後悔先に立たず
私は後悔の念を振り払えなくなっていた。
妖怪との接し方など誰が知っていよう、
誰も知らない事を何故私が知っていよう、
無知は罪ではない、仕方の無い事だ。
つまり、何を言いたいか。私は自分の部屋に妖怪を招き入れたことを後悔していた。
深夜に『肉が食いたい』などと人間染みたことを言った妖怪を放っておいたら私が喰われかねないのだ。
しかし、問題なのはコミニュケーションを取る前に私がこの妖怪の顔を凝視すれば口から泡を吹いて卒倒するに値するほどの心の弱さを持っていることである。
それを一先ず解決するため、いつかの宴会で使った馬のマスクを被る事を妖怪に要求、
物分りの良い妖怪はマスクを被って「これで良いか?」と聞いてきた。
私が恐る恐る後ろを振り返ると、そこには『存在がエンターテイメント』と言い切れるほどの物体が立っていた。
海老のような体、
鋏のような両手、
馬のマスクの口部分から出ている嘴。
私は爆笑した。
妖怪は激怒した。
かの邪知暴虐の医者を除かねばならぬ、と決意したのかは知らないが。
「何を笑っておる、ヤブ医者めが」
妖怪は静かに、しかし威厳を構えた態度で言った。
「ええと、すみません」
威厳に負けた。
「しかし、人間と言う生き物は弱いのです。初めて見るものには恐怖を抱いてしまいます。」
「抱いてないではないか」
「だからこそ、そのマスクを被っていただいたのです」
私は笑える心を抑えて言った。
「なるほど、そうかそうか。しかし腹が減った」
「そうでした。肉を焼きます」
「いいや、焼かんでいい。生で頼む」
便利な食生活だな。
「だろう」
「まことに。」
なんだか可愛く見えてきたぞ、この妖怪。
「そうか、ならば馬を取るぞ」
「待ってくれェ!」
必死。
「お願いします。」
土下座。
「まぁ、良い」
「すみません・・・・・本当に慣れていないのです」
「当たり前じゃ。」
「肉を持ってきます。」
「おお、すまんの」
「いえいえ」
とりあえず、牛でいいか。
「・・・・・・すまんの」
「・・・・?」
「牛肉は高いのだろう?それをわざわざワシの為に・・・・豚で良いぞ」
・・・・・・なるほど、なるほど。
「しかし、折角来て頂いたのでどうぞ」
私は牛肉の生肉を取り出し、渡した。
「・・・・・・」
馬のマスクを被った海老が牛肉を凝視している姿は私の笑い袋を性格に刺激した。
「ところでおぬし、『ぱそこん』を持っているか?」
「ええ、まぁ。」
「そこで『網切り』と打ってみろ。わしの絵がでてくる」
私はとりあえず、言うとおりに行動した。