迷走9
それを待っていたかのように沢井が声を掛けた。
「どうだ? 何かわかったか?」
「少なくとも、それでも松重がやると主張した後は、やはり食い下がることもなく、そのまま引き下がったようです」
西田は会話の中身をそのまま告げた。
「うーん……。それにしても、たまたま義理の息子が容疑者で、本人がその事件に関わる可能性がある件で容疑者に有利になるようなことを言ったなんて……。こんな偶然が本当にあるのか?」
沢井は困惑を隠さなかった。
「そんな偶然があるのかないのか、正直自分にもわかりません。ただ、私が田中本人と会った時に、田中は自分の義理の息子の存在を私に話そうとしてました。もし田中が北川をかばうために採集を中止させようとしたなら、わざわざ刑事に北川の存在を明かしますかね?」
「なんで北川の話が出たんだ?」
「田中が採集を不要としたのは、国鉄関係者による遺骨採集が昭和52年にあったからということは以前説明しましたよね? その時、それを証明できる人間がいるかと聞いたんです。田中はそれに対して、当初『娘婿がいる』と北川の存在を匂わせたんですよ。私が親族は証言者として適切じゃないと、その時は否定して、それ以上話が進まなかったんですが……」
「なるほど。その時既に田中は北川の話をおまえにしているが、北川の犯罪を知っていれば、警察に餌をやるような真似をするはずがない、そういうことだな?」
「ええ。そしてなにより、田中の態度を見る限り、あくまで自分の印象ですが、犯罪性というものを知っていた上で、自分と対峙していたようには思えないんです」
「西田の勘がそう言っているのか……。だとすればそれなりの確信はあるんだろう。だが、この件については田中をもう一度聴取しないといけないと俺は思う。そうだろ?」
「それはそうですね。仮に田中が事実を知らなかったとしても、記事を見た北川が田中に、『調査会の調査は無駄だからやめるように言ってみたら』と、真の意図を隠して進言していた可能性はありますし」
「いつにしたらいいかな。タイミングが難しい。今日は無理だな」
「どうでしょう? 今は別件での逮捕ですから、関係者に聞くのは本件逮捕以降ということで? 」
「それが無難かもしれん。別件の時点で親族に本件の事情聴取となると、色々バレるかもしれない」
「まあどっちにせよ、あっちには既に弁護士が付いてますから。接見指定(弁護士と被疑者はいつでも接見できるのが原則だが、警察の捜査、事情聴取のために、接見の日時を警察側から指定することが出来る。親族は接見禁止の場合以外は接見できるが、制限事項が多い)するにせよ、いつまでも接見させないわけには行きません。そう遠くない時点でばれます。さっさと吉見のカメラの件で再逮捕で遠軽まで連れてくるのが先決です。そうすれば、田中への事情聴取も何も気にすることなくできますよ」
「そうだな。ひとまず、俺達がやるべきことは吉見の件で北川を追い詰めることだ。それに集中しよう」
沢井はそう言って、よりかかっていた西田の机から姿勢を正し、自分の席に戻ろうとした。その姿を見ながら、
「わかりました」
と西田は言うと、気を取り直して取調べのことについて集中して考えようとしたが、やはり田中と北川が親族だったという新たな事実が頭から完全に離れることはなかった。




