松前のいなくなった世界で
何度も何度も颯太に説得され、ようやく自殺を止める事が出来た僕は、松前が一体どうやって過去を変えようとしたのかを考えている。
どのくらい過去へ戻ったのかは知らないが、松前が過去へ行った事で松前は2人になっていたはず。自分の兄を殺すとなると、家族なんだし同じ家にいるよな?同じ家にいるという事は過去の松前と現在の松前が会ってしまう可能性もある。自分が未来から来た人物だとバレてしまったら、時間の歪みを直すために松前は消えてしまう。松前はどういう作戦でいったのだろうか。
確か主婦達は、「前から少しおかしかった」「学校にも行かずにボーっとしてるだけ」と言っていた。前から?いったいどのくらい前なんだ。高校の事は、松前の父親が言っていた通り行ってないのだろう。という事は中学か、それよりも前に松前は自分の兄を殺そうとしたのか?主婦の会話の中には「自分の兄である夏輝を殺そうとした」というモノもあった。高校生の松前が、自分の事を中学生だと言い張るには少し難しい。未来の松前が兄を殺しても、過去の松前が殺した事にはならない。なぜなら、過去の松前と現在の松前では年齢が違う上に、見た目も違うだろうからな。松前似の誰かが夏輝を殺した事になるだろう。
じゃあ松前は、どうやって兄を殺そうとしたのだろうか。謎は深まるばかりで、一向に解決しない。頭の中のモヤモヤと胸の中のモヤモヤが交じり合って吐き気がする。僕は何をすれば良い?そうだ。僕は結衣を助け出さないとけない。こんな壊れた世界を直す為に、僕は1度過去に戻ったんだ。それは失敗に終わったけど、次は必ず救い出してみせる。
「なぁ蓮ちゃん。副会長の事は残念だと思うよ。でもさ、蓮ちゃんはちゃんと止めた方がいいって言ったんだ。それを振り切って過去へ行ったのは副会長だろ?そんなに蓮ちゃんが悩む事はないって。副会長には悪いかもしれないが、自業自得ってやつだよ。」
松前はどうやって過去を変えようとしたのかという話を颯太に持ちかけると、颯太は僕にそう言ってきた。颯太はどことなく、松前に冷たい気がする。扉の力を人殺しに利用しようとした奴の事を、心のどこかで許せないのだろうか。
颯太の冷たい言葉に、少しばかりの重たい空気が流れていた時だった。屋上の扉がバーンッと勢い良く開かれ、1人の女生徒が現れた。
「もう逃がさないわよ!福島颯太!まだ課題を出していないのは、貴方だけですのよ!」
女生徒、いや、風紀委員長の八雲ひなたは、ズンズンと此方に近づいてくる。名前の呼ばれた颯太は「ヤベッ!」と言うと、急いでゴミなどを片付け、八雲の隙を突いて逃げ出した。残された八雲は、「また逃げられましたわ!課題の提出期限はとっくに過ぎてるというのに!」と1人でプンスカと怒っていた。
颯太が逃げ出した事により1人になってしまった僕が1人で固まっていると、八雲は颯太を追いかけずに僕の方へ近づいてきた。前に廊下でぶつかった事があるし、その事で怒られるのだろうか。1掴まったら、卒業するまで目を付けられるとか噂をされている八雲の事だ。ぶつかった時から日にちが経っていても、怒るに違いない。
「知内結衣の事は、私も残念ですわ。お互い、頑張りましょうね。」
八雲はそう言うと、屋上から姿を消した。結衣の事を悔やんでくれているのはありがたいが、一体なにを頑張れというのか。会話をした事もないし。ああ、ぶつかった時に少しだけしたか。って、それだけしか八雲と接点がないのか。まあ、僕友達少ないからな。少ない所か、颯太が僕の友達になるまでは、結衣としか話してなかった気がする。結衣は同じクラスだし、困った事は1度もないから別に気にしてないんだけどな。




