鳴子さんは、右利き上手 3
「……桜、さん」
めいちゃんが居る。……‘僕’の隣で座っている。本来そこには松葉杖があるはず、けれども立て掛けられたそばで横へと遠ざけられて、代わりにと身を置くのはめいちゃんの姿である。
「どうしてそれ、持ってきたの?」
今はお昼時の和やかな時間だ。
「切ってあげようかと思って」
ぐるぐる回して……それは、彼女の右の、掌にある。
「嫌い……?」
キラリと光る切っ先を向けて、こちらの様子を窺うよう。
「そ、そんなこと……」
まるで……突き付けられた切っ先に怯えているみたいに、自分は……「ダメだダメだ」と平常心に、すきま風の恩恵にすがりつく……思い。
「好きよね」
それだけ言うと、彼女は刃先を喰い込ませる。‘すぅ’っと通り、またたく間に皮を剥ぎとられていく‘それ’、『そうだ』……自分自身を見ているよう。
「……そこにあったんだけどな、果物ナイフ」
めいちゃんは、意にも介さず、そう言ったもので……
「扱いづらいじゃない」
納得はする、けれどもどうして包丁なんか……言い掛ける自分の口。
「……便利じゃない?」
すると、塞がった口をもごもごしながら、甘い香りと酸っぱい香りにも……心揺り動かされつつ、‘めいちゃん’の振る舞う一挙手一投足を見守って、眺めている自分……「便利?」、と聞き返すのもよかったかもしれない。
ただ、そんな含む視線も見透かされたようで、
「便利なのよ、いろいろと」
笑う、微笑む、そういった仕草も刹那の時、彼女は‘すくり’立ちあがると、シーツの皺んだところを伸ばして‘ぽふり’、目を合わせる。
「そろそろ行くわね」
立ち去ろうとするめいちゃん、銀の取っ手に右手を伸ばして……やっぱりと、思い直すことなく内手に引く。そのまま開かれた扉に、影と重なる彼女の背中、右の手。
何をするにも……右手でこなす、めいちゃんなのだった。
少し短いですけど、ひまを見つつの投稿です。やっぱり消される確立大です。むしろ保管用となっています。