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迷走24

 その日の夕方、北見署で取調べを見守っていた倉野と比留間に、交通課により重大な報告が入った。松田弁護士が北川の勾留をやめさせるために「勾留取消請求」を釧路地裁北見支部に提出したらしい。今回の飲酒運転事故を担当している、釧路地検北見支部の中川担当検事より、交通課に連絡が入ったようだ。弁護士が検事に直接、別件逮捕状況の解消と共に、アリバイが立証された事件の取調べの不当性を主張。北川の身柄解放を求めたが、中川が拒否。それを受けて松田が勾留取消請求を裁判所に提出したらしい。


「いよいよ相手さんも動き出しましたか……」

報告を受けた比留間はさもありなんという口調だった。

「あり得るとは思ってたが、想定より早かったな」

「まあ、接見も思うように出来ないとなると、相手を刺激してしまったかも」

倉野とは対照的に、相変わらず第三者的な比留間の発言だ。倉野は内心むかつく部分もあったが、ぐっと我慢した。

「でも裁判所が検察、警察の言うことを聞かないなんてのは、まずないから。俺はそれほど心配はしてない」

「いや倉野さん。一応、吉見の件での逮捕勾留への切り替えも頭に入れておいた方がいいでしょ! 常に最悪の事態を考えておかないと」

比留間はこの時ばかりはかなり真剣な言い方になっていた。

「それもそうだな。考えておくか」

先程までの比留間の態度であれば、素直には受け取らなかっただろうが、今の比留間の姿勢には捜査を真面目に考えた上での発言に思えた。


「しかし、あの人はこのままずっとあの調子なんですかね? スマートにやれとは言いませんが、あんなやり方じゃ、警察批判に反論できんでしょ……」

比留間は道下の威圧的な取調べを注視しながら、呆れたように言った。

「こんなに理知的なタイプだったっけ?」

と倉野は比留間の言動に内心違和感を覚えていたが、よくよく考えてみれば、以前懇親会で飲んだ時に、酔った勢いからか、「警察は変革が必要だ!」としつこく言っていたのを思い出し、職場でこそ余り熱いタイプではないが、内心は色々考えているのかもしれないと思い直した。



 松田弁護士により勾留取消請求が提出されたことは、すぐに遠軽署の捜査本部、方面本部の捜査本部「別館」にも連絡が入り、こちらはこちらで軽く騒ぎになっていた。勾留取消請求の詳細な請求理由については、書面を見ていないので、捜査員達には具体的にはわからないが、おそらく「別件逮捕相当として不当」というのがその理由になっているというのが、大方の見方だった。倫子の事情聴取から戻っていた西田もそれを聞いていたが、おそらく裁判所は相手にしないし、いざとなれば本件事案に切り替えればいいと、ほとんど気にしていなかった。


 遠軽署に居た竹下は、それとは違う感想を持っていた。それは竹下が別件での勾留維持について疑問を持っていたからではなく、松田弁護士という人間の手法からすると、かなり「弁護士らしい」行動だと思ったからだ。通常通りの判断を裁判所が下すとなると、おそらく警察寄りの判断をするのが常道で、そこに敢えて正論で真っ向勝負してくる弁護士なのか、松田のやり方を聞く分には竹下には疑問だったからだ。

「ある程度勝算があるのかもしれないな」

と竹下は呟いた。


夕方、北川の取調べ状況についてと、西田達の篠田関連の捜査報告が、捜査会議でされた。篠田についての情報は、佐田の失踪事件解決の鍵になるかもしれないという期待感を捜査本部では持ちつつも、現状では決定的な情報ではないということが、いまいち「反応」を鈍くさせたかもしれない。しかし、それ以上に北川のアリバイによる、米田殺害事件の停滞感と相手弁護士による「逆襲」が、沈滞した雰囲気の大きな要因のように西田には思えた。


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