決裂
僕はどうやら、本当に1人になってしまったようで。まあ、結衣以外の人間には最低限の接触しかしていなかった僕は、ずっと1人だったと言っても過言ではないのだが。
颯太の、気が狂ったとしか思えない発言の次の日。僕は、まだやり直せると、颯太に声をかけた。そしていつものように過ごそうとした。でも、颯太は僕がわざと触れなかった話題に触れ、結衣を助け出すのをヤメロと、そう言ってきた。裏切りを許そうとした優しい心は見事に打ち砕かれ、僕は静かにその場を去った。
思い起こしてみれば、颯太とこんなにも仲良くなったのは、結衣の事件があったからだったっけ。結衣が死んでなかったら、僕はあの日教室で泣いてはいなかったし、結衣が生きているとしたら、それ以外の人とは全く関わらないから、颯太とは会う事もなかったかもしれない。結衣を取るか、颯太を取るか。そんなの決まってる。結衣に決まってる。僕は結衣が全てなんだ。それを知っていながら、颯太は僕を裏切ったんだ。裏切りを許そうとした僕の心意気を粉々にしたのは颯太だ。結衣の事は、僕1人で助け出してみせる。
屋上に、いや、学校のどこにいても颯太に見つかってしまうような気がした僕は、学校を抜け出して扉の所へきていた。まだ時間ではないから、小さな古ぼけた社ではあるが、その姿は微かな神聖さを残していて、それが僕のささくれだった心を徐々に癒しているように思えた。実際、気だけであって、颯太の事を思い出す度に少しだけイライラしてしまっている。
携帯がさっきからひっきりなしに鳴り続けている。相手は分かってる。颯太だ。でも僕はその電話には出ず、メールも見ず、落ち着いた手付きと、無の心で電源を落とした。ここにも、颯太はきてしまうだろうか。そんな事を考えて、でも颯太の事を考えるとイライラしてしまうから、無心で、ただ神社の裏手にある山へと僕は歩みを進めた。
ここの山にはどのくらい昔だったが、怖い噂話が流れていて、当時小学生だった僕と結衣も、恐怖と好奇心の混ざった心で、噂話は本当なのか確かめに行った事がある。僕の母親から聞いた話で、もう誰も知っている人はいないだろうと、そう教えてくれたのを僕は覚えてる。
山の中をどんなに探しても探しても何も見つからなくて、帰り道も分からなくなって、僕と結衣は両親にこってりとしぼられたんだ。
この山にも、僕と結衣の思い出が残ってる。自分の家へ帰っても、学校へ行っても、どこへ行っても、僕と結衣の思い出が深く刻んである。そんな結衣を、僕は手放したくない。結衣の死を受け入れ始めているだなんて、そんなのは嘘だ。大嘘だ。勘違いにも程がある。一体僕のどこを見てそうアイツは言ったんだ。ああ、なんだかまたイライラしてきたぞ。何もかもアイツのせいだ。全部アイツのせいだ。全部、全部、アイツのせいだ。もう謝ってきたって許さないんだからな。本当だからな。
扉の所にもアイツはいない。学校にも、家にも、ドコにもいない。
クソッ、あそこで道を踏み外したからか。
またやり直しだ。
このままだとアイツは死んでしまう。
アイツはすぐに自殺するんだ。
あの時もそうだった。
どうしてこんなにも失敗するんだ。
俺はちゃんと書かれてある通りにやっているのに。
まあいい。
また過去へ戻ればいいだけだ。




