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序章13

 それから5分ほど、これからどうするか課長と西田、竹下の3人で協議していた中、突然大場が声をあげた。

「ちょっと見てください!」

「どうした大場?」

竹下が問いかけると、

「今掘った6箇所にちょっとした共通点があると思うんですよ」

と答えた。

大場以外のメンバーが、叫んだ時以上に大場へ強い視線を一気に集めた。

大場はそれにとまどった表情を浮かべたが、6つの箇所をそれぞれ指で指すと、

「どの場所にも他より太い白樺の木がありますよね?」

と指摘した。

 確かに、白樺の木は点在はしていたが、太い白樺の木の根元と6つの穴は一致していた。

「それでですね、このちょっと先にもう1本、特に太い白樺の木があるんですよ」

確かに大場が新たに指した場所には、他の所より更に太い幹の白樺があった。他の太い白樺よりも回りに違う種類の木が何本かあったので、多少見えにくい場所にあるが、確実に今までの6本より太い白樺の木だった。心なしか、その白樺の周囲の他の木も太いように思えた。その場所は先程西田が掘られたような痕跡はなかったと確認していた。

「あそこはさっき俺が調べたが、掘った跡はなかった。ということは、もし大場の言うことが合っていれば、まだ一切掘られていないことになるな」

西田がやや興奮気味に言った。

「これはラストチャンスが与えられたってことかもしれないな」

課長がやや興奮気味に言うと、

「おい、おまえら、さあさあ全員で掘るぞ!」

と一声活を入れた。

 

 再び気力を取り戻した捜査員達は、課長の指示の下で、5分もしないうち50センチ以上掘り進んだが、特に何か出てくる気配はなかった。さすがにここもダメとなるともはや限界という現実にぶち当たるわけで、全員があきらめかけた瞬間、黒須のスコップが不自然に動きを止めた。

 そしてスコップを後ろに軽く、素早く投げ捨てると、無言のまま軍手で土をはき出した。明らかに何かを見つけた動きに、一緒に掘り進んでいた捜査員達も一度手を止めて、黒須の動きを凝視し続けた。その沈黙が20秒ほど続いたろうか、

「ありましたね」

と静かだが勝ち誇ったように黒須が言った。そこには、あばら骨と思われるアーチ状の骨の一部が剥き出しになっていた。課長も一瞬色めき立ったが、この時点ではまだ人間のモノかどうかはっきりしなかったので、務めて冷静に、

「慎重に全部掘り出して確認しろ!」

と指示した。手を止めていた捜査員達も鑑識を中心に慎重に掘り進めることを再開し、すぐに人間の頭蓋骨がでてくると、

「おおっ!」

という声がどこからともなく上がった。そこからはスムーズに作業は行われ、人間の一体の全身骨格が現れた。誰に指示されるわけでもなく、西田ら捜査員はそれを見て黙って手を合わせた。


「頭部に鋭利なものでやられたような陥没跡がありますね。間違いなく致命傷ですな」

鑑識主任の松沢が課長と西田に話しかけた。素人が見てもわかるように、頭蓋骨頭頂部に小さい陥没によって出来た穴が開いていた。

「ツルハシか何かかな」

「間違いなく」

西田の問いに松沢が即座に返答した。

「埋められてから数年は経ってるように思います。完全に白骨化とまでは言えないから、おそらく3年から5年程度じゃないかな」

「松沢の見立てじゃ3から5年か・・・・・・しかし今頃になって何故探しに来たんだろうな」

と竹下が横でポツリと言った。

この時点で単なる死体遺棄ではなく、殺人事件として人魂・幽霊騒ぎから発展したことが確定していた。


 遺体を完全に掘り出すまでそこから10分、更に他に遺留物がないか1時間調べ上げて、取り敢えずほとんど骨になった遺体を慎重にビニールシートに載せた。犯人が持ち去ったためか衣服の着用、発見はなかったが、頭蓋骨の歯には治療痕が残っていたので、被害者が誰なのか確定することは、捜索願が出ていれば確率的に低いとは言えないはずだと西田は思っていた。


 既に常紋の鬱蒼とした森の中は、日影になってやや暗くなり始めていたが、捜査員達は一時徒労を覚悟しただけに、「得た」モノの大きさに活気づいていた。確かに殺人事件の発覚という時点で不謹慎な態度だったのかもしれないが、刑事にとっての殺人事件捜査というものは、一般のそれとは違う感覚である以上仕方がなかった。そして、犯人ホシを捕まえることがなによりの仏への弔いになることもまた否定できない事実だった。


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