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魔女の娘

作者: 革野みなり

「ジウ!どこにいるの?ジウー!」

母の呼び声にジウターニャは目を覚ました。

木の下で本を読んでいたのだが、いつの間にか眠ってしまったらしい。

もう空は赤く、回りの畑の人々も引き上げていた。

「ごめんなさい。母さん。ここだよ」

ジウターニャは手近な落ち葉をしおりがわりに本に挟み母のもとへ駈けていった。

「もう。ジウ、心配するじゃないの!こんな時間まで何してたのよ!」

「ごめんなさい。本を読んでたら、寝ちゃって…」

母はまたなの、と呆れた表情を浮かべた。

実をいうと、これがはじめてというわけではない。

よくやらかしてしまうのだ。

「母さんね。貴方が心配なのよ。お願いだから、もうこんなことはないようにしてちょうだい」

母はジウターニャの肩に手を置き、悲しそうに言った。

それを聞くとジウターニャはやるせない気持ちになり、寝てしまったことをとても後悔はした。

物心つく前に父を亡くし、母は女手一つでジウターニャを育ててくれた。

母が悲しむのは、一番見たくない。

「もうしないよ。母さん、ごめんなさい。」

ジウターニャが言うと母はにっこりといつもの笑みを浮かべる。

それだけで、ジウターニャも幸せな気持ちになった。

「わかればいいのよ。さあ、帰りましょう。今日は貴方の好きな、羊の肉のスープよ。」

ジウターニャはパッと顔を輝かせた。

母はクスクス笑い、ジウターニャに手を差し出す。

ジウターニャはそれを握り、母と共に家路についた。


* * *

家に帰ると母はさっそく夕飯の支度を始めた。

半時間ほどすると、とてもいい香りが漂ってくる。

ジウターニャはテーブルにつき、夕飯ができるのを待った。

「さぁ、できたわよ。」

母がテーブルにスープの入ったお椀とパンをののったお皿を置く。

それと、丁度同時に、いきなり扉が開いた。

「お願い!私の子を助けて!お医者様!」

入ってきたのは五歳くらいの子を抱えた女性だった。

苦しそうに唸る少年を大事そうに抱えて、真っ青な顔で女性は叫んだ。

「お願い!お願いよ!この子を、助けて!死にそうなのよ!」

叫びながら泣き崩れる女性に母は優しく言う。

「まず落ち着いてください。そう。大丈夫ですから。それから、その子を見せてくださるかしら。」

母の言葉に少し落ち着きを取り戻した女性は母にその子を渡すと、母に導かれ、暖炉の前に座った。

母は医者だ。

それを生業に、母はジウターニャを育ててきた。

村でも人気の名医で、特に薬草に詳しい。

母はとても賢い女性だ。

母はその子の症状を確かめて、少し青ざめた。

「母さん、どうしたの?」

ジウターニャは声を潜めて尋ねた。

母はこちらを向いて首をふる。

「この子。もう助からない」

母は、一拍おいて、ため息をついた。

「助からないどころか、今、亡くなったわ」

話が聞こえたらしく、女性は発狂した。

子どもを奪い取ると、母をすごい剣幕で睨み付ける。

「この、魔女!私の子を助けてくれなかったわね!お前のせいでこの子は死んだのよ!悪の手先!神はお前を許さないわ!」

そう叫ぶと、女性は家を飛び出して行った。

スープはすでに冷めていた。


* * *


あの出来事から、母の評判はかなり下がった。

村では、特に仲良の良いお隣以外皆に嫌われるようになった。

「魔女」と、母は罵られ、娘のジウターニャも虐められるようになった。

そして、一ヶ月たったあの日。あの男がやってきたのだ。

大分夜更けの頃だ。寝付けずに起きていたジウターニャは、暖炉の前で本を読んでいた。

突然、大きな物音がし、ジウターニャは本の世界から我に返る。

「イザベラ・サーフクリスはいるか?」

赤毛に鳶色の瞳。高くて、大柄。髪と同じ赤色の鎧を見にまとったその男は、ドアを壊れそうなくらい思いっきり開けた。

「貴方はだれですか?いきなりなんのようです?」

蝋燭を片手に持った母が尋ねる。

男は後ろにいたいく名かの男達(おそらく部下だろう)になにか指図し、母に向かって言い放った。

「私は、ガナトス・ザベルク。貴様を魔女として捕らえにきた。」

「なんですって!?あぁ…」

驚く母を男達が後ろから取り押さえる。

「母さん!母さんになにするの!」

ジウターニャは赤い鎧の男、ガナトスに向かって叫んだ。

ガナトスはふんっと鼻で笑う。

「女を外に出せ。娘は放っておけ。ハハハハ!お前は運がいいなあ!普通なら家族も死刑だ!慈悲深い私に感謝するといい!」

ガナトスは母だけを連れて外に出た。

ジウターニャはそれにすがり付き怒鳴った。

「母さんを離しなさい!離して!」

「鬱陶しい小娘だな!」

ガナトスは不機嫌そうにジウターニャを振り払う。

そして、馬に股がり、意地の悪い笑みを浮かべた。

「貴様の母親火炙りの刑だ!見たかったら見にくればいい。三日後の正午だ。フハハハハハハ!」

馬が駆け出す。

「あぁ、ジウターニャ。私は貴方をあ…」

母の最後の言葉は馬のひづめの音にかきけされた。

ジウターニャはその場にへたれこんだ。

母を亡くした悲しみは怒りに変わる。

ジウターニャはこれまで出したこともない、怒鳴り声で言葉を吐き出した。

「ガナトス・ザベルク!私は貴様をゆるしはしないぞ!必ずやその心の臓、私が、貫いてやる!」



そして彼女は、 長い戦いなの身を投じることとなる…

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