迷走30
「西田、竹下についてどう思う?」
「どうって言われても、困りましたね……」
酔いの軽く回った頭では、すぐに言葉が出てこないこともあったが、話題そのものが想定外だったため、答えようがなかったというのが本当のところだろう。
「俺はね、あいつはいつか警察辞めるんじゃないかと思うんだ」
向坂はそんな西田に構わず話を続けた。
「え? 竹下がですか?」
西田は更なる思わぬ展開に二の句が継げなかった。
「あいつ見てたらそう思わないか? いやな、本当のことを言うと、おまえを明日貸してもらおうとした理由は、竹下についての話をおまえとしたいと思ったからってのが、実は大きいんだよ。ところがおまえが今日北見に泊まるってんで、予定より早くこういう話になったわけだけど」
突然の自分を指名した捜査協力要請には、そういう意図があったのかと、西田は驚いた。
「そうだったんですか……。てっきり篠田の話が、そのまま理由かと思ってましたが」
「いや、勿論それもなかったわけじゃないけどさ……」
向坂はそう言うと、鶏皮を串から頬張った。
「向坂さんが言うとおり、確かに竹下は融通が利かないところがありますけど、刑事としての才覚はあると思いますよ」
「それは俺も否定しない。あいつは30半ばで、西田にも失礼な言い方かも知れないが、小さい所轄とは言え、遠軽署の主任になってるわけだから。その前は札幌の所轄で刑事やってたし。おそらくその頃からあの調子だったにも関わらず、この早い出世ってことは、昇進試験をパスしてるだけでなく、それなりの実績を挙げてるからに他ならないはずだ。間違いなく刑事としの将来も悪くないはず。大学も北海道じゃ北大に次ぐレベルの高い翔洋大学で、強豪の剣道部出身だからな」
「だったら、尚更辞めますかね?」
「辞めると思うね俺は。ああいうある意味『まとも』なうるさ型は警察組織としては邪魔だろ?」
「邪魔なタイプなのはその通りだと思いますけど、優秀ならそれでも抱えるのも警察だと思いますが?」
「そう。邪魔でも必要なら抱えるだろうよ。ただ、だからこそ、奴の方から見切りを付けることもありえるわけだ。それを言ってるんだよ、俺は。邪魔だが必要悪として抱えられることに、本人が納得できないって話」
「そういうもんですかねえ……」
西田はいまいち向坂の話に頷けないでいた。
「西田、おまえもわかってると思うが、警察ってのは上に行けば行くほど、汚い部分と向き合わなけりゃいかん。そりゃ下っ端の頃もそういう部分はあるが、上の汚さはそれを踏まえた上で更に汚いからな。あいつは頭も良いし、刑事としてもなかなか出来るから、ある程度の出世は確約されてるだろうが、だからこそ耐えられなくなるのも早いような気がするんだな、俺から見ると」
向坂の熱弁に耳を傾けていた西田だったが、ここに来て多少実感が湧いてきたのか、黙って向坂の猪口に冷酒を注いだ。
「難しいところですが、俺より経験のある向坂さんがそう感じるのなら、そうなのかもしれませんね。確かに竹下みたいのが、将来今の警察組織のままでふんぞり返ってるってのは、性格的にも考えづらいかな……」
「ああ、竹下が上に行ってるなら道警は大丈夫だろう。辞めてるならそのままってことだ」
向坂は、西田の猪口に酒を注ぎ返すと、突き放すように言った。




