第37話 VS氷炎竜エグゾード
「寒くなってきましたね」
事前の知識としては、洞窟ダンジョンだと聞いていた。
だから、そのような形の準備をしてきていた二人。
ダンジョンでは、突然の変化が付き物だともわかっているので、防寒着も念のために持っているが、それでも寒い。
本格的な冷たさが来ている。
「春斗。やはり次の階層手前で引きましょうね。いいですね」
「わかっていますよ。宗像さん」
自分たちだともっと先に進みそうだから念を押した。
共にダンジョンが好きなので、もっと調べたいと思ってしまうのだ。
戒めの意味で忠告しているのが宗像だった。
「宗像さん。自分の音反響にも、モンスターの気配がないんです。変じゃありませんか」
「ええ。大変珍しいですね。ダンジョンでモンスターの配置がないなんて・・・この階層ですよね」
環境変化型のダンジョンの特徴としてあるのが、モンスターの生態系にも変化が起きて、表に出没しやすいのが、常識。
しかしここに来ての現状は、そのような事とは無縁のようだ。
モンスターの姿がないのだ。
「春斗。下から何か来ませんか。揺れを感じます」
ほんの僅かな揺れだ。
地震計測をしても、震度1もないだろう。
それくらいに微妙なものだが、四郎は感じた。
彼は、ダンジョンで生き残るためのセンスがあるのだ。
「え。下ですか・・・音を聞いてみます」
音反響をフィールド上に設定していた春斗。地面の中の音までは注意してなかった。
「ん・・・轟音がします。かなりの速度で移動している。何かがいます」
深い位置から何かが地上に出ようとしている。
春斗の耳はその音を捉えた。
「ですよね。春斗。まだ音を聞いておいてください」
「はい」
春斗が聞いている間、辺りを警戒をする四郎。
振動はついには震度1を超え始めた。
周りの氷にヒビが入った。
「来ている。何かが来ています・・この感じ。振動の強さがどんどん増していく。これは大物かもしれない?」
事実はその予想を大きく上回る。
四郎と春斗の先の氷も割れた。
目の前に半径300m以上の巨大な円が出来上がる。
「これはまさか。春斗。引きます」
「え・・・な!?」
春斗も正面に現れたモンスターの正体に気付いた。
先程の衝撃で、地面となってくれていた氷が割れて、それぞれの氷がぐらついてく。
春斗たちは体勢を整えながら敵を見た。
「氷炎竜エグゾード!?」
「引きますよ。春斗。これは絶対に無理です」
「は。はい」
階層から脱しようと二人はエグゾードに背を向けた。
氷炎竜エグゾード モンスターランクS
出会ったが最後と呼ばれる伝説級のモンスター。
パーティー壊滅も免れないとされるランク帯だ。
顔に体、しっぱに至るまで。
全てが左右にパッカリ姿が分かれている。
右半身が炎。左半身が氷。
各々の特徴が表面化していて、行動を起こす際にそちら側の特徴が出る。
それが・・・。
「これは・・・右の準備だ。春斗。炎が来ます。辺りが氷ですから、溶けるかもしれません。攻撃ライン上から外れますよ」
四郎は後ろを確認しながら移動する。
「は、はい」
エグゾードが大きく息を吸い込んだ際に、右半身が輝いた。
このことから四郎は、エグゾードが炎ブレス攻撃を仕掛けると判断した。
これが完璧な判断であり、それが生死を別つ部分だ。
「春斗。左に移動です。自分も続きますから」
「はい」
春斗は四郎を信じて振り返りもせずに、左に移動。
それに追従する形で、四郎も移動している、敵の行動確認の為に後ろを完全に振り向かずに横目で見た。
「来ます! 吐き出すつもりです」
エグゾードの息を吸い込んだ風がこちらにも伝わる。
なぜなら、二人とも後ろに引っ張られた気がした。
二人は同時に振り向く。
「な!? この威力。化け物に相応しい」
「宗像さん! 飛んで」
「ええ」
敵の攻撃範囲外にいる二人だが、それでもブレス攻撃が通り過ぎるだけでも威力が高い。
春斗の言葉に四郎も頷いて真横に飛んだ。
二人の真横を炎の渦が通り過ぎる。
「ぐっ・・吹き飛ばされる」
「春斗。自分のそばに」
春斗よりも体の大きい四郎が、春斗の体を引き寄せて盾となった。
炎の渦の残り香でも、肌が焼けそうになる。
「ふぅ・・・これがSですか。なるほど。ギルドも全滅するに決まってますね」
「はい。宗像さんすみません。自分のせいで」
春斗は自分が足手まといになってしまったのが許せないとしたが。
「いえいえ。これくらいへっちゃら。自分。春斗の親ですよ。当然です」
「宗像さん・・・」
「では、逃げましょう! せっかくカッコつけましたが、言ってることはカッコ悪いですね。ハハハ」
四郎が冗談を言って笑うと、春斗も静かに笑った。
あんなことを言っていたが、春斗にとって宗像が一番カッコイイのは間違いない。
「はい。逃げましょう。宗像さん」
「ええ。走ります」
態勢を整えてから二人は出口に向かって走る。
層を降りたらあとはもう追いかけてこないはず。
爆走している最中も後ろを警戒する四郎が考える。
「・・・・変ですね。たしか。エグゾードが現れたのは、仙台ダンジョン。それと。ロサンゼルスダンジョン。リバプールダンジョンですよね・・・それもいずれも溶岩系。熱い場所でした・・・それが氷のここにも出現できるのですか」
大変に危険な状態となっても、頭の中ではダンジョン関連の話を展開できる。
宗像四郎の思考回路はやっぱりおかしいのである。
「つまり、彼は氷系ダンジョンでも生存が可能でして・・・だったら、他の氷系ダンジョンにも入ることが出来るのでしょうか? という事は、他では未確認なだけでしたか? やはりダンジョンとは、色々な検証が必須ですよね。皆がダンジョンで勝利を得るには、皆で協力をする形とならねば・・・」
協力体制がまだまだだ。
昔よりはよくなったが、今もまだ足りない。
もっと慎重に、もっと緊密に、政府とハンター。
それと外国との連携が必須だろう。
それが、宗像四郎が、ダンジョンの為に第一に考える事だった。
「宗像さん。前です。前」
「え?・・・なに。なぜ??」
先程までは何もなかったのに、出口付近が氷の塊で塞がれた。
エグゾードが何か仕掛けたと思って二人が振り向く。
左半身を動かした形跡がある。氷に覆われた右腕が前に出ていて、奴の爪の部分が出口を差していた。
「まさか。エグゾードは・・・」
「宗像さん。これはギフターズのように、力を使えるってことですか」
「そのようです。口だけが攻撃の手段じゃない!」
そんな事は知らぬ事実。
過去の映像を見ても、奴の戦い方はブレス攻撃のみだった。
油断をしているわけじゃないが、春斗と四郎の二人は知らぬ事実に驚愕するしかなった。
「逃げられませんよ。どうします」
「氷を焼きましょう。自分の全力で、一人分のサイズで逃げ出せる範囲を焼きます」
「あの分厚い氷をですか。くりぬく形で?」
「はい。やりましょう。春斗後ろの警戒をお願いします。もし攻撃が来たら逃げましょう」
「わかりました」
出口付近にまで移動してから即座に四郎がパイロキネシスを発動。
Aランク中位の実力を持つ四郎の【炎縁】である。
炎の輪が幾つも連なる技。知恵の輪のような炎があって、この輪の数で威力が上がる。
だから小さければ小さいほどに高火力となっている。
四郎の輪は、かなり小さい。
腕輪よりも小さめのサイズの輪が連なっている。
「炎縁。ここは焼いてください。一人分だけでも!」
炎縁を一本出すだけでも難しいのに、四郎は三つも出した。
氷の壁の中に、トンネルを作れば良し。
三カ所を綺麗に回して、氷を括り抜く!
「こ、これは」
四郎の近くで後ろを警戒していた春斗が気付く。
エグゾードが再び息を吸い込み始めた。
「まずい。この攻撃はさっきとは違う。氷の方?」
左半身が光り出していく。
尻尾から、背。そして腕も、更には顔までだ。
「最後に目か!」
下から順番に輝いて、最後に目が青く輝いた。
敵の攻撃の発射準備は、目であった。
「宗像さん・・・来ます」
「わかりました。じゃあ、春斗だけでも、ここから逃げてください。最後の場所まで焼き切りますから」
「嫌です。それは宗像さん。あなたは逃げない気ですね」
「そんな事は言ってませんよ。自分もかなら・・ず?」
「いいえ。自分が弾きます。宗像さんと一緒に逃げられないなら、ここで死んでもいい。でも自分は諦めない。あなたには大事なことを今までも・・・これからも教わりたいですから。あれを弾いてみますよ」
春斗は四郎の背に立った。
「親の背。守らせてもらいます!」
「まさか春斗!?」
「いきます。マッハモード マッハ2!」
轟音轟く春斗の体。
肉体に現れないオーラの光は、春斗の両手の前に集中していた。
「ぜ…全開のひ・・必殺・・・」
春斗が苦しそうに言った後、渾身の力で叫ぶ。
「超音速波」
己を極限まで動かすマッハ1。
己じゃなくて、自分の渾身の力を前へと撃ち出すのがマッハ2。
それで、敵の遠距離攻撃をそのまま打ち砕くために作った必殺技が、超音速波である。
春斗の超音速波と、エグゾードの氷ブレス攻撃が衝突した。
双方の威力が互角。
互いの攻撃が階層中央で止まった。押し合いが生まれ、攻撃の揺り動きが始まる。
「ぐはああああああああああ」
【ご? がああああああああ】
一瞬自分のブレス攻撃が止められたことで、エグゾードが驚く。
目つきが睨みに変わった。
「くききき・・・む。宗像さん・・・ど。どうですか」
「焼き切ります。もう少しです。それより、あなたは・・・な」
チラッと後ろを向くと、春斗があのエグゾードとの力比べに負けてなかった。
とんでもない能力をここに来て発揮していると、宗像も全力で氷を攻撃している最中に思った。
「それはもう。やめないと。まずいですよ」
「だ。大丈夫です。氷を焼いたら、こちらに言ってください。お願いします」
「わかりました」
「はあああああああああああああ」
氷の攻撃が徐々にこちらに来ている。
さすがに自分の力がずっと同じ出力で続くとは思っていない。
押されるのは覚悟の上だった。
「負けられない。絶対に」
自分一人ならば、諦めるかも。
でも後ろに大切な人がいるから。
だから春斗は、化け物のSランクモンスターと戦ったのだ。
勝てぬと覚悟しても、負けぬと決めた。
だから無理を重ねる。
「超音速波の二枚掛けです。いけえええええ」
音を音に重ねて、音速が生まれる。
押し込められていた部分が解消して、押し戻していった。
それは、互角じゃなかった。
逆に押し込んだのだ。
「おおおおおおおおおお!」
氷のブレスを押しのけて、超音速波がエグゾードの顔面に当たる。
【がああああ・・・・ぐるうううう】
エグゾードが、反撃されて初めて痛みを知る。
右目を瞑って、左目は敵を見る。
一撃で葬り去ったはずの小さな小さな敵が、いまだに生きている。
咆哮に怒りが混じる。
【ごおおおおおおおおおおおお】
肺が膨らみ。再びのブレス攻撃だ。更なる追撃を用意する。
「あの敵・・・ま・・・まだやれるのか・・・宗像さん。もうしわけ・・・」
意識を失いかける春斗の目には、敵の行動が見えていた。
息を吸い込み、しっぽが光る。
しかし今度は両面だ。
左半身も右半身も等しく輝く。
だから全身が順番に輝きだしているのだ。
「双方ブレス・・・まさか、氷炎のブレス???・・あ・・」
春斗が相手の口に力が溜まったのを見届けてから、気絶した。
最後まで、その力の特徴を見ようとしていた。
「春斗できまし・・・春斗! く、無茶をしました・・・・これは逃げるが勝ちでしょう。あれはまずい」
氷のトンネルを開通させた四郎は春斗を回収して、穴の中へ。
急いで移動する間も敵のブレスを見ていた。
氷のブレスに炎のブレスが巻かれる状態で、氷炎ブレスはこちらにやって来た。
今までの資料映像にはない攻撃にじっくり観察したいなと思っている四郎も少々頭がおかしい。
春斗と似たような思考だ。
「急ぎますよ。下の階層ま・・・・うわあ」
氷のトンネルの終わり際。
おそらく、敵の氷炎のブレスの攻撃が当たったのだろう。
その衝撃で全部が砕けて、穴から放り出される形で四郎と春斗が飛び出た。
身体が三回転しても春斗だけは落とさない。
「春斗!」
「・・・・」
返事はない。春斗の胸に耳を当てる。
「ありますね。鼓動は」
命はある。しかし、体力と精神をかなり使ったに違いない。
あのエグゾードに一撃を加えたなど。
人類史上初の快挙だろう。
「あなたが素晴らしい反面・・・恐ろしいですね。自分はあなたの将来が・・・」
力が恐ろしいんじゃない。
その力のせいで、色んなことに巻き込まれることになるだろう。
我が子の苦労が目に見える。
想像でしか見えないはずの未来での苦労が、今にも見えて来そうなのだ。
「ふぅ。でもまあ。今はいいでしょう。自分が、何とかして守るんです。絶対に・・・」
息子の盾となる。
その覚悟を持って、宗像四郎はダンジョンから脱出した。
これが、DAI設立までの考え方の基礎となる事件。
青井春斗。宗像四郎。
ランクSからの生還事件である。
人類初のSから逃れた事は、極秘扱いとなる。
日本政府の門外不出の大事件として、奥底に眠る情報となった。




