそうです。
あぁ、今私がいる国についても説明しておきましょう。国名はエレクト王国。主要都市は、王都エレクタルをはじめとして、北のギヤイン、南のラーファス、西のセムス、東のゼネスだそうです。全く意味がわからない名前ですね・・・
そして、何故私がこもっているかというと・・・まあ、野盗の件がそうなんですけど・・・人を殺す葛藤については、もういいんです。なんとか割り切れました。でも・・・私とセムとキルさん、2人と一頭の命に対して、26もの人の命を奪ったことに対して、後悔しているんです。これだけは割り切れません。
セムもキルさんも結果助かったんだからいいじゃないかと言いますが、今の私には逆効果だと思いますけどね・・・
別に・・・塞ぎ込んでるとか、心の殻に閉じこもってるとか、そういうのじゃないんです・・・ただ顔を合わせずらい・・・
あーっ! もうっ! こんなのラーファスでヒソヒソ何か言われてたよりマシだって思えばいいですね! まああの時よりも嫌ですけど!
私は布団を蹴り飛ばして、外出の支度をします。
さっさと終わらして、王都の観光でもして息抜きしましょう!
「セムっ! 出かけるよ!」
するとセムは驚いて、
「主、もう大丈夫なのか?」
「なんとか吹っ切った・・・かもだから出かける! こもってたせいでまだ観光できてないからね!」
「う、うむ・・・」
その日はそのまま一日中王都を歩き回りました。
屋台村みたいなところで食べ歩きをしたり、王城を公園の丘から見てみたり、王都の中央にある広場で演劇を見たり、武具店まで行って武器を眺めたり・・・
武具店では訝しげな目線を送られましたが・・・
ともかく、結構楽しめた1日でした。ついでに、キルさんの店を探して、明日シースさんの商会に行って、シースさんにあう約束を取り付けてもらいました! ちょっと相談したいことがあるんですよね・・・
「じゃあセム、おやすみー」
「うむ。・・・主、明日くらいに、また毛皮の手入れを頼みたいのだが?」
あー、気に入ってくれたんだー。
「わかったよー」
おもいっきり歩き回った私はヘトヘト・・・なので、体を拭かず(宿には風呂はなく、お湯で体を拭くのが一般的)にそのままベッドに倒れこんで寝てしまった・・・
「–––はっ!! あちゃー・・・体拭かずに寝ちゃった・・・まあいいや、今からでも遅くないか・・・」
時間はおそらく早朝5時。外がもうかなり明るくなっています。
因みにお湯に関しては、硬貨を一定額入れると、設置してあるタライにお湯が出るという、なんとも先進的な魔道具が設置してありました。おかげで、従業員が起床していなくてもお湯を購入することができるようです。
そのままさっさと体を拭いて、服を着替えて外に出ます。
洗う服は、部屋の洗濯かごみたいなのに入れておけば、従業員が出かけている間に洗濯してくれるようです。乾かすのも魔法でできるから、結構早いみたいですね。
「セムー、おはよー。まだ朝早いけど、お手入れしちゃおうかー」
「うむ。主、おはよう・・・水はお湯にしてくれるとありがたい・・・」
まあ、こんな早朝で、まだ春だからね・・・特級Sランクとはいえ冷たいのは嫌なんだろう・・・
タライに湧き水で水を入れる・・・足りない。
これじゃあと10回はやらないといけないね・・・
「うーん・・・湧き水魔力10倍?」
–––ドッパアァァン!
着替えて30分後に新しい服にお世話になりました。たらいの中に関してはひたひたに水が入っているからダイジョーブ! だよね?
・・・持てなくてずっこけました。また水浸し・・・持っている最後の一着を着ました。
「はぁ・・・私ってこんなにドジっ子だったっけなぁ・・・というか・・・この口調にもなれるの早すぎ?」
そこはしょうがないと割り切りましょう!
さて・・・セムの毛皮のお手入れも終わったことだし、どこかへ出かけ・・・思い出しました。今日はシースさんに会いに行くんでしたね。そこで家を買う相談をするという・・・シースさんは不動産にも詳しいんでしょうか・・・
まあ、それは行ってみればわかりますよね。
ちなみに、シースさんの商会まではキルさんが案内してくれるようです。キルさんが宿に来るのは朝の9時。
あー・・・迷惑かけたこと謝っておかないとなぁ・・・まあ、しょうがないです・・・よね?
「やあ、ユミルちゃん、おはよう」
しばらくセムと宿の玄関横で戯れていると、キルさんが予定より30分も早くやってきました。
「キルさん、おはようございます。きょうはよろしくおねがいしますね」
「うん、分かった。それで、シース会長になんの相談をするんだい?」
「えっと・・・王都で今後何をするのかと、家を買いたいんです。だから一軒家の相場と資料をもらいたくてそれについても・・・まあそれくらいですね」
「なるほど、分かったよ。じゃあ行こうか」
「はい、わかりました。・・・っとセムは・・・宿で待っていてくれる?」
「・・・うむ、主がそういうなら・・・」
「ごめんね・・・ありがとう」
セムがちょっとかわいそう・・・まあ、これだけ大きいと目立ちますから・・・あと、セムは私のこと、主って呼んですけど、できればユミルって名前で呼んでほしいなぁ。
あと・・・キルさんに謝るタイミングがつかめない・・・今日別れる時でいいよね!? 別に逃げるわけじゃないよ?
キルさんが歩き出したので、私もついていきます。セムはおとなしく従魔用の小屋に戻って行きました。
今私が歩いているところは王都の4本の大通りのうちの一本ですが・・・って、脇道に入りましたね。
「キルさん、商会って、こんなところにあるんですか?」
「ん? あぁ、シースさんの商会はね、本部自体は事務関係の仕事しかしてないんだ。だから、表にある取引ができる場所は王都支店なんだ。シースさんはほとんどが事務関係の仕事だから、裏道にある本部にいつもいるんだよ。それに、本部の方が資料が多いしね」
「そうなんですか・・・」
結構考えているんですね。でも、こんなところに本部を構えるって、防犯関係は大丈夫なんでしょうか・・・
キルさんに聞いてみると、下の方の階で働いている人たちは、冒険者から商人関係の仕事についた人が大半なんだとか。だから、侵入者とかが入ってきても大体は排除できるそうです。それでもできない場合は、上の階にいる人たちが商会の自衛用の魔道具を装備しているそうなので、それで撃退するそうです。けっこう神経使っているんですね。
「ユミルちゃん、着いたよ」
「えっ? あぁ、ありがとうございます」
シースさんの商会の本部は・・・5階建の小さなビルでした。まあ、事務仕事だけの裏の本部なら、見た目を機にする必要もありませんからね・・・
キルさんと中に入ると・・・ほとんど何もありません。玄関の先は、来賓用と書かれた看板とその先にある廊下。そして、職員用と書かれた看板の先にある、階段だけです。ちなみにこの世界では玄関で靴を脱ぐ習慣はないみたいです。ただ、階段の前に人が立っていました。
「やあ、久しぶりだね。ユミルちゃん」
それは、街道にど真ん中から私を連れてきてくれた、シースさんでした。・・・って、ここら辺物騒なんですよね!? シースさんみたいな重要人物が下階にいて大丈夫なんでしょうか・・・・・・まあ、ともかく、まずは挨拶。
「お久しぶりです、シースさん!」
私の心情は・・・久しぶりにシースさんと会った嬉しさと、これから相談するということの緊張が混ざって、変な感じでした。
もう、人を殺したって言っていた時にはあった、不愉快な余韻は、そこにはありませんでした。
あっさり復活するのはいつものこといつものこと・・・
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