鳴動5
4人が署に戻ると、捜査本部では、北見屯田タイムスから持ち帰った購読者名簿を元に、ローラー作戦を実行するためのプラン選定が始まった。1000近くあるので、40人強程度の小規模体制だけに、かなり効率よくやっていかなくてはならない。まして会社や飲食店などの不特定多数が出入りする箇所も多いとなると、そこから更に購読者の実数がかなり増えることは確実であり、どこまで広げるかも判断が難しいことになる。一方で、この事件を解決するための、ある種最後の砦というべき事案だけに、徹底してやらないといけないというジレンマもあった。明らかに捜査本部に加わっていない遠軽署員にも応援を要請する必要があるだろう。
ただ、ローラー作戦をする上で、1つの点を捜査本部では重視した。それは、「そもそも何故、米田青年は殺されなくてはならなかったか」という点である。犯人を捜し出す第一歩として、「殺人事件として扱われていなかった事例を、3年後にわざわざ掘り返す必要があった」という点からアプローチをしかけている中、今度は「動機」を考えることにより、更に対象を絞れるのではないか?という考えである。明らかにこの地域に縁のない人間が、この地で行方不明になり殺されたということは、怨恨などということはほぼあり得ず、たまたま犯行に巻き込まれたというのが最も説得力のある推察だろう。問題は、その犯行が、本当に場当たり的な「通り魔」犯人による純粋な無差別殺人なのか、或いは何か理由があって巻き込まれたのか、きちんと分析しなくてはならないということである。
前者であれば、この数年の間に似たような事例が発生している可能性が高いが、そういう分類が出来る事例が現時点ではないということが反論として出てくる。また場所的に無差別殺人狙いの犯人がそれをするにふさわしいと言えるか、かなり疑問があった。勿論、「発覚しにくい」という意味ではふさわしい場所かもしれないが・・・・・・。
後者だとすると、意図したしないはともかく、ガイシャは常紋トンネル近辺で殺される理由になるような行為をしたということになる。米田は鉄道好きの普通の大学生であり、犯罪行為とは無縁で来たのだから、本人自身の悪意のある行為により、返り討ちの類にあったということはまず考えにくい。そうなると、完全に一方的に巻き込まれた挙げ句殺害されたという方が納得できる。よくあるパターンが、被害者が犯罪行為を阻止しようとして返り討ちにあった、或いは目撃による口封じ等が挙げられよう。
捜査本部では当然、巻き込まれ型による殺害の可能性を第一候補として考えた。特に見られてはいけない何かを目撃した、口封じによる殺害ではないか?という可能性が重視された。