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序章4

 しばらく走った国道242号を抜け、横路の林道を通るとすぐに道端に「クマ出没注意」の立て看板が目に付いた。北海道の山中であればさほど珍しい「光景」ではないにせよ、あまり良い気分のシロモノではない。ましてこれから多少歩く必要性もあるのだから。未舗装の乗り心地の悪い砂利道を10分ほど走ると、森林の中にあるちょっとした広場の様なところに出る。先に軽トラックとセダン型の乗用車にミニパトカーが止まっていた。軽トラックはJRの文字が書かれていたので、保線区のものだろうが、乗用車はもしかすると被害者の乗ってきたモノかもしれない。ミニパトカーは言うまでもなく、丸山駐在所員のものだ。

「黒須、ナンバー控えて署に無線で連絡して照会!」

竹下は西田が言うまでもなく、先回りしてすぐに指示を出す。ひょっとすると保線区から連絡を受けた他のJR職員のものかもしれないが、現場まで行って確認する前に持ち主を確定させておく方が、むしろ無駄な時間を使わなくて済む。

 連絡対応の黒須を取り敢えず残し、西田は竹下と共に現場に急ぐ。


 徒歩でもある程度の時間を要することを覚悟していたが、多少上り下りが多かったのと足場が良くない程度で、時間にして5分も掛からずに目の前が開け、保線区員らしい数人と制服の丸山が集まっている様子が視界に入ってきた。

「遅れて済みません、遠軽署の者ですが!」

距離が100mはある段階で、西田が警察手帳を掲げながら声を張り上げた。

「お待ちしておりました」

丸山が気付いて敬礼をした。

「これはこれは早朝からお疲れさんです」

古参らしき保線区員が返してくる。

「どうも遠軽署の私西田と部下の竹下です」

目の前に来ると改めて名を名乗り挨拶する。

「こちらは保線区長の村田というもんです。こいつは吉田、大谷、里見、井上・・・」

全体で7人いる部下を1人ずつ古参区長が紹介するも、西田の目は既に横に見えた遺体の方を見やっていた。

そんな西田達と保線区員の挨拶が終わると、すぐに丸山は、

「遺体が所持していた財布の中から、免許証が見つかりまして、北見市内の吉見忠幸さんという人のようです。昭和25年の5月産まれですから・・・・・・45歳でしょうか。顔写真と遺体の顔も一致してますので間違いないでしょう」

と免許を西田と竹下に見せながら言った。そして、

「一応私も簡単に事情聴取はしましたが、後から刑事課の方達が来るので、二度手間になるとJRの人達にも迷惑かけますから、余り細かいことは聞いていません。西田係長や竹下さんが細かい点については直接お聞き下さい。必要があれば私も答えます。また、現場を荒らさないように、簡単な検証以外はしておりません」

と続けて言った。

村田区長はそれを受けて、西田が質問する前に勝手に経緯の説明をはじめた。

「3時半ぐらいだったかな、保線作業しようとトラックで乗り付けて、ここに歩いてきたら、何かマネキンみたいなもんが線路の近くに横たわっていて『ああ轢かれたか・・・・・・』と思って懐中電灯で照らしながら近づいてみると、特に遺体に傷もなくうつぶせになった死体があってね・・・・・・。ひっくり返してみると額に大きな傷があったわけ」

「なるほど、ということは今仰向けになっているのは、最初うつぶせだったわけですね?」

「係長、村田さんは一度またうつぶせに戻したみたいですが、私が確認のために仰向けにしました」

と丸山が割って入った。

「わかった。で、遺体の場所自体は動かしましたか?」

と西田は言った。

「それは動かしてないですわ。ただその場でひっくり返しただけだから」

「丸山も動かしてないよね?」

「勿論です、係長」

と丸山が答えた。

既に遺体と周りを調べはじめていた竹下が、

「これですね。この感じですと、即死かそれほど時間を置かずにあの世逝きかな」

と近くにあった地面に埋まっている、赤い染みのついた大きな石を指した。

「ええ、そのようです」

丸山も言った。

「こっちも素人だけどすぐにわかったよ」

と村田も言った。

「だったらそう最初から連絡してくれればねえ。こりゃ事故か」

と西田は内心思ったが、すぐに竹下の発言で覆された。

「係長、周辺におそらくガイシャ以外の1人分の下足痕(ゲソコン=靴跡)がかなり見受けられますね。保線区員の人達の履いている長靴タイプとは違う靴のようです。丸山のとも違う? よね。つい最近付いたモノのようです。サイズは27前後ですかねえ……。おそらく男かな、サイズ考えると

「私が来たときに既に目に付きましたので、保線区員の人達のものとも違うと、チェック済みです」

丸山はさすがにそこら辺にはぬかりがなかった。先に言わなかったのは、遠慮したからなのか、刑事達を試すためだったのかわからないが、そこまで性格が悪い若者とは思えず、刑事達に遠慮したのだろうと、西田は勝手に結論づけた。そして西田はすぐ顔を地面に近づけて調べると、確かに長靴とも丸山ともガイシャの靴とも違う態様の下足痕(靴跡)が1種類見受けられる。

「これはどういうことでしょうね・・・・・・。地面に埋まってるところから見ても、石で殴られたというより、頭を自分でぶつけたと考えるのが妥当でしょうけど」

竹下が困ったように西田に耳打ちする。

「確かに事故の可能性はあるが、もしガイシャ以外の誰かが居たとなると、ガイシャが誰かに地面に頭をぶつけられてってのは可能性があるからな。この下足痕の人物がどういう行動を取ったのかはっきりしないと何とも言えん」

西田も首を捻りながら言った。

その時、

「係長、主任、車の持ち主がわかりました!」

森の向こうから黒須が大声を上げて走ってきた。

「吉見忠幸という奴です!」

西田は竹下と目を合わせるとすぐに、

「黒須、それは今免許で確認出来た。悪いが署に鑑識派遣要請してくれ。ちょっと詳しく調べたい」

と叫んだ。100m弱は離れていたと思うが、黒須のややがっかりとした表情は見受けられた。「あの」距離をもう一度急ぎで往復する必要が出来たからなのは言うまでもない。ただ、あの時点で免許で確認できるかどうかは未知数だったから仕方ないことも事実である。


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