八雲のお手伝い
僕には友達がいない。結衣がいればそれで良かったから。小学の頃や中学の頃には結衣以外とも遊んでいたような気がしたが、ちっとも記憶にない。結衣がいなくなってからは、颯太が僕の友達になってくれた。颯太は僕みたいな無愛想な奴にも優しくしてくれて、一緒にいて面白くて、僕は満足してる。結衣がいれば別に構わない僕だけど、颯太が友達になってくれて、少しはを感謝している。
でも、これとそれとは全くの別の話であって、颯太が僕の為にと友達を紹介してきているが、いい迷惑なのである。
「颯太。僕は基本的には友達は作らないよ。面倒だし。」
僕はそう言うと、その場を離れた。後ろから何か聞こえてきたような気がしたが、振り向かないで歩き続けた。
颯太と別れ、そのまま下校しようとしていると、先生に捕まり教室で頼まれごとをしている僕は、夕方になってきてオレンジ色に染まっている校庭を眺めていた。なんで僕がやらくちゃいけないんだと思いつつも、作業を進めていく。プリントを整理してホッチキスするだけだから、簡単だよと先生は言っていたが、明らかに僕1人でやる量ではない。とんだ貧乏クジを引いてしまった。
残っているのは部活の生徒のみとなり、シーンとした空気が流れる。すると、廊下からカツコツと誰かが歩いてくる音が聞こえた。どうせ先生だろう。そう思っていると教室のドアが開けられ、出てきたのは八雲ひなただった。
「貴方、とっくに下校時間は過ぎていますわよ。ほら、さっさと帰りなさいな。」
八雲は、扇子を手にペチペチとさせながら言う。風紀委員って学校の見回りしてたのか。こんな時間まで残る事は、結衣に付き添う以外になかったから知らなかった。
「先生に頼まれたから作業してる。だから、まだ帰れない。」
僕がそう言うと、「困っている生徒に手を差し伸べるのも、必要な事ですわ。」と僕の前の席の椅子に座り、手伝い始めた。八雲がこういう事をする人だとは思っていなく、驚いていると、「顔に出ていますわよ。」と冷たい目線を向けられた。
八雲が手伝ってくれているおかげで、プリントはちゃくちゃくと枚数を減らしていった。やっぱり、1人でやる作業量ではなかったのだと、再認識する。
「そういえば、貴方は知内結衣とはどういう関係だったのですか?いつも、一緒にいましたわよね。知内結衣は私の永遠のライバルですの。だから、いつも傍にいた貴方の事も、ずっと気になっていたのですわ。」
八雲はいきなり口を開いたかと思うと、そう言ってきた。「幼馴染。」そう答えると、「そう、幼馴染。私はてっきり、お付き合いをしているものだとばかり思っていましたわ。違いましたのね。」と返してきた。そうか。僕と結衣が付き合っているように見えたのか。そうか、そうか。思わずにやけてしまいそうになる顔を、必死に僕は抑えた。けれど、抑えきれてはいなかったようで、八雲に少し変な顔で見られてしまった。
「私が手伝ったおかげで、貴方の予想よりも早く終わったのではないかしら。では、私はこれで失礼しますわね。」
ようやく作業が終わり下校する事の出来る僕は、八雲と別れ、急いで家へと向かった。
家へ帰ると、なぜかそこには颯太の姿があった。
「よっ!遅いじゃねぇか!家には早く帰らなくちゃダメだぜ。」
僕の家にいるのが当たり前のようにくつろいでいる颯太に、「なんでいるんだよ。」と若干ムッとしながら言うと、「困ってた所を助けてもらったのよ。それでね、いろいろお話をしてたら今お母さん出張中だって言うから、晩御飯どうですか?って誘ったの。」と母親が答える。
フンフンと鼻歌交じりに晩御飯を作っていく母親。なんだか今日はやけに上機嫌だ。そんな母親を尻目に、颯太は僕のノートを書き写している。毎回毎回、何度注意をしても、颯太は授業中に寝てしまう。その気持ちは分からなくも無いが、授業は聞いておいたほうがテストもだいぶ楽になるってのに。だから、颯太は赤点とか取るんだよな。
晩御飯が出来上がると、そこにはこれからパーティでも始まるのかというような、料理が所狭しと並んでいた。「蓮にお友達がいるなんて、ママ嬉しいわ。だからちょっと張り切っちゃった。」と、本人は言う。鼻歌交じりの上機嫌な時点で気付いておくべきだったか。
「明日は学校お休みだし、下着ならまだ使ってないパパのがあるから、泊まっていっていいのよ?」
と、半強制的な母親の言葉で泊まっていく事になった颯太は、僕の部屋で提出期限の過ぎている宿題と戦っていた。逃げ続けた結果、八雲越しからではなく、とうとう先生に怒られたとの事で、焦って問題を解き続けている。が、どれもこれも正解とはいえない解答。その事を颯太に言うと、「当たり外れではなく、書いてあるという事が大切なんだよ。」との事。それで再提出になっても、僕は知らないぞ。




