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ダンジョンに魅せられて ~ 計測不能男の予測不能な人生 ~  作者: 咲良喜玖
計測不能の男の成長 

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第41話 三人の原点

 夕食前の春斗の寮の部屋。

 香凛は勇気を出してここに来ていた。


 「は。春君」

 「なんでしょう。あ。遅くなってすみませんね」

 「ううん。いいの」

 「座ってください。自分が椅子に座りますよ」

 「うん」


 いつもベッドの方が良いと言っていたから、春斗はそっちに座らせた。


 「あの・・・成田桃百はいいの」

 「モモさん。ええ。いいですよ」

 「何か言ってた?」

 「モモさんが?」

 「チョコ貰ったんでしょ」


 踏み込んだ発言をするたびに心臓が一つ弾け飛ぶ。

 これ以上聞けば、全部がはじけ飛びそうだと香凛は思った。


 「ええ。貰えましたが? 何を言っていたかというとですね」

 「ひ。秘密じゃないの」

 「え。秘密。別に大したことではなくて」


 香凛は、秘密にしないのと思った。


 「これからも仲良くとの話で。自分がはいと答えましたよ」

 「それだけ?」

 「ええ。それだけです。自分もそう思っていますから」

 「なぁんだ」


 緊張して損したと思った。


 「それで、香凛の話は?」

 「これ。春君に!」

 「香凛もですか」

 「うん。春君・・・にね」

 「ありがとうございます」


 こういう時に好きだと言えないのが香凛だった。

 肝心な場面で言えないのだ。


 「春君。そういえば、お返しはどうするの」

 「そうなんです。それを知って。今驚愕しています」


 春斗はその話を知らなかった。

 寮に戻った後に、たまたま出くわした浜辺に言われたのだ。

 その時の会話・・・。


 「おい春斗! お前どうすんの」

 「どうするとは?」

 「ホワイトデー」

 「ん? なんですかそれ?」

 「知らないの?」

 「知りません」

 「変わってんな! ハハハハ」


 超変人であるのに、それで済ませてくれる浜辺は良い奴である。


 「義理チョコでもさ。貰ったらお返しするんだぜ」

 「え? なにを!?」

 「んんんん。基本はクッキーか? チョコでもいいじゃねえか」

 「まさか・・・そんな事が」

 「おう。頑張れ。アルトの分でもらってるのは可哀想だけどな」

 「え・・・まあ。はい」

 「じゃあな」


 と言うように、浜辺が教えてくれたのは良いものの。

 一体どれくらいのお返しをすればいいのか。

 全然予想もつかない春斗は、寮に戻ってからずっと頭を悩ましていた。


 「とまあ。どうしたらいいんでしょうか香凛!」 

 「ふっ・・春君って面白いよね」

 「え。どこが? 困ってるんですが」

 「そんなのテキトーで良いのに。女の子たちだって、気にしないよ。アルトに渡してってさ。頼まれただけでしょ」

 「でもですね。せっかく頂いたんですよ」

 「義理だよ。そのままにしておけばいいんだよ」

 「駄目ですよ。うんうん・・・どうしよう」


 真面目で誠実で変人。

 それが青井春斗。

 アルトと香凛の大親友は、とても変わった男なのだ。


 「お返しって何がいいんですか。香凛だと何がいい?」

 「え。あたし。なんでもいいけど。春君が選んでくれた奴なら」

 「そ。それが難しい・・・自分こういう事をした事が無いんで」

 「まあ。そうだよね」

 「香凛・・・に頼むのは変なんで、アルトに相談しておきましょう」

 「え。何を?」

 「買い物です。お返しのですね」

 「あたしに相談しようとしたの」

 「ええ。でも変ですよね。お返しする人に相談したら本末転倒だと思い、やめました」


 それも言わんでいい。

 と思うけども春斗らしいから、香凛は笑う。

 話している内に元気が出てきた。

 

 「ふふふ」

 「あれ、おかしいですか」

 「ううん。春君だなって思ったの」

 「はい。春斗です」

 「いや。そこで真面目に答えなくても」


 会話が時々噛み合わない。

 それも面白いからいいけど。

 香凛は、春斗に会ってからずっと笑顔のままでいた。


 「まあ。なんとかなるとは思いますけどね」

 「春君。一緒に買ってあげようか」

 「え。香凛とですか」

 「うん。おでかけしよう」

 「そうですね。じゃあアルトもですか」

 「うん。いいよ。三人で買い物しよ」

 「はい。じゃあ。一緒に買いましょう」


 こうして三人で買い物に行くことになった。


 ◇


 学校のお休みの日。

 三人は商店街に来ていた。


 「俺も買い物かよ」

 「え。だってアルトはどうする気ですか。お返しは?」

 「俺は返さねえよ」

 「え」

 「だって、お前を介して贈ってくる奴にどうやって返すんだよ」

 「たしかに」


 春斗は一理あると思った。


 「でも、茂野と円と香凛とモモさん。あとは、なるにも返す」


 アルトは翌日に、桃百と成実から貰っていた。

 ちゃんと手渡しで渡してくれたので、ちゃんと自分の手で返そうと思っている。


 「そうでしたか」

 「ほら、春君。あたしの言った通りじゃん。無視してもいいんだよ」

 「しかしですね。それだと悪い気がするので・・・んんん」


 真面目だなこいつ。

 二人は横目で春斗を見た。

 いつも通りの立ち位置で、春斗が真ん中を歩いているので、二人で中心を見る。

 口を尖らせてから、ガムを噛み始めた。

 グレープ味のガムだ。

 これで分かる。

 深く思考している証拠だと。


 「このモードになると。なんか真剣に考えてんな」

 「そうだね」


 二人は春斗を置いて会話を展開する。


 「じゃあ、アルトは? どこでお返し買うつもりなの」

 「デパートかな。でもあそこ高いからさ。俺。金持ってねえから、作った方がいいかもしれねえ」

 「え。作るの!?」

 「ああ。俺は定食屋の息子でもよ。とりあえず菓子くらいは作れる。隣が喫茶店だったから」

 「マジで?」

 「まあな。そこでお菓子作りしてるから」

 「へえ。凄いね」


 アルトは意外にも料理などが得意だ。

 炊事も洗濯も苦にならないので、家庭的な面がある。


 「んんんんん。これは・・・ドンと買うのがいいのでは!?」

 

 春斗が思いついた。

 

 「急になんだ?」

 

 アルトが驚いた。


 「ええ。クラスに買えばいいのでは。これどうぞみたいな感じです。次郎さんがよく買ってましたね」

 「次郎?」

 「宗像さんのお兄さんです」  

 「ああ。そういや、そんなことを・・・ん? 次郎さんがってのは何だ?」

 「はい。宗像さんの代わりに、誰かにいつも贈り物をしてますね」

 「それって・・・」


 もしかして、それこそ詫びの菓子じゃねえのか。

 四郎の名誉の為に、喉から出掛かった言葉を出さずに済んだアルトだった。


 「大きなお菓子を買いましょう。ボックスになっている奴がいいですね」

 「じゃあ。春君。デパートいこうよ」

 「わかりました。あそこですね」

 「うん」

 

 前に行ったから覚えていると春斗は、二人と共にデパートへと向かった。


 ◇


 デパートの三階のお菓子売り場で、各クラスに配れるように詰め合わせになっている者を買った春斗は、最後に。


 「香凛」

 「ん?」

 「付き合ってもらったので、何か食べたいものはありますか。なんでもご馳走しますよ」

 「え?」

 「時間も取らせてしまいましたし、香凛も自分にくれたので、お返し込みで、ご馳走します」

 「いいの。春君」

 「いくらでもいいですよ。上に行きましょうか?」

 「うん」 

 「アルトも食べますか。香凛の行きたい所になりますが」

 「いいぜ。俺も奢ってくれんの」

 「もちろんです。友人に奢る経験をしようと思います。自分の友人になってもらいましたからね」

 「ふっ。堅物だな。お前」


 春斗のお言葉に甘えて、二人はご馳走になる事に決めた。


 デパート七階のお食事処が並ぶ場所にて。


 「あ。どれがいいんだろ。美味しそう!」

  

 香凛が楽しそうにお店の前に立ち続ける。

 あれもこれもそれもと、どれも美味しそうと食品サンプルを見ていた。


 「サンプルがあるってな。昔っぽいよな」

 「そうなんですか?」

 「ああ。今はさ。なんでもデバイスで見られるじゃん。タブレットとかでさ。でも食品サンプルで見せるのは珍しいわな。あえてのレトロ感だろうな」


 昔ながらのデパートの再現だろう。

 アルトの予想だった。


 「つうか。あいつ楽しそうだな」

 「ええ。でも悩んでますね」

 「ハル。音聞け。音」

 「ん?」

 「ハル。あいつ独り言言ってるわ。拾えるか?」

 「ええ。やってみましょう」


 春斗は音を拾った。


 ―――――――――


 「どうしよう。どれも美味しそう! でもこれ高いな・・・」

 

 ステーキを発見。

 しかし、かなりのお値段。

 目移りしている香凛は遠慮がちに選んでいた。


 「こっちも凄いね。大きいパフェ! でも高いぃ?!? ま、万もするよ・・・うわお!!?」


 デザートにしようかと思っても、それはそれで高かった。

 

 「・・・ちょ。ど。どうしよう。どこも高いよ。これじゃあ、春君に悪い。あたし、チョコの部分も奮発できなかったし。手作りだから、美味しいものじゃないしね。あたし料理下手だし」


 自分が作ったものが上等なものじゃないから、ここの料理を食べさせてもらうのは・・・。

 香凛は、家庭的な金銭感覚を持つ人だった。


 ――――――――


 「だそうです」


 春斗は淡々と答えた。


 「あいつ。遠慮って言葉知ってたんだな」

 「それは失礼では。さすがに」

 「まあな」


 真顔の春斗のツッコミを受けて、アルトは苦笑いする。


 「でも香凛の遠慮は寂しいですね。自分。ここのお店だったらどこでも払えると思うんですよ」

 「は? 何言ってんの?」

 「いや。ここの食べ物くらいのお値段なら、全部払えますよ。ほら。ちゃんと持って来てます」


 春斗はDブラックを見せた。

 黒光りするカードは誰もが知っているカードだ。


 「は!? お前。これ。Dブラック・・・だよな?」

 「ええ。アルトも知ってますよね。これ。使える場所ですよね。このデパート」

 

 以前にアクセサリー屋でのひと悶着を機に、ここでは使えるはずだと春斗は脳内にインプットしていた。

 

 「いやどこでも使えるだろ。それ。俺の実家でも使えるわ! そんな奴来ねえけどな!!」 

 「そうなんですか。たまに使えない場所があるから気をつけろと、宗像さんに言われてましてね」

 「・・・どこだよそこ」


 Dブラックが使えないお店なんて、知らない。

 アルトは、非常識親子に呆れかえっていた。


 「でもお前。そんなの持ってたのか」

 「はい。宗像さんと一緒にダンジョン探索すれば、お金が溜まりますからね。お金を預けておくのにも、このカードが良いとの事で。宗像さんも五味さんも作っておけと」

 「・・・ああ、やべえわ。こんなすげえことを、あたかも普通ですよみたいに言う。化け物と俺は友達になったんだなと・・・改めて思うわ」


 アルトは遠い目になった。


 「ですからね。遠慮なんてしなくても、食べたいものを食べて欲しいと思っていますよ。ええ」

 「じゃあそう言ってくるか。お前の奢りだしな。お前が満足した方がいいだろ」

 「はい!」


 という事で、二人で香凛を説得して食べたいものを食べさせたのである。


 ◇


 食事後。

 

 「美味しかったぁ。全部美味しかったんだよ。ありがとう。春君」

 「ええ。良かったですね」


 春斗は、香凛に奢れてよかったと笑顔で答えた。


 「うん! 今度はね。あたしが奢るんだ」

 「香凛がですか。何を?」

 「んんん。なんでも」

 「何でもですか。それはまた大変ですね」

 「ううん。大変じゃない。あたし頑張るから!」 

 「そうですか。じゃあ、S級になるってことですね」

 「え。どういう事」

 「ええ。アルトと香凛なら、このカードを手に入れるでしょう。S級になってね」

 「そっか。そうだよね。アルト」


 香凛もハッとしたが、アルトも同じくだった。


 「おお! そうだな。それでお前と一緒か」

 「ええ」

 「なら、頑張らねえとな。俺たち。こいつに奢られっぱなしなのは嫌だぜ。なあ香凛。今度は俺たちが奢ってやるよな」

 「うん。絶対手に入れる! 手に入れて、何でも買ってあげるんだもん。春君に!!」

 「いや。別に何でも買わなくてもいいんですがね・・・」


 香凛が、春斗の為に何でも買ってあげると誓ったのは、この時が初である。

 香凛もアルトも、いつまでも対等の友達でいたいから。

 奢り奢られる。

 そんな関係になるために。

 二人は、是が非でも成長しようと、ここから更に鍛錬に励むのである。


 二人のS級への道は、春斗が切り開いたのだ。

 

 

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