墓掘りフレディ 4
※*※
美術室の寂れた雰囲気に居住まいを正して、‘ベートーベン’と一瞥をくれる肖像画の人物を体よく受け流す。
窓の外には旧校舎らしき影の形が、見え隠れするように緑葉を散らし……置いてゆかれた者の、時の流れの向こう側から手招いている姿をも連想させるようだ。裏の方では、人目のつかないところに……隠された防空壕なども存在しているのだとか。好きこのんで、それを確かめようとする人など滅多な具合にはいないのであって、『かもしれない』『たぶんそう』なんて曖昧な情報でまかり通っていたりもする。もちろん、そこには遊び心も忘れてはいないはずで……曰く、学校の怪談の類にも連ねられているようだった。
美術の授業である。各々おずおずとデッサンに励んでいる。それもそのはず、先生から引っ張り出されたお題は自画像であるのだから。しぶしぶといって取り組む様子も納得というところ。
それにしても……まとわりついてくるのは蚊であろうか、蜂……よろしくもない湿気の匂いを肌に感じて。見れば隣。突き刺すような‘視線’……を感じてくれると有難いのだが、ひょうひょうと跳ねまわるそれにはどうも通じないらしい。とり殺してもくれようか、と、それはいたくも平常心であることがらのよう。
『遠見平助――』
実に悪友である。‘へいすけ’と呼ばれる彼の名前を口にする時、いつも、どういう訳なのか籠ってしまう……怨念。煮え湯を飲まされ続けてきた‘僕’にとって、恨みつらみも世の情けであり、けれどもそういう訳にはいかないのが‘へいすけ’なのである。あちらへこちらへ遠巻きにしていたのかと思うと、次の瞬間には尻尾を振り振り寄ってきている神出鬼没具合……主に隣の席にと、‘めいちゃん’に関して頭を痛めるそれが一つの厄介事である。『平助助平』とはよくいったものだった。
厄介事には目をつぶ……ってもいられないけれど、しかしてこの時ばかりなら……それもきっと当てはまらないことだろうと‘僕’は思った。
――どうやら、‘へいすけ’は‘めいちゃん’を慰めているようなのだ。
美術の時間なら席が自由、ということもある……慮る理由もこれといってないのだろうけど、自画像と‘めいちゃん’の組み合わせは、正しくも食べ合わせが悪いことであったのだろうか、さもありなんである。
――――。
「……めいさん、なんでそんなこと気になるんだい」
へいすけが言う。
「フレディ先生のアレかい? もの好きな人がいるものだと思っていたけれど……」
「それはちょっと普通じゃないね」
「……やっぱり、どこかに落としてしまったんだろうね」
首を傾げる、頷く、俯く‘へいすけ’。
「ん……難しいな。生きている時じゃいけないのかい……」
考える。思考を、凝らさなくてはいけないことだ。
「……そう、なんだね……だから、事故ではないんだ……」
……。
「ええ……そんな、めいさん……僕は今初めて聞かされたよ。めいさんが発見者だったなんて……大丈夫だったかい。それに、警察とか……」
……驚愕。
「知られていないだなんて、そんなこと、まずいよ……僕だって、どうしたらいいか。……きちんと話をすれば、きっと分かってくれるはずだよ」
彼、‘へいすけ’……は一体何を話している?
「……、も、もちろん……僕も手伝うよ。乗りかかった船さ……きっと、最後まで付き合ってみせるよ。安心して……」
今にも、腰砕けになってしまいそうな‘へいすけ’。
「『めいさん』、大丈夫」
ポスンと胸を叩くのだった。
そろそろふぁんたじーな気がします。