第39話 久しぶりの学校
1月22日。
あの戦いから復帰して、久しぶりで学校に来た春斗は教室の扉を開けようとした。
「春斗じゃん!」
「はい。なんでしょう?」
一組の教室に入る前に呼び止められた春斗は後ろを振り向く。
するとそこにいたのは阿武である。
大柄の体躯であっても、気さくなためか威圧感のない男であった。
「よ!」
「ああ。熊さんじゃないですか。どうしました?」
元気な男の名は阿武熊。
同じクラスの生徒である。
「大変だったんだろ。元気になったかよ」
「え。自分がですか?」
二人で教室に入ろうと動く。
会話しているのでゆっくり移動する。
「風邪ひいてたんだろ」
「風邪?」
「ああ。その後が食中毒だっけ。そんで次が食あたりで、そのせいで貧血起こして・・・めまいもしてたらしいじゃん。あとなんだっけ」
「なんですかそれ?」
「え!? そうじゃねえの?? じゃあ学校サボりか?」
羅列された不調の数々に疑問を持つ春斗。
その会話に気付いたのがアルトで、フォローが入る。
「そうそう。そうなのよ。阿武。よく覚えてたな。ハルは大変だったのさ」
「だよなアルト。春斗がサボりなんてねえよな。大変だったんだよな」
阿武は貴重なアルト呼びが出来るクラスメイトである。
「そうそう。だから気にすんな。ハルが自分を忘れるくらいにきつかったのさ」
「そうか。そんなに大変だったのか・・・んじゃ! 春斗。今日頑張れよ。久しぶりの学校だからさ」
「まあ。そうですね」
春斗がアルトの案内を受けて、席に座る。
「アルト。さっきの熊さんは何を言って?」
「ハル。悪いけど、さっきのに話を合わせてくれ」
「さっきのって、あの不調の数々ですか?」
「ああ。宗像先生がさ。お前が来ない理由をテキトーに並べちまってさ。休んでいる理由。全部あれになってるんだわ」
「な!? 宗像さんが!?」
「ああ。やべえのなんのって。嘘下手糞すぎだろ。お前ら親子はさ!!」
嘘をつけない性格は宗像から。
アルトは困ったもんだぜと苦笑いをした。
「春斗君。お久しぶり!」
円の声に返事をする。
「はい。久しぶりです」
「大丈夫でしたか?」「本当に大丈夫ですか」
茂野も敦も心配してくれていた。
三人とも事情を知らなくても心配してくれるのだ。
友人は良いものだと春斗は丁寧に頭を下げる。
「はい。ご心配をおかけしました」
と返事をすると春斗は自分の周りに人がいる事に気付いた。
男子たちがずらりといた。
「おい大丈夫かよ」
「え?」
「心配してたぜ。皆でな」
「「「おおおお。もちろんだぜ」」」
意外にも春斗は男子にも気に入られている。
女子に好かれている理由は前回円が言ったようにNo2理論が刺さっているからだが、男子に好かれている理由はこれだ。
教室の後ろの扉を全開にして入って来た香凛が走って来た。
「春君! 元気になってよかったよ~~~~!」
学校一のマドンナ香凛が飛びついて来ても、その顔を掴んで。
「近くに来られても、暑いので失礼します」
ぽいと捨てる事が出来るからだ。
これが皆が尊敬する要因となっている。
あれだけの美人に迫られても、鼻の下を伸ばさない事。
そして、淡々としている事が、男子から見てもカッコイイという事になったらしい。
「春君!? 帰って来た!!」
春斗に投げ飛ばされても喜んでいる香凛。
対春斗の時のみドMである。
「皆さん、ありがとうございます。ご心配おかけました。今日から通えるようになったのでよろしくお願いします」
香凛は無視して、皆に頭を下げる春斗を見て、クラスメイト達は。
「「「「おかえり」」」」
帰って来て良かったねと言ってくれたのだ。
「はい。ありがとうございます」
春斗は仲間たちから信頼され、そして尊敬される存在だった。
それは学校一のイケメンと、マドンナの間に立っても、自分を保ち続ける人間だったからだ。
あの冷静さ。
見習いたいものだと、皆が大人の階段を登るためには、春斗のこの一面だけは参考にした方が良いと思ったものだった。この一面だけは・・・である。
「よかったな。ハル。帰って来て」
「ええ。なんとかでしたけどね」
このセリフの真の意味は、【とんでもない化け物と戦って何とか生きてこられましたよ】である。
しかし、ここのセリフを、皆が聞くと、【病気が大変だったんだな】という意味に聞こえてしまう。
そこで、円が聞く。
「そうだったのでござるか。本当に大丈夫なのでござるか?」
「え。いえいえ。病気は治ったので大丈夫ですよ」
すぐさま訂正しないと重病人にさせられる。
春斗は少し慌てた。
「そうでござるか。ならば、これ以上の心配は武士に失礼でござるな! いつも通りになるよ!」
「ええ。そうしてください。円さん」
テンションが上がると侍口調になる円だった。
「うん。よかったね。病気が治って」
「ええ。そうですね」
皆からの温かい言葉に感謝して、春斗は前へと進むことになる。
◇
休み時間。
いつもの三人はコソコソ話した。
「エグゾードだと!?!?!?」
「なになに。それってなに?」
アルトと香凛は対照的な反応をした。
アルトは知っていて、香凛は知らずである。
「こちらですね。これ見てください。自分。運よくデバイスを持っていまして。映像を取れず、残念ですが、写真となってましてね。こちらです・・・」
春斗はあの戦いの際に胸のポケットに仕込んでいたデバイスを使って、エグゾードの写真を撮っていて、吸い込みからのブレス攻撃の時までの連続写真を持っていた。
ちなみに最初のブレスだけで、それ以上のシーンは不可能だった。
あの時はそれくらいに切羽詰まった状況であったのだ。
まあ。むしろ撮ろうと思っているのがおかしい事でもある。
「馬鹿。これ・・・あの図鑑にある怪物じゃねえか」
「アルトも見てたんですね。大図鑑」
「ああ。ハルから教わってからな。図書館に行ってるからさ」
「うんうん。良い事ですね」
ダンジョンフレンドまでは行かないが、アルトがハンターになるための知識を一生懸命に頭の中に入れようとしているのが分かって、春斗は心から喜んでいた。
「エグゾードって何? そんなに凄いの」
「香凛。こいつさ。ハルはさ。生きているのが不思議だぞ。ここにいるのがもう奇跡なんだわ」
大袈裟に言ってないが、香凛には大袈裟に聞こえる。
ただ、アルトの顔が真剣だから冗談には聞こえない。
「ん?」
香凛は首を傾げた。
「香凛。こいつはな。S級モンスターと会ってだ。生きて帰ってきた奴になったのよ。こいつと宗像先生で、もはや伝説となったわけよ」
「は?!」
ようやく事態を飲み込めてきた。
「ふぅ。無茶苦茶なんだわ。こいつ・・・」
生きててよかったなとアルトは最後に呟いた。
「いやあ。間一髪って奴でしたね。ハハハ」
珍しく笑う春斗であった。
◇
2月1日。
春斗は学校の廊下をアルトと一緒に歩く。
三階から一階に降りる間での会話だ。
「アルト。皆さん、目がやる気に満ちているというかですね。なんだか殺気立ってる気がするのですか。なにかあるんですか」
「まあな。世の中は準備って事よ」
「準備?」
アルトは身振り手振りを加えて教えてくれる。
まずは指を三つ立てた。
「あのさ。まず今。就職活動中じゃん。先輩たち」
「ええ。そうでしたね。この一カ月で決まるとかでしたね」
NSSの三年生は、2月で就職先を決める。
特殊な学校だから、普通の一般人とは違う就職をするために時期がズレている。
大体がギルド関連になるので、ギルド説明会がここら辺で多くあるのだ。
人員が欲しいギルドが2月の間に特殊体育館に来てくれて、そこでこれからの説明がある。
【うちはこういうルールですよとか。こういうメンバーがいますよとか】
ある意味不思議な勧誘で、普通の会社とは違う。
それと並行して、政府職員募集の場合もあるが、その場合は一般の面接方法である。
「そう。だから殺気立ってる! 三年生はな」
「なるほど。だから三階は・・・いえ。三回だけじゃなくて、二階も一階もなんですが? どういうことです?」
そう春斗の疑問も正しい。
三階の三年生が殺気立つのは分かるが、なぜ1階と2階も殺気立たないといけないんだと。
「それはな。もちろん。2月14日の戦の為だろうな」
「え? 戦争が起こるんですか!」
「ああ。ここは大戦場となるんだよ」
「ええええ。そんな急に!?」
【こいつ。バレンタイン知らなねえな】
大体察しがついたアルトは、春斗を騙す方向に向かおうと思った。
「まさか戦争が起きるのですか・・・・え? どこと?」
よく考えたら何と戦うんだ。学生が?
春斗は天然である。
「ちっ。騙したらヤバいか。そのまま気付かないもんな。しょうがない」
「あ! アルト。自分を騙すつもりだったんですね」
「へへへ」
「こらこら」
「悪い悪い」
仲良しの二人は教室に辿り着いた。
春斗が扉を開けると、教室の皆の顔が一瞬こっちを向いた気がした。
「ん!?」
目が異様に鋭い。それも女子も男子も双方ともにだ。
「ハル。座るぞ。説明してやる」
「は。はい」
◇
今は席に二人だけ、香凛はどこかに行っていた。
「バレンタインって奴があるのよ」
「さっきの続きですね?」
「おう」
「14日に?」
「そうそう」
春斗は、今の話がさっきの話と続いている事の確認を取った。
「その日はさ。女の子が男の子にプレゼントするんだ。チョコとかさ。お菓子を持ってな」
「へえ。またプレゼントですか。贈り合う文化ってたくさんあるんですね」
クリスマスとやらの時も贈り物を渡したのに。
春斗はそう思った。
「まあな」
むしろ知らねえほうが異常なんだが・・・。
アルトは、失礼な事を思っても言わないでおいた。
「んで。この学校の場合は、バトル気味になってんの」
「バトル気味?」
「そうなのよ。女の子は、本命と結ばれることを期待して。男の子は数を自慢するのさ」
「なぜ?」
「そりゃ。恋人になりたいって奴だろな。ああ。でも男は違うか。他の男子に自慢するんだもんな」
「へええ。女の子は可愛らしい理由ですけど。男の子はアホですね」
「ま。まあな」
お前も男だけどな。
アルトは決して余計な事は言わない。
「ぷっ」
前にいた茂野が口元を押さえて笑った。
今はあのやかましい円も大人しい敦もおらず、彼女一人でいる。
「あ。茂野。笑ったな」
「は。はい。アルト君申し訳ないです。あまりにも面白く」
茂野は、アルトとも親しくなったので、君と呼ぶことに変わった。
「だよな」
「はい。ちょっと変わってますよね」
「ああ。変だわ。やっぱ」
「なにが?」
春斗は全く分からない。
「欲望が無さすぎって奴だな」
「自分がですか」
「うん。そうだよな。茂野」
「はい。ギラついた感じがないんですね。春斗君は」
「そうそう。そんな感じだわ」
「こんな感じなのに。でも男らしい部分があるって変わってますよね」
「そこが変だよな」
そう野獣のような感じがないのに、男らしい部分がある。
相反している側面が人を惹きつけるのかもしれない。
茂野とアルトは、不思議そうな顔をしている春斗の顔を見て話していた。
「しかし、自分は自分ですしね。どうも変えられそうにない」
「いいんじゃねえか。別に、俺たちは楽しんでるしさ。変える必要なんてないわ」
「ええ。そうです。春斗君はどうかそのままで」
変わらない春斗が好きだから。
春斗は友達に大切にされていたのだ。
「そうですかね。まあ。それだと助かりますよね。ええ」
友人たちの温かい言葉を受け入れて、春斗は能力だけじゃなく、人としても成長していった。




