立ち止まり
次の日、蓮は病院にいなかった。学校にもいなかったし、蓮と結衣がよく行っていたカフェや本屋にも、自宅にも、何処にも蓮はいなかった。
焦りしかない。俺が結衣の事をむやみに話すから。だから、蓮は何処かへ行ってしまった。また失敗か。またやり直さなければいけないのか。この永遠に続く螺旋階段を、俺は一体いつ迄昇り続ければいいのか。
絶望が体を支配しようと、俺に手を伸ばしていると、後ろから誰かの声がする。
「颯太君、頑張って。私と颯太君にしか出来ない事なんだよ。」
その声は紛れもなく、結衣の声。だけど、結衣はもういないハズ。でも、目の前にいる結衣が偽物にはちっともみえない。
「ゆ、い?結衣、なんで此処に?」
手を伸ばして、結衣に触れようとする。結衣は微笑む。
「颯太君、頑張って。」
そう言うと、結衣は消え始めた。待ってくれと叫んでも、結衣は消滅を続け、終いには完全にいなくなり、俺もハッとする。
「福島君、学校サボって、こんな所で何してるの?」
目の前にいるのは、心春だった。辺りを見回しても、結衣の姿はない。あの結衣が本物だったのか、偽物だったのか、はたまた俺の心が作り出した幻影だったのか、何も、何も、俺には分からない。
「福島君、どうしたの!?怪我でもしたの!?」
心春に言われ、自身もようやく気が付く。涙がこぼれていた。結衣の姿を、声を聴いたからなのか、頑張れと、螺旋階段を昇り続けなければいけない事が、決められたからなのか、いや、きっと全てだ。全てが俺を泣かした原因だ。後ろへ下がる道はもうないのだと改めて知って、現実を突きつけられて、俺は涙を流してしまったのだ。
「何でもないからさ、気にすんなよ心春。俺はこの通り元気だからさ!」
元気だとアピールするも、心春は怪しいといった顔を向けてくる。
「なんでもないのに、涙を流すの?何か、隠してない?」
ごもっともなご意見をいただき、戸惑う俺。どう切り替えしたもんか。扉の事を話したって、この世界の心春は信じてくれないし。
「まあ、いいわ。貴方が怪しいのはいつもの事だし。また、明日学校でね。」
予想外の返しに、ポカンとする。なんども繰り返している世界で、あんな引き下がる心春は初めて見た。これは結衣から、螺旋階段を昇り続けなければいけない俺へのプレゼントとって所かな。




