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永久機関

眼が覚めると、そこは自分の家だった。フニフニと、自分の顔を触る。確かに感触がある。叩いてみる。痛い。時計に目をやれば、針は15時を指し示していた。

「どうして、俺が、ここに、なんで。」

混乱している頭をどうにか落ち着かせようとしていると、携帯が鳴った。

「良かった、繋がった!そ、颯太君、だよね?大変なの。蓮が、いないの。私、私、どうしたらいいのか、分からなくなっちゃって。えと、ええと。」

携帯から聞こえる結衣の声は、酷く混乱しているようだった。だけど、俺も今はよく分からなくて、混乱中なんだ。

「とりあえず落ち着けよ、結衣。」

俺がそう言うと、「そ、うだね。」と結衣は言い、深呼吸をする音が聞こえてきていた。

俺と結衣がいて、蓮がいない。その問題から導き出される答えは、1つしかない。俺が結衣の代わりに死んだように、蓮も俺の代わりに死んだんだ。

「これから、俺の家に来られるか?少し、話し合おう。」


俺の家に来た結衣は、酷く落ち込んでいると同時に、覚悟を決めた顔をしていた。なんの覚悟をしているかは知らないが、死ぬ覚悟というのなら、無駄な労力だ。

「昨日ね、蓮に颯太君の事を聞かれたの。でも、私、知らないって答えた。きっと、それがいけなかったの。私の所為だわ。」

結衣の目からは、涙が流れ出していた。

「今日目が覚めたら、お母さんにね、今朝熱があったから、学校に休むって連絡しといたわよって。蓮になんの連絡もしてないなって、メールしたんだけど返事が来なくて、それで、電話をかけてみたら、知らない人が出て、私思わず、家を飛び出して蓮の家へ行ったんだけど、チャイムを鳴らして出てきたおばさんは、『お線香あげに来てくれたのね』って。」

結衣の身体は酷く震えていて、流れ出る涙は、先程よりも増えていた。

「蓮はきっと、俺の代わりに死んだ。」

そう言うと、結衣は静かに頷いた。

「だから、また誰かが代わりに死なないといけないんでしょう。」

結衣はスッと立ち上がり、「次は私が。」と、一言呟くように言った。

「なーに考えてるんだよ。結衣が死んだら、蓮はまた、結衣に縋り付いちゃうだろ。蓮は、結衣依存症なんだからさ。」

立ち上がった結衣を座らせて、俺は玄関へと向かった。蓮には、俺よりも、結衣の方が必要なんだ。仕方ない、仕方ない。

「でも、私は、私は、颯太君にも、生きていて欲しいの!だから、颯太君、行かないで!」

結衣が俺の腕を掴む。俺だって、出来る事ならば、昔の様に3人で笑っていたい。だけど、無理なんだ。無理をして、俺の父親が死んでしまったように、知らない誰かを巻き込んで3人が生きるのなら、俺が死ねばいい。神様は世界を、3人で生きていくようには作らなかったみたいだ。

「結衣がいない世界の蓮は、壊れてた。何度も自殺を繰り返して、近寄る人なんて少ししかいなかった。俺のいない世界の蓮は、違うだろ?結衣がいるだけで、蓮は落ち着くんだ。自分で生を断つ事なんてしなかったハズだ。必要なのは、結衣なんだ。俺じゃなくって、結衣なんだよ。」

結衣の手を振り払い、全てを言い終えてから、涙が溢れた。それを、結衣にバレないように拭って、ドアノブに手を伸ばした。伸ばした手は、震えていた。

「じゃあな、結衣。」


松前神社への道のりは、何故か長く感じた。その長さを利用して、今迄の記憶を懐かしみながら歩いていると、そこはもう社の前だった。

蓮と一緒に屋上で弁当を食べて、一緒に下校して、休日に会ったり、蓮の家に泊まりもした。そんな高校生活を3人でやりたかったけれど、そこはまあ、仕方がない。不条理な運命。不条理な世の中。息苦しいもんだ。生まれ変わったら、そうだな、鳥にでもなって、この大空を羽ばたきたいなあ。それで、上から結衣と蓮を見てやるんだ。プライバシーなんてあったもんじゃない状況にしてやるぞ。


16時になって、社が扉へと姿を変える。迷う事なんてない。覚悟はとうの昔から出来ている。

扉の中へ入り、後ろを見る。これが蓮を最後にみた景色かあ。うん、まあ、悪くはない、かな。

「2人共、元気でな。」

俺が呟くようにそう言うと、扉は閉じた。

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