日常
今日も僕は、結衣のいない学校へ行った。自殺願望者だなんて言われているけれど、もうどうでもいいんだ。だって、もうすぐ結衣に会えるから。この壊れた世界を僕が正して結衣を生き返らせるから。
「あ、あの、木古内君、あんまり皆の言う事気にしちゃダメ、だよ?元気だしてね。」
僕に話しかけてきたこの女子生徒は「森陽菜」と言って、結衣とよく一緒にいた人物だ。森は、僕が周りの奴らの事を気にしてるのではないかと心配をしてくる。良い子なのだろうが、心配する所がいつも少しズレている。少しズレているせいで、人をイラつかせる事が多く、昔はよく虐められていた。結衣はそんな森を救った。結衣が森を救って以来森が虐められる事はなかったのだが、結衣のいなくなった学校ではどうなるのだろうか。まあ、僕には関係のない話だが。僕は、結衣を助けるのに忙しいんだ。
昼は、なるべく颯太と一緒に行動をする事になった僕は、集合場所の屋上へと向かっていた。母親に作ってもらった弁当と自販機で買ったお茶を片手に、階段を1段飛ばしで駆けて行く。もうすぐ、もうすぐ学校が終わる。そしたらあの社へ行って、すぐに結衣を助けるんだ。
そんな僕は、運が悪く人とぶつかってしまった。弁当だけはなんとか死守したから、多分中身は大丈夫だろう。
「ちょっと!廊下走るなんて危ないじゃないのよ!」
僕とぶつかった女子生徒はその後もギャーギャーと怒り、謝っても「気持ちが籠ってない」だの「第一廊下を走る事自体が可笑しい」だの言い始め、中々に抜け出すのが大変だった。そうだ、思い出した。さっきぶつかった女子生徒は確か風紀委員長の「八雲ひなた」だ。とても厳しくて1度捕まったら一生目を付けられるとかなんとか言われてる、結衣の足元にも及ばない人物。生徒会長でもある結衣の方が凄いし、可愛いし、運動もできるし、頭も良い。結衣は完璧だ。完璧過ぎて怖いくらいだ。
やっとの事で屋上へ行くと、颯太は待ちくたびれてしまったのか寝ていた。
「おい、僕が来てやったんだぞ。起きろよ。」
声をかけても起きない颯太に、僕は蹴りを入れてやった。
「ひっどい起こし方するなよ、もっと優しく起こしてくれてもいいんだぜ?蓮ちゃんよお。」
蓮ちゃんと呼ばれ、鳥肌の立った僕はもう1度蹴ろうとしたが、颯太が「ゴメンゴメン、そう怒るなよ。」と言うので止めてやった。
僕と颯太は、過去へ戻るあの不思議な社の事についていろいろ話をした。颯太も、あの社が扉に変化する所を初めて見た時は、驚いたらしい。
颯太の話によると、扉を開けると何処までも闇が続いていて、心がざわつく感じなのに目が離せない。颯太は気付くと扉の中へと歩みを進めていたらしく、あの時の自分はまるで何かに操られていたようだったらしい。颯太は当時、母親を亡くしたばかりで強くあの時へ戻りたいと願っていたからたまたまうまく過去へ飛ぶ事ができたのだが、もう1つの願いはそこまで強く思っていなかった為に、変な時間へ飛ばされ大変な思いをしてようやく元の時間、現在へ戻ってきたとの事だった。
学校が終わった。やっと、やっと始まる。やっとこの壊れた世界を正せる。結衣を生き返らせる事ができる。また結衣に会える。社へ行って4時になるまで待っていよう。そうしよう。
携帯の時計は、3時50分を指している。後もう少し、後もう少しだ。ああ、時間が経つのが遅く感じる。僕はもうこんなにも結衣に会いたいんだ。早くしてくれ。早く早く。
携帯の時計は、4時を指した。社が扉へと変化する。その扉を開け、足を踏み入れたと同時に、「木古内君?そんな所で何をしているの?」と誰かが声をかけてきた。ああ、アレは松前神社の娘の「松前心春」だ。でも僕はお前に構っている暇はないんだ。バイナラ。