1人
僕は結衣を助け出す手段を知ったから、自殺行為などはしなくなっていた。でも、それでも僕は結衣がいなくなった瞬間から可笑しくなってしまったのだろう。ふとしたことがきっかけで、自分の腕を切ってしまう。いわゆる、リスカと呼ばれるものだ。これを颯太に見つかると面倒なので、いつものように僕は処理をする。いつものように。その考えや行動が普通の人とは違うのだろうと、僕は自分で気がついている。自傷行為や自殺行為、結衣のいないこの世界ではなんの意味もない。しかし、それをする事でしか僕は僕であると、今この世界に存在しているのだと納得ができないのだ。
「結衣・・・会いたいよ。」
ポツリと呟く言葉。今でも鮮明に思い出せる結衣の笑顔。早く結衣を助け出さないと。今の僕は、それだけを原動力にして生きていると言っても、過言ではない。
「最近は颯太が近くにいたから、1人は珍しいな。」
今日は風邪を引いたとかで、颯太は学校を休んでいる。馬鹿は風邪を引かないと聞いたが、どうやら嘘らしい。
屋上へ行き、落ち着いて昼を食べるのも悪くないなとパンを貪っている時だった。屋上の扉がガチャリと開き、誰か昼でも食べに来たのか?と出入り口の方をチラリと見てみると、そこには森陽菜が立っていた。
「あ、き、木古内君。奇遇だね。わ、私も一緒に食べて、いい、かな。」
モジモジしながらポソポソと言って来る。森は緊張したり恥ずかしがると、すぐに顔が真っ赤になる。すごく分かりやすいタイプ。
「勝手にすれば。」
僕がそう答えると、森は「うん。分かった。」と言って僕の隣に腰を下ろした。
無言で食事を取っていく。何か話した方がいいかと、僕が頭を張り巡らせていると、森が口を開いた。
「ね、ねぇ、木古内君。その手首、だ、大丈夫?えっと、その、リスカ、だよ、ね?私のね、お姉ちゃんがよくしていたから、えっと、つまり何が言いたいのかって言うとね、ひ、1人で、抱え込まないで・・・?」
森に手首を指摘され、僕は思わず森からは見えないように隠した。森は言わないほうが良かったかなといった感じで、俯いている。
「別に、これは僕の問題だ。森が気にする事じゃない。」
そう言うと、益々森は俯いてしまった。僕は昔から傷つけるつもりはなくても、人を傷つけてしまう事が結構ある。森は気弱な奴だから、今ので泣いてしまうのではないかと後悔している。
「うん。そ、そうだよね。ごめんなさい。」
森はそう言うと、屋上から急いで立ち去ってしまった。
どうやら僕はやってしまったようだ。森が泣いていたかは見れなかった。が、泣いていても仕方ないだろう。なにか今度お詫びをしなくては。謝るぐらいで大丈夫か?まあ、大丈夫だろう。傷つけるつもりはなかったと弁解もしておこう。そうしよう。




