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消えない思い出

頭の中がゴチャゴチャとする。ゴチャゴチャ。ゴチャゴチャ。一度頭を落ち着かせよう。僕は、思わずその場にしゃがみ込んでいた。

大体、どうして僕は今こんな目にあっているんだっけ。どうして此処にいるんだっけ。

そうだ。結衣にある人物の事を聞いたんだ。だけど、結衣は知らないと言っていて、気分転換に外に出た。

「ふくしま、そうた。」

ポツリとそれを、僕は口にした。

ソイツの所為だ。僕が結衣の後を追ったのも、僕が散歩に行ってしまったのも、僕の頭の中がゴチャゴチャとするのも、僕が今、こんなにも悲しいのも。

スゥーッと涙が溢れたのを切っ掛けに、次々と涙が溢れ出して止まらない。僕は今、こんなにも悲しいというのに、どうしてこんなにも涙が溢れてしまうのか分からなかった。分からないのに、泣いていた。唯1つ言えるのは、ふくしまそうたのせい。顔も姿も分からない、ソイツの所為。


涙を流れ出させている時に、それは起こった。社が紫色に薄暗く光ながら、扉へと姿を変えた。あまりの事に涙は引っ込み、開いた口が閉まらずにいた。こんな思い、いつかどこかでも。


ペタペタと扉に触れてみると、僕の中に一筋の電流が走った。

“蓮ちゃん”

“蓮、会えて楽しかった”

“蓮”

知っている。僕は、知っていた。全部、全部思い出した。アイツと過ごした時間を、僕は、僕は。

「颯太。」

は、はは。どうして、お前が今此処にいないんだ。どうして、僕と、結衣と、2人だけなんだ。どうして、3人でいる事は叶わないんだ。僕は、3人でいたいんだ。過ごしたいんだ。くだらない事で笑ったり、したかったんだ。僕には結衣だけいればいいだなんて、今は思わない。お前も側に、隣にいて欲しいんだ。

「結衣も、颯太も、僕なんかの為に身体を張りすぎだ。」

扉の中へと歩みを進める。

「2人共、もういいんだ。僕は、本当ならあの時死んでいたんだから。」

あの時、あの場所に戻ろう。2人を、このがんじがらめになってしまった運命から解き放とう。誰かが生きれば誰かが死ぬのなら、僕は、2人の為に喜んでこの命を、2人に生かされ続けたこの命を、捧げよう。


扉に入り、後ろを振り返れば、最後の町の風景。出来る事ならば、2人の笑った顔が見たかったなあ、なんて思っていると、閉められる扉。

「ありがとう。」

誰にも聞こえていないだろうその言葉は、1人寂しく響き渡った。

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