蓮、授業をサボる
颯太にラブレターを出したのは誰なのか気になる僕は、次の日の学校で颯太に訊いた。颯太はその答えを言おうとはせず、先生に宿題を出してくると、行ってしまった。名前くらい僕に教えてくれたっていいじゃないかと思いつつ、僕は自分の教室へと向かう。教室では、僕の机を勝手に使って話している男子生徒達の姿があった。そいつらに声をかけてどかすのは簡単。だけどなんとなく面倒に感じた僕は、教室から屋上へと向かった。
屋上は静かだった。教室の煩い声は全く聞こえてこない。気持ちの良い風が頬をかすめていく。結衣がいた頃は、良く此処に来ていたっけ。なんだかそれが随分と昔の事のように感じて、僕の中で結衣の死を受け入れ始めているんじゃないかと、自分自身に少し焦りを感じる。そういえば、前に結衣を助ける為に過去に飛んで、どのくらい経ったのだろう。結衣を助ける事に失敗した僕は、失敗を恐れて億劫になっているのかもしれない。次も失敗してしまったら。その考えに縛られているのかもしれない。近々、過去へ行こう。そして、結衣を助け出そう。僕の中で、結衣の死が当たり前になってしまう前に。
今日は何もかも面倒な気分の僕は、屋上でそのまま寝る事にした。が、うとうとし始めた僕の睡魔を払いのけるように、誰かが屋上へと入ってくる。携帯の時計は9時を指している。まあ、授業をサボる奴なんて沢山いるか。そう思った僕は、入ってきた人物を気にせずに再び眠り始めた。
結衣の姿が見える。何かを伝えようとしてくるけれど、声は僕の所までは届かずに消えてしまう。次第に消えていく結衣に、僕は必死に手を伸ばすけど、その手が届くことはなく、手に入るのは少しばかりの空気だけ。完全に消えてしまう前に結衣は笑顔で僕に何かを言うけど、その声も僕には届かない。
ハッと目を覚ました僕は、嫌な汗を拭きつつ、隣に森が居る事に気がつく。
「木古内君、その、おはよう。良く、眠れた?」
森はそう言うと、「木古内君も、食べる?」とお菓子を差し出してくる。好意に甘えて、そのお菓子を少しだけ分けてもらい、僕はポツポツと少しづつ森と話し始めた。
「森でもサボる事あるんだな。」
僕の言葉に森は、「真面目そうに、見える?よくね、言われるの。でもね、私、皆が思っているみたいな真面目な子じゃ、ないんだ。」と言い、お菓子をポリポリと食べ始める。その森の表情はどこか悲しげで、僕はこの間、森を傷つけてしまったかも知れない事を思い出し、謝った。「別に、木古内君は悪くないよ?私が、私がね、弱いせいなの。気にしないで。」と、さらに悲しげな表情になる。やっぱり森とは、何を話したらいいのかわからない。苦手だ。授業をサボった罰なのか。
「私ね、この間少し考えて思ったんだけど、木古内君とあんまり話した事ないなって。私も、結構結衣ちゃんと一緒にいたのに、不思議だよね。」
お菓子を食べている手を止め、こちらを向き、森はそう言ってきた。思い起こしてみれば確かに、結衣と一緒いたのに、森とはまともに話した事が無い。昔から僕が森の事を少し嫌っていたせいもあるが、森も今より話しかけてこなかった気もする。森がこんな風に、少しづつ話しかけてくるようになったのはいつ頃からだったかな。結衣が死んでしまって、少し経った位の時か?それよりも少し前か?分からない。分からないけど、森がいつも一緒にいた結衣がいなくなってしまって、このままじゃダメだと、変わろうとしているのはビシビシ感じる。
「私、そろそろ行くね。」
残っていたお菓子を僕に渡すと、森は屋上を出て行った。
僕は森の事が苦手、というか嫌いだ。でも僕と違って森は結衣の死から前に進もうとしている。変わろうとしている。森は苦手。だけど、変わろうとしているのなら、僕も少しぐらいは協力してあげるべきなのか。そうでないのか。森の事になるといつも僕は悩んでしまう。何もかも面倒に感じる今日に限って、面倒な案件。僕は考えるのを放棄して、またもや眠り始めた。




