プロローグ
竜も斬った。
魔王も斬った。
勇者も斬った。
強者と呼ばれる者たちを、粗方斬った。
強者だけじゃない。
俺は剣士だから、剣で斬れるモノは何でも斬った。
女、子供、老人。
助命を請う声も、全て無視した。
目の前にある動くモノは平等に斬り伏せた。
俺は斬れるモノを探して、荒野をさまよっていた。
携えていた食料も水も、もう無い。
飢えも渇きも、既に感じなくなっていた。
あるのは、剣を振るうことへの渇望だけだ。
乾いた風、埃にまみれた体。
倒れこんだ俺を、砂と石ころが受け止める。
もう、立ち上がることはできそうにない。
砂と埃にまみれた世界で、俺はひっそりと生涯を閉じようとしていた。
誰にも負けずに終われるのなら、それは幸せなことなのかもしれない。
少なくとも俺は、俺の知る世界では最強のまま死ねるのだから。
「満足か?」
そんな俺に声をかける者がいる。
女の声だ。
俺の視界に人の姿はない。
声の方を見るのも億劫になるほど、俺の体は弱っていた。
「……満足だよ」
カラカラの喉が、搾り出すように声を出す。
声を出すのはいつ以来だろうか。
「嘘だな」
否定される。
厄介だな。
声を出すのも大変だと言うのに、議論などしたくはない。
「お前は今まで何のために剣を振るってきたんだ? そんなことすらわからないまま、終わるのか」
何を言ってるんだコイツは。
馬鹿馬鹿しい。
剣を振るうのに理由などいらない。
剣は斬るための道具だ。武器だ。
斬る対象がいれば剣を振るえば良い。
それだけだ。
「今からお前に呪いをかける。お前が剣を振るう理由を見つけたとき、呪いは解かれるだろう」
そんなものはとっくにわかっている。
そう言おうとしたが、そのとき既に俺は肉の体を失っていた。