表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョンに魅せられて ~ 計測不能男の予測不能な人生 ~  作者: 咲良喜玖
計測不能の男の成長 

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/49

第35話 プレゼントって難しい

 もうすぐクリスマス。

 恋人がいる男女も、いない男女も、この運命の日を前にして浮足立つ日々を過ごす。戦場をどこに設定しようかと躍起になるのもこの頃だろう。

 そして、クリスマス熱の最初の頃の戦場となるのは、商戦高まる街の中だ。

 いつもの三人が並んで歩く。

 アルト。春斗。香凛が、賑やかな学生通りの商店街を歩いていく。


 「なんだか皆さん。忙しそうですね」


 春斗が聞いた。


 「そうだよ! 春君。恋人たちの季節なんだよ」

 「恋人たち?」

 「うん。だからあたしと一緒に大切な24日を過ごそう」

 「24が大切? ずいぶん限定ですね。何かあるんですか?」


 理由が分からないから春斗が真剣に聞いた。

 ちなみに、春斗は【恋人】【一緒に過ごそう】の重要ワードを完全に無視している。


 「「え?」」

 

 香凛だけじゃなくアルトも驚く。


 「おいハル。25も知らねえのか」

 「25? 何かありますか?」

 「いや。マジか」


 クリスマスイブもクリスマス当日も知らない人物なんて、この世にいるのか。

 あ。ここにいた。

 と、二度のツッコミを心の中で入れこんでいるアルトと香凛だった。


 「24はね。クリスマスイブって言うんだよ。春君。今までお祝いしなかったの?」


 不思議に思いながらも香凛は努めて明るく聞いた。


 「え。そんな中途半端な日にちでお祝い事があるんですね」

 「おい。宗像先生。ハルになんも教えてないの!?」


 春斗にとって、12月24日は普通の日らしい。


 「じゃあ。もしかして春君。他の日にもお祝いってしてないの?」


 宗像を疑った香凛は一応聞いてみた。


 「ん。他の日にも祝う事があるんですか!」

 「お正月とかさ!」

 「お正月と言えば!・・・・ダンジョンですよね!」

 

 ずさあああッと転びかけた。

 あんたその日もダンジョンにいたんかい。

 と二人の心の中は激しいツッコミの最中だ。


 「おい。まさかハル。宗像先生と一緒にダンジョンで行動してたのかよ?」 

 「はい。12月の終わりごろから、1月の5日くらいまではダンジョンです」

 「寄りにも寄ってその期間かよ。なんで?」

 「ええ。宗像さんが言うにはダンジョンの中が込まないそうなんです。その日らへんがベストらしく、中をじっくり見て、下調べをしながら移動しても変な目で見られないから楽だと」

 「「・・・・」」


 想像以上の変人。

 二人は同じことを思って黙った。


 「お前。それでいいのかよ。お祝いしろよ。新年だぞ」

 「ええ。だから、1月1日だけはダンジョン内で、セーフティーゾーンを作ってお祝いしますよ。お餅とか焼いて、鍋もします。まあでも二人だけですがね」

 

 なんとまあ特殊な親子だわ。


 「「・・・ああ。そうですか」」


 二人は遠い目で答えた。


 「ん? じゃあ、ハル。来年も・・っつうか。今年もダンジョン行く予定なのか」

 「え。まあ。そろそろ宗像さんから連絡が来ると思いますね。でもどうなんでしょうね。最近は先生としても忙しいでしょうから、来年はパスなんですかね。いまいちわかりませんね」

 「「・・・・」」

 

 なんて答えたらいいんだろう。

 二人は黙った。


 「ああでも、行きたいですね。今から冬休みですから、そのくらいがダンジョンに行けるチャンスなんですけどね」


 来年も入りたかったな。

 春斗は久しぶりにダンジョンに入りたいと思っていた。


 「つうかさ。ハル。宗像先生って普段何してんの?」

 「ええっと。五味さんと一緒に、ダンジョンの被害者捜索の仕事をしています」

 「被害者?」

 「はい。怪我人も救助するんですけど。ダンジョンイレギュラーなどで被害を受けた人。あとはダンジョンでギルド間での軋轢が生じた場合に、調停に入る仕事をしていますね」

 「なるほどな。対人がメインか・・・なあ。それできんの。あの人?」

 「ええ。基本は五味さんがやります。五味さんはそういう部分がとても上手でして」


 五味義経。

 あの変人である宗像四郎の親友になれた男。

 だから一般人とのやりとりが上手いのが確定している。

 あの男を御せるのであれば、誰とでもスムーズに会話が出来るに決まっているからだ。


 「だよな」


 その仕事、宗像には無理そうだ。アルトは思った。


 「でも宗像さんも上手ですよ。調停場に現れたら、皆さん、そそくさと帰ろうとしますから。問題解決が早いことで有名です」

 「なあ。それってさ・・・」


 宗像さんがおかしいから、話し合いを捨てて、皆諦めて帰ってるんじゃないか。

 そっちで有名なんじゃないか。

 アルトは言いたい事を飲み込んだ。


 「まあいいや。それより、24はどうする? お前暇?」

 「ええ。暇ですけど。何かあるんですか」

 「その日。皆でパーティーしねえか。仲間内でさ」

 「いいですよ。でもなぜ?」

 「疑問は持つな。そういう日だからさ。じゃあ、俺が皆を呼んでおくから、その辺宜しく。あ、あとさ。プレゼント用意しておけよ」

 「プレゼント?」

 「交換すんのよ。皆でさ」

 「交換ですか。一人一人にあげるんですか?」

 「いや、皆のを集めてさ。ごちゃごちゃにして、ランダムで一個を取る形にしようぜ!」

 「わかりました」


 プレゼント交換会をしようとなった。

 


 ◇


 クリスマス三日前。

 春斗は、桃百からのお誘いを受けた。

 プレゼント用のお買い物をしましょうとなり、お出かけすることが決まったのである。


 商店街の入り口で春斗が待っていると、いつも通りのピンクコーデの彼女がやって来た。


 「春斗さん」

 「モモさん。完全装備ですね。寒いですか?」

 「ええ。まあ。というよりもですよ。むしろ春斗さんが寒くないんですか?」

 「大丈夫ですよ」


 春斗はそんなに厚着をしておらず、彼女の方は手袋にマフラーと防寒着が完璧に揃っていた。


 「春斗さんがいいのならいきましょう」

 「はい! でもどこにですか? 自分プレゼントなんて買ったことがないので、どこに行けばいいかも知りませんよ。無知ですみません。こういう時は自分の方が案内するのが良いとの事だったのに」


 男性リードでいけよ。

 アルトのアドバイスはそれだったが、春斗は正直な人なので、手の内をバラしてしまう。

 知識が無い時に、無いとハッキリ言うのもいかがなものなのか。

 ここは見栄を張ってもいい場面だったかもしれない。

 春斗が正直すぎた。


 「はい。なので、まずはデパートに」

 「わかりました」


 それでも、彼女は気にしない。

 桃百は春斗のその部分に惹かれているから、気にもしないのだ。


 彼女は、あれから春斗の秘密を知っている。

 青井の秘密も能力の秘密もだ。それでも、彼女は受け入れた。

 春斗の存在自体をだ。

 それを受け止めて、親しい友達くらいの間柄になっても、付き合うまでに至っていない。

 春斗個人に付き纏う問題が根深いから、春斗も彼女を受け入れがたいし、それに何よりハッキリ好きだと桃百の方も伝えられなかったので、中途半端な形となった。

 お友達付き合いをこれからもしていきましょうとなった。そんなちょっとした話し合いがあったのだ。

 

 春斗は、あの文化祭の最後の方から、悲しみも、辛さも、どちらも表情から消えている。


 「デパートってなんです?」

 「そこからですか!?」


 春斗はその存在を知らなかった。


 「えっとですね。三十年前くらいに復活したお買い物をする場所ですね。だからレトロと言えばレトロですよね。仕組みが・・・」

 「そうなんですね。へぇ」


 この当時にあるデパートとは、昭和時代などにあった百貨店と同じだ。

 ただし、一部商品に違いがある。

 それが・・・。


 「うおおお。これは!」


 春斗はそのコーナーに立ち寄ると目が輝いた。


 「こっちは最新鋭の装置ですね。あ、こっちも」

 「春斗さん。楽しそうですね」

 「いや。まさかここに、こんな場所で、こんな良い物があるとは・・・思ってませんでした!」


 そうデパートの中には、大手ダンジョンストアがあった。

 ダンジョンに役立つ商品を販売する二大会社の内の一つ。

 【オルティアダンジョンストア】

 通称ODS。一井家が持つ会社だ。

 ちなみにもう一つの会社がノルヴァースダンジョンショップで、通称NDSである。

 こちらは青井家が持っている会社で、そうなると結局は争う形じゃなくて、独占事業となる。

 かつてはもっと会社があったが、この両家が全てをまとめる形で、ほぼ国家運営となった。


 春斗の趣味のものが、憎き青井家が牛耳っている。

 このことに嫌悪感があっても、彼はダンジョンが好きだから仕方なくこれらの商品を買うしかないのだ。

 

 「凄い! これも。それも・・・でもこれ買ってもな・・・」


 春斗は思う。

 誰も喜ばない。

 喜ぶのは自分だけだなと、ガラスケースに入った商品に飛びついている自分を振り返って、理性を取り戻した。


 「駄目ですね。モモさん。ごめんなさい。はしゃいじゃいました」


 自分を反省する。


 「ふふふふ」

 「あれ? 笑ってます? なんか面白いことしましたっけ?」

 「いいえ。春斗さんがこんなに嬉しそうな顔をするんだって、そう思ったら嬉しくなっちゃって」

 「え? 自分が嬉しそう?」

 「はい。今、目がキラキラしてますよ」

 「え? それは自分では確認できませんね」

 「そうですか。じゃあ、私の瞳を見てください」

 「ん?」


 二人が見つめ合う。


 「どうです。見えました」

 「自分の目ですか?」

 「はい」

 「見えませんよ。モモさんの目しか」

 「あれ?」


 桃百は自分の瞳を見てもらえれば、鏡のようになって春斗にも見えると思った。


 「でも、モモさんの目もキラキラしてましたよ」

 「あら。そうでしたか」

 「ええ。とても綺麗でした」

 「・・・そ。そうですか。なんだか照れますね」

 「いえいえ」


 その前に公の場で見つめ合ったことを照れろ。ガキども!

 彼女募集中のショップの男性店員は無言で視線を送った。


 「まあ。しょうがないですよね。ダンジョングッズをあげても喜ばないんじゃ。買えないですね」


 それをここで言うな。ガキ! 

 ここはその喜ばれないグッズを売ってるところなんだぞ!

 失礼だろうがと。

 ショップの男性店員は、陳列棚の影に立って思った。


 「自分の為には買わないんですか?」

 「そうですね。最近ダンジョンに潜っていないので、ドサっと貯めないと買えませんね。額が額なんでね。駄目ですね。残念です」

 「そうでしたか。んんん。え!?」


 思った以上のお値段で、桃百もビックリ。

 中腰になって棚に置いてある新商品の高性能カメラを見たら、桁が三桁が最低だった。

 

 「は、春斗さん」

 

 動揺して、春斗を叩く手に力が入る。


 「はい?」


 それは気にしないで、普通に返事をした。


 「こ、この額でも。か、買えるんですか。春斗さんは!?」

 「ええ。そうですね。一回ダンジョンに潜ればですけどね。お金を貯めれば何とかいけます。でもまだ貯蓄してないんで。足りないと思いますね。この間お買い物しちゃったし」

 「えええええ」


 春斗のダンジョン進軍速度は、本気を出せば、一日で一気に20層近くいく。

 それで、個人でほぼいけるので、取り分も独り占めできるから、最低でもその額程度は狩れるのだ。

 これが集団でいくと、分配方式になるだろうから難しい。

 ギルドはそのお金を巡った争いが多い。

 だからリーダーとなる者の力量が試される。


 「でもアルトが言ってたんですよね。最高でも五千円だって。だから探す場所は別な場所ですね」

 「・・・そ。そうですよ。その方が良いですよ」

 

 アルトさんの言っている事が健全です!

 桃百は、そんな額のプレゼントをされても恐縮するだけだと思った。

 



 ◇


 プレゼント交換用のプレゼントを買った後。

 

 「モモさん」

 「はい。なんでしょうか?」


 桃百の分の荷物を持っている春斗は、あちらの店に入りましょうと指を差す。


 「あれ。あそこのアクセサリーを買いましょう」

 「え? あちらのですか」

 「はい。お礼に買いますね」

 「お礼ですか? なんのでしょう」

 「自分。一人では、選べなかったと思うので、桃百さんにお礼したいです」

 「いいんでしょうか。私、大したことをしてないんですけど・・・」


 桃百もここら辺の感性が春斗と似ているのだ。

 似た者同士の遠慮である。

 

 「はい。大丈夫です! それとあの」

 「ん? なんでしょうか」


 春斗にしては珍しく話に続きがあった。


 「その当日にですよ。モモさんにあげられないと思うんです。たくさんの友達と遊ぶじゃないですか」

 「まあ私のも春斗さんにはいかないと思いますよ」

 「ええ。でもですよ。やっぱり、モモさんには個別であげたいです。それが主な理由ですね。駄目でしょうか?」


 これにはアルトのアドバイスがあった。


 まだプレゼントを買えるんだったら、買え。

 そんで彼女のためのものを一つ。一緒に選ぶんだと。


 なぜ一緒に買えと言ったのか。

 それは物と共に、思い出を残せるからだと力説していた。

 アルトは、春斗のために指導もしていたのだ。

 それは普段自分の訓練に付き合ってくれてありがとうと言わないけれども、さりげなくありがたい指導をやり返してくれているのだ。


 「・・・はい。わかりました。一緒に探しましょう」


 頬を染めた桃百が嬉しそうに笑った。



 ◇


 その後。

 仲良くショップで探していると。


 【高校生? 最近の高校生は、凄いわね。こんな所で買い物できると思っちゃうの】


 高級ショップじゃないけど、良いお値段のするアクセサリーショップ。

 その女性店員は、顔は笑顔だが、心は毒づいている。


 「春斗さん。ここ、お高いですけど」


 桃百が小声で言った。


 「ここがですか? え???」


 春斗の方はお値段に無頓着だ。

 お財布に余裕がある。


 「あのだって・・・二桁しますよ」

 「二桁? 十円とかじゃないですよ。これは六桁では?」

 「か、数えるのは万からなんですぅ」

 「ああ。そういう意味でしたか」


 春斗はある意味で馬鹿である。


 「これとかどうですか」

 「指輪!? うわぁ。高いぃ」


 100万は超えていた。

 目が飛び出そうになる桃百と。


 【あのガキ。舐めてるの。ガキが買える額じゃないでしょ。いい。絶対触らせないわよ】


 女性店員の怒りに満ちた心の声が、ここで同時に起きた。


 「お客様。買って頂けるものしか、試着は出来ませんよ」 


 それもさせんと、言葉で動きを封じ込めようとした。


 「え。試着? そんなのあるんですか」

 「いえ。ありません」


 本当は出来るが、ここはさせないとした。

 店員の顔が引きつっているので、少々怒っている。


 「そうだ。近くで見るってのもあるんですか。ここから取り出してもらうとか。手に取った感触がいいとかで選べるかもしれませんし」


 ガラスケースから出してもらえますか。

 春斗の言葉に。


 「いえ。ありません」

 

 嘘をつく店員。

 バチバチでやり合っているように見えるが。


 「そうでしたか。残念ですね。モモさん」


 春斗は全く気にしてない。

 女性の態度が冷たいことに気付いていない。

 でも桃百は気付いている。

 なにせ。


 【なんだこのガキ。なんでここで下がらない。私がここまで拒絶をしているのに!?】


 という心の声が聞こえている。


 「あの春斗さん。や、やめておきません。無理はしない方が・・・」


 一応春斗を止めるが、無理だと彼女は気付いている。

 春斗はこういう時は鈍感なのだ。


 【この子の言う事を聞け! 常識外れ!!!】


 この心の声も漏れている。


 「え。無理って何ですか?」

 「あの・・・それはですね」


 桃百が困っている間も、漏れ出す闘志がある。


 【無理じゃないってか。無理してないってか。かぁ。このご時世のガキは、見栄っ張りで困っちゃうね。女の子にいい所を見せたいってか。働いてもいないガキがここで指輪を買うなんてな。金持ちの馬鹿息子しかいねえんだよ。おい、あんた金持ちか。あんた。金持ちなのか! 大金持ちなのか!! ああ! もしそうだったら羨ましい!】


 凄い愚痴三昧だ。


 「桃百さんに合いそうなのがいいな。どれがいいです。桃百さん」

 

 春斗は暢気に、商品を見ている。

 でも桃百は緊張しながら、横目で女性店員を見ている。


 【なに。まだ諦めねえってか! なんだこのガキは!!】


 たまらずに前に出てきた。


 「失礼を承知で言いますが、お客様は、私共の商品を買えるのでしょうか?」

 「え。はい。大丈夫ですよ。心配しないでください。買えます。まだお金はありますから」


 春斗は、お財布事情を心配してくれたと思って素直に返事をする。 

 

 【なんだとこのガキ!? 私にも見栄を張るだと】


 ここで下がらないのが、女性店員。


 「お客様。どう見ても、成人男性では・・・」

 「ええ。そうですよ。まだ高校生の年代ですね」

 「ですよね・・・ですよねえ・・・ですよねえええ」

 「はい」


 素直に返事をするだけで終わる。

 

 【気付けよガキ。お前じゃ、買うの無理だろって意味で言ったんだけど。なにが、ポカーンとした顔で、「はい」だボケ。なんだこのガキは!!! 親からどういう教育を受けてきたんだ】


 という宗像にまで迫る勢いだった。


 「あの本当に大変申し訳ないのですが、お客様はこちらのお店よりも、はす向かいのお店辺りがいいのでは?」

 「はす向かい?」


 春斗は斜め先のショップを見た。

 おもちゃコーナーもある場所で、小さなジュエリーショップだ。


 「ああ。そうですか。でもこちらの方が品揃えが良さそうなんで。こっちでいいですよ」


 出て行けとの攻撃が効いていない!?

 失礼をかましても、言ったのにと。

 女性店員は驚く


 【し、信じられん。なんだこの男は!? 凄まじい鈍感力だ!? 口論の戦闘力が高すぎる。私では勝てないかもしれん】


 口に自信のある店員は、心が砕け散りそうだった。

 相手を説得できないなど、十年以上働いて来て初めてである。


 「いや。どれも素敵ですね。どうします。モモさん」

 「は・・はぁ。はい」


 桃百は冷や汗をかきながらアクセサリーを見ていた。


 「失礼します。お客様」


 引きつった笑顔のまま店員は春斗の前に立った。


 「なんでしょう」

 「お客様は何でお支払いを? まさか、ここがレトロなシステムを採用しているからと言ってね。現金ではありませんからね」

 「はい。カード持っていますよ」

 「そうですか。見せてもらっても良いですか。こちらで使用出来るものか、調べますので・・・」


 失礼のないように資金チェックである。

 カードでも、高校生が持つカードなど、大したものではないと店員は思っていた。


 「いいですよ。ちょっと待ってくださいね」


 春斗が小さなバックから取り出した。

 黒のカードである。店員に渡す。


 「これ。使えますか? もしかして駄目?」

 「しらべ・・・」


 店員は、カードを手に持ってから一目見て死にかけた。


 【なんだとおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお】


 青年から貰ったカードはなんと。


 「DDDDDブラック!?」

 「はい。そうですよ。使えますかね?」

 「・・・・はぁあああああああああああああ」


 バタンと倒れた。


 「えええ。だ、大丈夫ですか。店員さん」

 「ちょ。春斗さん。私、他の人を呼んできます」


 女性店員が倒れた理由。

 それは、Dブラックにある。

 Dブラック。正式名ダンジョンブラックカード。

 こちらを持つ者は日本でも極少数だ。

 それは、トップクラスの魔晶石のやり取りをするものしか手に入れられないからだ。

 ハンターで言えばA級上位以上。

 ギルドで言えば、リーダー。

 政府で言えば、部長クラス。

 とにかく、魔晶石のやり取りの額が一定以上を超える者だけが、手にすることを許されるもの。

 それをまだ若い男の子が持っていると誰が想像できただろうか。


 店員は悪くない。桃百も悪くない。

 春斗が全面的に悪いのである。

 これが特別であると気付いていないからだ。


 この後。

 結局こちらでは、この女性の対応で忙しく、物が買えない事になり、ここよりもうんと安い場所で、桃百は三日月のイヤリングを買ってもらった。

 右耳に着けるだけの一個のものだった。

 それだけでも桃百が喜んでくれて、高額じゃなくてもいいんだと春斗は思った。

 それに、プレゼントを選ぶのも難しいんだなと思う春斗でもあった。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ