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最期に

色んな記憶が駆け巡る。これが走馬灯という奴なのだろうか。

これから死にに行くというのに、不思議と心は軽い。だけど、それでも溢れてしまった涙。グイッと拭って頬をペチリと叩いて気合いを入れれば、もう其処は懐かしい世界線。結衣がストーカーに殺されてしまう世界。

結衣が死んでしまうあの時あの場所へ、急げ、急げ、馬よりも風よりも速く、速く。


駆けて駆けて、遂に辿りついた、俺の死に場所。

結衣はここら辺で死んだハズ…。辺りをキョロキョロと見回すと、結衣が1人で佇んでいるのが見える。結衣も、自分が蓮の代わりに死のうと、決心を固めた顔をしている。

結衣のストーカーが出てくるのを待ちながら、母親を1人にしてしまう事を思い出して、親不孝者を許してくれと、心の中で懺悔する。

結衣の事を物陰からジッと見張っていると、誰かが近づくのが見えた。

やっと俺を殺す奴が現れたのかと、重い腰をあげる。準備運動はバッチリなんだ。後は殺されるだけ。


ストーカーが結衣をナイフで刺そうとする。結衣は抵抗もせずに、その無機物を受け入れようと目を閉じていた。だから、俺の姿を確認するのに時間が掛かった。

「結衣よりも、俺みたいな死にたがりに手を貸してくれよ。」

予想外の人物にストーカーも、ナイフがいつまで経っても刺さらない結衣も、驚きを隠せていないようだった。

第三者の介入に、ストーカーは逃げ出して、結衣は思わずその場に倒れ込んだ俺に駆け寄った。

「颯太君、なんでここに!?どうして、私なんか庇って!貴方が死んでしまったら、誰が蓮のこと!」

携帯で救急車を呼ぼうとする結衣を止めて、俺は立ち上がる。

「結衣が、蓮の、側にいてやってくれよ。俺じゃ、ダメなんだ。俺が代わり死ぬから、だから結衣は、生きろ。生きて、蓮を幸せにしてやってくれ。俺達が殺しちまった、蓮の事、頼むよ。」

結衣は涙を流しながら、ただ1つだけ頷いた。ああ、安心したよ。蓮には結衣が、結衣だけが必要なんだ。結衣が生きてさえいれば、蓮はきっと、大丈夫。

「扉の鍵、借りたままにしとくぜ。」

これで結衣ともオサラバだ。最後の顔が涙を流しているなんてなあ。

「なあ、結衣に会えて、いや、なんでもないよ。」

そう言って、俺は結衣を後にした。


蓮が思い出してしまうかもしれないのを防ぐ為に、俺は今、河原に来ていた。

懐かしい。何もかもが。全部、全部懐かしい。此処で結衣と出会って、蓮と出会って、色々な事が合って楽しかったなあ。もうその事実は消えてしまったけれど、俺の中からは消えない。

蓮の事を救えずに悲しむのも、これで終わり。鍵を結衣に渡しちまったからな。

鍵は、扉の鍵。それを持っている奴は、どの世界線でも、自分は1人。2人になる事はない。あの日、指定通り結衣に会った時に貰った、いや借りた鍵。俺が此処で死んだら、全ての世界線の俺が消える。いなくなる。でも、それが蓮の為になるのなら。

「蓮、結衣、またな。」


流れ出る血に身を任せて、終いには冷たくなった男の手には、1枚のボロボロの紙が握られていた。そして、微笑みを浮かべていたという。

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