表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョンに魅せられて ~ 計測不能男の予測不能な人生 ~  作者: 咲良喜玖
計測不能の男の成長 

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

48/49

第40話 戦場に立つには覚悟がいる

 2月14日。


 通常授業の間にも際立つ緊張感。

 宗像先生はいつものように。


 「ですので、戦闘って協力すると楽なんですよね。この場合。モンスターの側面を取って」


 ダンジョン講習をしている。

 この人は人の気持ちの部分の変化に疎いので大丈夫。

 問題はこのクラスの雰囲気だ。


 「絶対」「渡してみせる」「ここが勝負!」


 という女の子の心は発せられずとも、態度で気迫が伝わってくる。

 彼女らの背中が妙に頼もしい。


 「欲しい」「誰かくれねえか」「チョコ食べてえ」


 という男の子のどうしようもない心の声も、授業を上の空の態度で受けているために分かる。

 俺。もらえるのかなっと現実逃避している男の子もいる。



 そして春斗は。


 「ウウウン。熱気がありますね」


 授業とは別の熱気を感じていた。

 四郎よりかは人の心に聡くなったのである。



 ◇


 放課後のホームルームが終わり付近でその熱気は爆発している気がした。

 ここはまだ嵐の前の静けさだ。

 

 「それでは明日もですね。これで終わります」


 宗像先生が教室から出ると一斉に女子たちが立ち上がった。

 全員が外に出る中で、一年一組第五班流加奈子が春斗の体を掴まえた。

 春斗は女の子に持ち上げられて、移動することに。


 「え?」

 「ちょっとお借りします」


 あまりにも華麗な犯行に。


 「「は?」」


 香凛とアルトも呆気にとられた。

 もちろん春斗自身もだ。



 春斗が加奈子と共に廊下に出るとクラスメイトの女子たちがいた。

 一同は呼吸を合わせて、声も合わせる。


 「「「「春斗君。これを」」」」

 「え?」


 春斗の前には、紙袋に入った大量のチョコである。

 

 「自分に?」

 「そう・・・それで。こっちもなんだよね。お願い。ごめんね春斗君」


 奈美がもう一つ袋を持って来た。


 「これは・・・あれ。こっちもチョコですよ?」


 中身はたくさんのチョコだ。


 「うん。アルト様にお願い。自分たちじゃさ。渡せなくてさ」


 殿上人に直接渡すのは憚られる。

 だから春斗を使って、チョコを渡そうとした女子たちは計算高い。

 まだまだ諦めず、アルト狙いは続いているらしい。 

 No2理論はどこに行ったのか。

 そう女子とは夢を追いかける者である。

 あわよくば・・・!

 という夢のような言葉の中で、生きていられるのが女子である。


 「え。まあ。いいですよ」

 「本当ですか。じゃあ連絡します」


 呉満里奈が他の教室へ向かった。

 各教室の扉を開けて、丸ポーズをする。

 

 「え? 連絡?? 満里奈さん。何をして?」

 

 丸ポーズを受けた教室からは、大量の女子が現れた。

 春斗に襲い掛かるようにして迫ってくる。


 「うわあああ。な、なんですか」


 さすがの春斗でも、大量の女子に迫られたら動揺を隠せなかった。

 目が点である。

 

 「「「お願いします! アルト様に!!」」」


 これが決まり文句で、それとセットで。


 「「「ありがとう。春斗君」」」


 春斗へのお詫びチョコももらう羽目になるので、結果として春斗は。


 「ぐお。お。重い!? チョコって。たくさんもらえば、こんなに重いんですね」


 とんでもない量のチョコを貰う事となった。

 アルトの分からの自分の分もだから、結局二倍の量だ。

 

 「じゃ・・・じゃあ。皆さん。渡しておきますので。心配なさらずに」

 「「「「ありがとう!!!」」」」


 チョコの重さに負けそうな春斗は、ふらふらとなりながら教室へと戻った。


 ◇

 

 教室の隅では、穏やかな時が流れていた。

 茂野がアルトにお辞儀する。


 「アルト君。こちらを。いつも遊んでくださりありがとうございます」

 「いやいや。遊びなんてな。別に。でもサンキュ。茂野。俺ってもらえないのかと思ってたぜ」

 「それはないでしょう。アルト君ですよ」

 「いや。もらうまでは不安って事さ。男はさ」

 「そうでしたか」


 どんな男でも、いざ本番になってゼロだったらどうしようと思うものだ。


 「あ。アルト様・・・こちらを。献上したく。拙者の渾身の力作・・・でござる」


 手作りチョコをあげたくて、不器用ながら円は作って来た。


 「おお! サンキュ。円もありがとよ」

 「あああ…有難き幸せ・・・受け取ってもらえるとは・・・感無量でござる。もう死んでも良いでござる」


 涙を流しながら感謝する円であった。


 「おいおい。なんでだよ」


 大げさなと、二人と会話をしていると。

 アルトの前の机の上にチョコがスッと移動してきた。

 右手に当たってピタッと止まる。


 「ん?」

 「はい。あんたの分ね」


 左の端にいる香凛が言った。アルトは左を向く。


 「お前からか。つうか俺、お前からも貰えんの。ハルじゃねえぞ」

 「当たり前じゃん。いつものお礼。義理だからね。義理。本命は春君だもん」

 「あっそ。でもサンキュ」

 「うん」


 友チョコよ。と香凛が言っていた。


 そして。ここに・・・

 


 「ああ。アルト・・・」

 「ん。ハル?」

 「お。重いので受け取ってください。これ・・・それとこれと。これに・・・これです」


 大量の紙袋をアルトに渡す春斗は疲弊していた。


 「な。なんだよ。これ」

 「これらは、一学年の人たちがアルトに贈りたいのだそうです」


 三人の机の上がチョコだらけになる。


 「マジかよ!? つうか、お前のそっちは」

 「これは詫びです」


 春斗は、自分の分をまだ持っていた。


 「詫び?」

 「アルトに渡して欲しいから、自分にお願いするのが悪いとの事で。お詫びでもらいました。おかげで大変です」

 「ああ。そういう理由かよ」

 「はい。とんでもない量で・・・どうすればいいんでしょう」


 食べられませんよ。この量・・・。

 春斗はせっかく頂いたものだから、捨てるのだけは選択肢になかった。


 「頑張ります」


 頑張って食べますと春斗は固く誓った。


 「ん? どうしました。茂野さん。円さん」

 「「はいどうぞ」」

 「おお。自分にですか。ありがとうございます」

 

 友人二人からのチョコに、ゆっくり感謝を述べる春斗だった。


 「はい。いつもお世話になっていますから」


 茂野が言うと。


 「いえいえ。自分こそです」


 春斗もお礼を言う。

 

 「いや。拙者。春斗殿がいなければ、アルト様と香凛様とお友達になれなかったので、もはや神は春斗殿という事に!」


 円の意味不明な発言である。


 「は。はぁ。自分が?」

 「そうでござる。こちらのビューティフルゴッド二名に加えて。もはや春斗殿は。縁結びの神という事で。一つお願いしますでござる」


 円が、二礼二拍手一礼をした。

 崇め奉る気である。


 「あの? 何をお願いしてるんでしょう?」


 一言一句。理解不能。

 春斗は苦笑いをするしかなかった。


 「気にしないでください。春斗君」

 「そうします茂野さん」

 

 無視を決め込んだ。


 「あの僕は? もらえないって事?」


 近くにいた敦がぼそっと言った。


 「いえ。ありますよ。こちらに」

 「あったりまえでござる。拙者もこれを」


 同じ班の仲間にも、もちろんあげますよと、茂野と円はチョコを用意していた。


 「わあ。ありがとう。僕にもあったんですね」

 「敦君! 仲間じゃん」

 「ああ。初めて円の班になってよかったと思うよ」

 「え?」

 

 微妙に褒め言葉じゃなかった。


 そして。肝心の人が動き出していなかった。

 顔を真っ赤にしている香凛は、春斗が隣に座っても渡せなかった。

 

 「ふぅ。帰る準備しますか。寮のどこに置こう・・・」


 狭い寮のどこにチョコを置けば?

 春斗は、部屋を思い出して、机を片づけ始める。


 「は・・・春君」

 「ん? どうしました香凛。いつもより元気ありませんね」

 「う。うん。あのね」

 「ええ。なんでしょう・・・・あ!?」


 教室の窓に彼女が映った。

 春斗は後ろを振り向く。

 

 「モモさん? どうしたんだろ。香凛ちょっと席を外しますよ」

 「え。あ。うん」

 

 香凛のそばから春斗は消えた。

 その時、涙が出そうになったが。


 「いいのか。お前」

 「・・・」

 

 アルトのフォローが入る。


 「負けねえんじゃなかったのか」

 「・・・・」

 「リングに立つつもりもないのか。香凛」

 「ふん・・・あんたには関係ないもん」

 「ああ。俺個人ではな。でも俺はお前とハルの友達だぜ。関係あるわ。根性がねえお前は、張り合いがねえからな。ライバルだろ。俺たち」


 共にS級ハンターを狙うライバル。

 そして、春斗の強さを追いかけるライバル。

 弱いままじゃ、張り合う気も起きない。

 とアルトは語った。


 「・・・ふん!」


 負けん気がある癖に、いざ春斗の事になると憶病になる。

 好きだ好きだと言っている内は、まだいい。

 ただ、現実に直面すると、弱くなってしまう。

 今の彼と彼女を見たら、すぐにだ。


 アルトは、しっかり香凛を見てあげていた。


 ◇

 

 「モモさん。どうしました?」

 「はい。後で会ってもらえますか」

 「え。まあ。いいですけど。今すぐですか」

 「もう少し後です。寮に戻った後で良いです」

 「わかりました。それじゃあ。連絡しますね」

 「はい」


 二人が廊下で会話をすると、阿武が来る。

 右手を挙げて近づく。


 「おお。グラマラス女性! やっぱ。お前。この人と付き合ってたのか」

 「熊さん。こちらの人はモモさんですよ。なんですかその名前?」

 「悪い。名前知らんくてよ。モモさんね」

 「はい。成田桃百さんですけどね」

 「呼び方同じじゃん」

 「ちょっと違います。堅苦しくないでしょう」

 「ふ~ん・・・そうか?」


 阿武にはその違いがわからなかった。

 というよりも、呼ばれている桃百にもわからなかった。

 春斗の前で、二人して首を傾げている。


 「ええ。こちらの方が。モモさんがよりモモさんらしい!」


 力説しているが。


 「んんんん。そうなのか。わかったぜ。春斗」

 「ええ!」


 春斗の言っている事が理解できなくても、阿武が話を合わせてくれた。 

 阿武は口は軽いが、良い奴なのだ。


 「じゃあな。色々あるだろうから、俺はお邪魔になりそうだからバイバイ」

 「邪魔?」

 「・・・・・・」


 これ以上野暮な事は言うまい。

 阿武は去っていった。


 「何が邪魔なんでしょう。ん?」

 「は。春斗さん。また」

 「え。モモさん。大丈夫ですか。顔が」


 真っ赤だ。春斗が心配している間に、顔を見られないようにして、これ以上見られないために桃百はそそくさと移動する。

 

 「だ。大丈夫です~。お気になさらずに~」

 「えええ」


 気になる形で消えていった。


 ◇


 春斗が教室に戻った後。

 心に勇気を入れ込んだ香凛が話す。


 「は。春君。あのね・・・ちょっといい」 

 「え。時間かかりますか?」

 「う、うん」

 「じゃあ。後でもいいです? 今、呼ばれてしまって」

 「そ。そっか。うん。いいよ」


 笑いが引きつっているのが自分でも分かる。

 香凛は必死に笑顔を繕っていた。


 「こちらに連絡くれれば会いますから。くださいね」

 「う。うん。またね」

 「はい。急ぎます!」


 重そうにチョコの袋を持った春斗が教室を去っていった。

 その背を見届けた香凛がぼんやりしながら身支度をして。


 「帰る。あたしも・・」


 教室を立ち去る。

 寮へと進む道の間。至る場所で女子たちと男子たちが話している。

 今日のメインで戦った人たち。

 戦場に立った者たちだ。


 「ああ。ああ。あたしも頑張れば良かったかな。春君と」

 

 いじけて地面の小石を蹴る。小さな石がコロコロ転がって、自分が歩けばまた自分の元に。

 それをまた蹴ってと繰り返すこと数十回。

 途中で石が横に移動した。


 「ほれ」

 「あ! 横取り!」

 「馬鹿。ぼんやりしてんのが悪いんだよ」

 「アルト! この!!」


 怒ろうとしたが、途中でやめる。

 アルトが笑って話しかけてきた。


 「元気出せよ。お前負けるつもりねえんだろ」

 「あんたには関係ない」

 「ああ。そうだ。でも、負けねえってのを決めたら、やれよ。最後まで走れ。やってみなきゃわからねえからな」

 「なによ。アルトの癖に。説教?」

 「いいや。説教じゃねえ! やらなきゃ後悔するって話だ」

 「・・・」

 

 アルトの確信を突いた言葉に黙ってしまった。


 「頑張って駄目ならさ。別にいいんじゃねえの。それにお前らしくねえ。頑張る部分で、誰にも負けねえ気持ちがあるはずだ」

 「・・・そりゃ。そうよ。あたしだもん! 諦めない女! 香凛だよ」

 「ああ。だから、やってみろよ。香凛。お前が落としたい相手は、この世で一番の曲者だからよ。正面から体当たりしないとな。あっちは横向いているから、正面見てくれねえぞ」

 「うん。そうする・・・でもなんでこんなに応援してくれるの。春君の恋を応援してんじゃないの」


 香凛は聞いてみた。


 「俺はお前らの友達だ。どっちも応援してる。ただ、後悔だけはさせたくねえ。お前もハルにもだ。俺のようになってほしくねえからよ」

 「アルトのように?」

 「ああ。俺も昔。好きな奴がいた」

 「そうなの」

 「ああ。でも死んじまった。突然発動した自分のギフターズの力に押し潰されてな」

 「え!?」

 「だからさ。お前らは相手に会えるんだ。諦めるってのは選択肢に入れちゃ駄目じゃねえか。だって相手が生きてるんだもんな。まだチャンスがある!」

 「・・・・うん。わかった・・・そうする」

 「ああ。頑張れ。香凛」

 「ありがと。アルト」


 アルトという男は、香凛と春斗の間に立つに相応しい男だった。

 両方を平等に見て、双方を応援する人物であった。

 これが春夏秋冬(ヤサカ)のリーダーとしての力の片鱗である。


 アルトは香凛を戦場に立たせるために、背中を押したのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ