序章10
「係長これですかね、人魂の正体は?」
大場が叫んだ。
「いやちょっと違うんじゃないか? ここは軽く窪地になってるし、線路方向に木がびっしり生えてるから、向こうからは見えないんじゃないかな?」
西田も一瞬、人魂の正体を発見したような感覚を覚えたが、咄嗟の小村の冷静な一言で考えを改めた。
「なるほど、小村の言うことは一理ある。ただ、このたき火自体は、幽霊騒ぎの奴がした可能性は十分にあるな。鑑識呼んで遺留物調べさせないと」
「確かに言われてみれば、小村さんの言うとおりですね。一方でたき火の周りの足跡を見ても、係長の言うとおりたき火したのは奴の可能性は高い」
燃えかすをしゃがんでじっと見ながら、大場も頷いた。西田は更に周囲を見回す。足跡の方向はまだ複数、先まで続いているようだ。
「まだ向こうの方まであるな。大場、ちょっと鑑識呼んできてくれ。俺は小村と先の方まで調べるから」
「わかりました。鑑識呼んできたら俺もそっち行きます」
そう言うと、大場は元来た方向へダッシュした。
「さて、小村はそっち方向の足跡を辿ってくれ、俺はこっちを行く。他の奴は、あっちで捜査してる課長達の仕事が終わってから、応援呼んでじっくり調べればいい」
そう指示すると、ゆっくりと2人はそれぞれの方向へ散らばった。
大場と共に鑑識の三浦が戻ってきて、色々調べ始めてから更に15分ほど経ったころであろうか、30mほど離れた場所を捜索していた小村が突然声を上げた。
「係長! こっちに何か掘ったような痕跡があります!」
西田と別の所を捜索していた大場が小村のところへ行ってみると、確かに最近地面をいじったような跡があった。
「ここら辺りにも下足痕が結構残ってるな。何かを埋めたのか?」
「幽霊」がなるべく見つからないようにしながらした作業である。場合によってはとんでもないモノを埋めた可能性はある。
「どうでしょう。逆に掘り返した可能性もありますよ。取り敢えずスコップ持ってきて掘り返しましょうか?」
小村の問いに、
「うーん、いや、もうちょっと周りを調べてからにしよう。他にも何かあるかも知れない。きちんと全部を調べ上げてからにしたほうが良いだろう」
そう西田が言うと、3人は持ち場に戻って再び調べ始めた。一通りの鑑識作業を終えた三浦にも手伝って貰うことにした。
すると5分もしないうちに、西田の持ち場にも地面が「いじられた」場所が複数見つかった。大場と三浦が発見したものも含めると、6つもあった。その後も靴跡が追跡できる場所はしらみつぶしに調べ上げたが、更なる発見はなかった。西田はこれ以上はないと判断し、元の場所に戻って課長とまず相談することにした。