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過去を変えるという事

私の手違いで、9話と12話の間のお話が抜けていました。「失敗後の学校」「松前心春の願い」という題名のお話です。まだ読んでいない方は、お手数ですがそちらを読んでからの方がより楽しめるのではないかと思います。

僕は過去へ戻り、過去を変えるという事がどんなに大変で、どんなに凄い事なのかという事を理解していなかった。松前が誰かを消し去りたいと過去へ戻り、それを止めなかった僕は今、死のうとしている。この行為に至るまでにはある出来事があったが、今の僕が出来る事とは自殺以外には思い浮かばない。

学校を飛び降りようと思ってフェンスをがしがしと登っていると、屋上の扉が勢いよく開かれ、何者かによって僕の自殺は未遂に終わる。

「何やってるんだ!お前が、お前が死んだら、結衣の事はどうなるんだよッ!」

どうやら、扉を開けたのも僕の自殺を止めたのも颯太らしい。颯太はぜぇはぁと、息を切らしている。僕なんかの為に急いで来てくれたのだろうか。颯太は僕と違って優しいからな。

僕がずっと虚ろな目をしていると、パンッと颯太にビンタされた。あまりに痛くてあまりに急な事で、僕はハッと我に返った。

颯太は泣きそうであって、怒ってもいるようだった。僕があまりにも自傷行為や自殺をするものだから、堪忍袋の尾が切れたのだろう。でも僕は颯太が怒ってくれるような、そんな人間じゃないんだ。どちらかというと殺人者よりというかなんというか。とにかく、颯太が自分の手を汚してまで怒る様な人間じゃないんだ僕は。

「副会長が死んだのは、蓮ちゃんのせいなんかじゃあない。蓮ちゃんは気にし過ぎなんだって。ほら、前にも言っただろ?蓮ちゃんは心配し過ぎな所があるって。」

そう。生徒会副会長、いや現在は生徒会長の松前心春はもうこの世界に存在していない。松前は過去へ戻り、誰かを殺す事に失敗した。そして現在に戻ってきたであろう松前は、自殺したのだ。


松前は過去へ行ってから、中々姿を表さなかった。僕は、過去を変えるのに手こずっているのだろうと思い、そのまま何事もなく松前に帰ってきて欲しかった。颯太も言っていた通り、扉の力を人殺しの為なんかに使っては欲しくなかったから。

そう願って1週間が経った。おかしい。未来から過去へいられる時間は4日のはず。それが今はもう1週間経っている。松前は颯太の事をなんだか信用できないと言っていたが、僕は颯太に、松前が過去へ戻ったが帰ってこないという事を打ち明けた。颯太は、「神社に行こう。もしかしたら誰かいるかもしれない。その人に副会長の事を尋ねてみようぜ。」との事だった。僕の頭の中は、嫌な予感だけが存在していた。


「あの、すみません。松前心春さんはどうしていますか?」

神社の掃除をしていた人物に声をかける。颯太がヒソヒソと話してきた内容によると、この人は松前の父親らしく、丁度良い人に松前の事を尋ねる事が出来て少し安心する僕に、松前の父親は怪訝そうな顔をして「何故、心春の事を知っている?」と答えた。ポカンとしている僕に代わって、颯太が「俺達は松前さんの高校の友人なんです。」と言う。その言葉に松前の父親は少し溜息をしてから、「心春は学校になど行っていないが。君達は一体誰と勘違いしているのかね?」と答えた。僕は驚いて何も言えずにいたが、颯太は続けて質問を投げかけた。が、その質問に松前の父親が答える前に、携帯が鳴った。どうやら松前の父親からのモノらしく、「失礼。」と言うと、電話に出た。

電話に出た瞬間、松前の父親は顔が一瞬で青ざめたかと思うと、一瞬で赤く、まるで茹でタコのようになり、「あの馬鹿娘が!どんなに私達に迷惑をかければ気が済むんだ!」と電話の相手に言ったのか、僕達に言ったのか分からないが、叫び、神社を大急ぎで後にしていった。思わず僕は颯太と顔を見合わせた。


次の日の夕方の事だった。僕の家の前の道で話をしている主婦から聞こえてきた会話に、僕は耳を疑った。

-ああそうそう、松前神社の所の娘さん昨日自殺したらしいわよ?

-あの子、前から少しおかしかったものね。

-そうそう。確か、自分の兄である夏輝君を殺そうとしたんですってね。

-ホント、怖いわよねぇ。

-松前さんも大変よね。私の子供がああでなくて良かったわ。

-学校にも行かずにただボーっと家の中にいるだけ。そんな気味の悪い妹がいながら、進学校に受かった夏輝君は本当、大した者よね。私の子供もああいう風になってほしいものね。

松前が自殺をした?そんな、そんな嘘だ。つい最近まで学校にいたんだぞ?いないなんて、自殺したなんて、そんな、そんな嘘だろ?

取り合えず落ち着こうと、颯太に連絡をする。颯太は「そうか。そういう事だったのか。詳しい事は明日学校でな。」と言うと、電話を切った。落ち着けない僕は、まだ電話を切って欲しくはなかったが、また颯太に電話をかけるのは少し焦り過ぎかと思い、止めておいた。

ボフッとベットに横になる。考えるのは松前の事ばかり。自殺。ジサツ。じさつ。その言葉のみが僕の頭を支配する。もう他には何も考えられないぐらいに。あんなに自傷行為や自殺をしておきながら、松前の自殺にこんなにも僕は動揺している。


気がつくと、夜になっていた。どうやら僕はそのまま寝てしまっていたらしい。リビングに下りると、母親が僕に手紙を渡してきた。

「なんかね、今日スーパーの帰りに松前さんの所の奥さんに会った時に渡されたの。これを貴方の息子さんに、って。蓮ってばいつの間に、松前さんの娘さんと知り合いになってたの?」

母親に渡された手紙を僕は勢い良く受け取り、ゆっくりと読む為に自室へと駆け込んだ。夜ご飯はどうするのかと母親に訊かれたが、体調が悪いからもう休むと答えておいた。仮病、いや少しばかり気分が悪いから仮病ではないハズだ。

「木古内君へ

この手紙を貴方が読んでいる時、私はもうこの世には存在していないかもしれません。

私は今、とても後悔をしています。してもしきれません。やはり扉の力を人殺しの為なんかに使うべきじゃなかった。敗因を上げるとすれば、私が松前の娘として生を受けたという事でしょうか。

木古内君には、私が誰を殺したかったのか伝えてなかったと思います。私は、自分の実の兄である松前夏輝を消し去りたかったのです。理由を訊かれてしまうと長くなるので省略します。

私が夏輝を殺す事に失敗して、タイムリミットで現在に戻された時、私は違和感を強く感じました。

兄を殺そうとした妹は家の中で徹底的に隔離され、不出来な妹と何でも出来る兄。そんな勢力関係が出来上がっていたのです。松前の中で私は存在していないかのように扱われ、私の周りの空気はどんよりと重く沈んでいました。

つい最近までは、私と兄の勢力関係は反対だったのに。なんでも出来る妹と不出来な兄。それが少しの事で変わってしまいました。

隔離されているせいで、私は外に出られない。扉の所へ行く事が出来ない。過去はもう変えられない。

やっぱり、木古内君の言う通りにしておけば良かった。

松前心春より」

綺麗な字で手紙はそう書かれていた。

僕が、僕があの時止めておけば良かったんだ。僕のせいだ。颯太にも相談しないで、僕だけで考えて決めてしまったから。僕が間接的に松前を殺したんだ。僕が。僕が、僕が。僕は人殺しだ。殺人者だ。僕がもっとちゃんとしていれば松前は死ななくて済んだに違いない。絶対そうに決まっている。それしか、僕には考えられない。


そして次の日、僕は自殺を図った。

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