序章11
西田から話を聞いた課長は、
「なんだって? 本当か!?」
と驚き、
「何処だ? 早く見せろ!」
と西田に連れていくように急かした。
課長を連れて3人の元に戻ると、山側の少し小高くなっている、やや離れたところに3人が固まって何かを見ていた。
「おい、課長が来たぞ!」
と西田は叫んだ。
その声に気付いた大場が、
「課長、係長、ここに面白いものがありますよ」
と叫び返した。大場に言われてしぶしぶ行ってみると、簡易な石碑らしきものと墓、かなり朽ちた卒塔婆があった。面白いと言う言葉とは到底無縁のものであった。本人も本当に面白おかしいという意味で言ったのではないだろうが。
「なんじゃこりゃ?」
西田は突然出て来たモノに少々面食らって言った。課長も先程聞いたのと全く関係ない話で戸惑っているように見えた。
「石碑を見る限りですが、常紋トンネルのタコ部屋労働犠牲者の慰霊碑か墓標でしょう」
小村の指差した石碑には、若干風化していたが、確かに常紋トンネル殉難者慰霊の字が読み取れた。
「卒塔婆があるってことは、ここに犠牲者が埋まっているのか・・・・・・」
常紋トンネルの逸話を思い出し、思わず手を合わせた西田だったが、課長と他の3人も西田を見て同様にした。しばらくの黙祷の後、目を開けて振り返るといつの間にか竹下も様子を見に来ていたようで、状況を察し黙祷していた。改めて石碑の部分を詳しく見ると、西田が黙祷の前に思った通りで、周辺の探索の結果見つかった遺骨が納められているらしい。昭和52年に建てられたようだ。
「こんな山の中に埋葬されるんじゃ、死んでも報われんな、タコ部屋労働者は。誰も普段お参りなんてしてくれないだろ、こんな辺境にあっちゃ……」
西田はボソッと言った。
「いやさすがにここを辺境というのは、ちょっとオーバーじゃないですかね?鉄道も近くを走ってるし」
大場が笑いながら言ったが、
「いや、十分辺境だろ? 半径数㎞、人っ子一人いない山の中だぞ!」
と少々大人げなく反論する西田であった。課長も、
「辺境か……。そうなるとまさに辺境の墓標ということになるな……。うむ、確かに大げさかもしれないが、この寂寥感というか、そういうものを表現するのに『辺境』って言葉の選択は悪くない」
と、神妙な顔つきで頷きながら静かに言った。
「そんなもんすかねえ……」
多少不満げに大場は言った。しかしその直後、
「こんな状況だと、うちらが掘り返して骨が出て来ても、『こっち』の骨の可能性もありますよね?」
と、鑑識の三浦が刑事課の4人が敢えて言わなかった「死体遺棄」の可能性に、突拍子もなく言及したことに、刑事達はちょっと驚いて顔を見合わせた。だが実際問題、「幽霊」の謎の大掛かりな行動を考えると、死体が埋められている可能性が全くないとは決して言えないだろうと、刑事達は僅かだが思い始めてもいた。そして墓標から離れ、課長に6箇所の痕跡を見せると、
「これは確実に何かあるな……」
と呟き、
「ひとまず『腹が減っては戦が出来ぬ』って奴だ。飯食ってから一気にやろう!」
と西田達に指示した。