第31話 春斗の目指す人
文化祭まであと一カ月を切った日。
授業終わりの春斗は、いつものメンバーと一緒にいた。
教室の後ろの壁に寄りかかって、六人で話をしていた所、春斗は、香凛に肩を叩かれて目の前の現状に気付いた。
「春君」
「ん。なんですか」
「なんで行列が出来てんの?」
「え・・・あ、そうですね。自分の前に列がありますね。なぜでしょう?」
春斗の前に行列が出来ていた。
クラスの女子たちがそわそわしている。
列の先頭の子が春斗と目を合わせると、意を決して一歩前へ踏み込む。
「あの」
一組第一班の呉満里奈は、小さな子なので、春斗の視線は自然と下へ向かう。
「はい。なんでしょうか」
淡々としていても優しい言い方。
春斗は紳士的な側面がある。
「い。一緒に踊ってもらえますか!」
声が大きいのに緊張の味がする。声が震えていた。
「へ?」
「お願いします」
一生懸命に頭を下げているから、春斗は戸惑うしかない。
女性からのお誘いの経験がないからだ。
「自分とですか? なぜ???」
「お願いします」
「いや・・・今?」
断ろうかと思ったが、一応話を繋げる。
失礼のないように理由を聞いておこうとした。
「違います。文化祭の時です」
「・・・文化祭・・・ああ、そういえば最後の・・・」
先刻聞かされた文化祭スケジュールを春斗は思い出す。
クラスの催し物が終わると、最後にはキャンプファイヤーを囲んでのダンスがあって、そのことでの相談だと考えを改めた。
「なるほど・・でも自分とですか」
「どうでしょうか!」
「いや。別に自分じゃなくてもいいのでは?」
「いいえ。春斗君がいいんです」
キラキラした目でお願いされたので、何だか断るのも悪いと思い、春斗は渋々承諾する。
「まあ。そんなに言うなら」
「やった。私でもいいなら。うんうん、皆さんいけますよ。頑張ろう!」
「「「おおおおおおおおお」」」
彼女の後ろの女性陣が、次々と手を挙げた。
「私も」「僕も」「うちも!」
春斗に懇願する女性陣の顔面の勢い。それと声の圧力が凄まじく、結局春斗は全員に許可を出した。
嵐が去った後。
「な。なんで自分に? アルトじゃなく???」
隣にいるイケメンに言えばいいじゃないか。
春斗はそう思っていた。
「ぐぬぬぬ。あたしの春君だよ。みんな! ずるい。春君。あたしも踊りたい!」
香凛は、怒った顔で春斗にお願いする。
「え。香凛もですか」
「嫌なの!」
「嫌じゃないですけど、面倒ですね」
「なんで!? 皆は良くて、あたしは駄目なの」
「それはそうですね。面倒です」
「がーーーーん」
顎が外れそうな香凛を前にしても春斗はいつも通り。
春斗は正直者すぎるのだ。
学校一のマドンナと、文化祭でダンスなんか踊ったら、周りから何を言われるかわからない。
そっちが面倒だという意味で、別に香凛と踊る事が面倒だと言っているわけじゃない。
「まあ、ハルの言う通りだわな、お前と踊ったら何を言われるかわからないもんな」
「ですよね。アルト」
「ああ」
アルトも同じ感想だった。
「にしても、自分と踊りたいとはどういう事でしょう」
「それはですね」
茂野が返す。
「はい。茂野さん」
「あのダンスの時間ですけど。最低一人とは踊らねばなりません。なので、皆さん。どこぞの馬の骨と踊るのが嫌なのでしょう」
「馬の骨・・・」
相変わらず辛辣だな。
いつも淡々としている女版春斗と言われている茂野である。
「はい。だから一番最初に春斗君と踊っておけば、皆さん。ノルマクリアなので、あとは気に入った人と踊ればいいとしているのではないでしょうか?」
「なるほど。それって、自分が良いように使われているんですね」
「はい。それが理由の半分でしょう」
「半分?」
茂野の続きは円だ。
明るく話す。
「そう! 春斗君はね。結構モテモテなんだ。人気あるんだよ」
「自分が?」
「うん。ほら、うちらのクラスってさ。アルト様と香凛様がいるでしょ」
「いますね」
春斗は二人を見た。
どちらもかなりの美形である。
「だから他よりも美の基準が高けえの!」
なんでそこで男口調?
皆の疑問だ。
「基準が高いと、良いんですか? 悪いんですか?」
春斗には、そこがよく分からない。
「別にどっちも関係ないよ」
「はい?」
基準はどうでもいいらしい。
じゃあ、さっきの発言何の意味だ?
春斗は大混乱していた。
「うちらのクラスって、目が肥えてる。アルト様がカッコイイ。香凛様が美人。これが基準。だから自分たちは・・・・ってなっちゃうわけ」
「この二人と比較するんですか。無駄では?」
誰もが格落ちになりますよ。
春斗は親友たちの美を褒めている。
「うん。それでさ。この思考に向かうとさ。どうなっていくか。わかる?」
「いいえ。わかりません」
「それは、No2を狙いにいきます!」
「No2??? まさか・・自分?」
「うん」
円は、春斗を指差した。
「拙者。春斗殿もカッコイイと思いますでござる」
なぜ侍口調?
皆が思う疑問だ。
「春斗殿。端正な顔立ちというよりかは、若干男らしい。アルト様とは違う方向性でござる。その上で、優しいでござるし、紳士でござる。ダンスしても厭らしい感じにならないでござる。さらに最大ポイントがありましてね」
ござるが抜けた。
「最大って何がです?」
「細マッチョであります!」
「え??? 体?」
「重要であります。太すぎず、痩せすぎず。ちょうどいい感じの肉体です。バッチリ!」
「これがですか?」
自分の体を見た春斗は、円の言っている事を理解できなかった。
「春斗殿。モテモテなのですぞ。女の子はですな。届かない人は憧れとなり、届きそうだと好きになっちゃうんですぞ。恋愛馬鹿になれば、届かない人に挑戦するんだろうけど・・・やっぱり届きたい恋に行きたいから!」
「それが自分だと?」
「うん」
「え?」
「うん」
二回目のうんが強かった。
「そ、そうなんですね。自分が・・・これのどこがいいんでしょうかね。ダンジョン好きですよ」
そう皆はダンジョン好きな事を理解していない。
オタク中のオタクが春斗である。
「それも込みでいいんじゃないでしょうか」
茂野が言った。
「込みで? 自分の趣味でも」
「はい。この学校の人たちの大半がハンターになりますから。ダンジョンに詳しいってだけでも、プラス要素じゃないですか。評価のマイナスにはならないと思いますよ」
「なるほど・・・たしかにそう考えれば・・・」
将来性も込みで、女性陣は春斗がいいなと思っている。
手の届きそうな感じ。男らしい顔と体。優しく紳士的な人柄。
この三つがモテる要素になっていた。
その点、アルトもモテてはいるが、恋愛したいとまでは行かないのだ。
あまりにもカッコよすぎて、現実離れしているから、外から眺めるだけでいたい。
これは現実逃避にも近い形であって、女性陣はお付き合いにまで発展させようとも思っていない。
ドラマとか映画とかの俳優を見ている感覚だろう。
その先の一歩踏み込んだ形には、普通の女性は進もうと思わない。
恋愛馬鹿になってしまった女性だけが追う事が出来る。
「はぁ。そんなもんなんですね」
「そこもじゃないかな」
春斗の声に反応したのは、敦。
ぼそっと指摘した。
「ん? 敦なんでしょう」
「たぶん、春斗君のさ。褒められても有頂天にならない感じもまたカッコいいんじゃないかな。大人な感じがするんじゃない。僕らのような子供みたいな人にとってはさ」
「・・・大人ですか。自分が? あまり思わないですね」
「ううん。雰囲気が大人っぽいんだよ。だってはしゃいだりしないでしょ。浜辺みたいに」
全員で浜辺を見ると。
「ヘックション!」
浜辺はくしゃみをした。その後。
「ああ。誰か! 俺の噂をしたな。へへ~ん。モテモテ!」
落ち着きがない。
一人で勝手に盛り上がれるのはある意味才能である。
「ほらね」
「「「「そうかも」」」」
全員が納得した。
「あああ。あたしだけの春君が! 皆にカッコよさがバレてきた! あの体育祭が悪かったのかな。あのカッコイイ感じ。ねえ。茂野さん。春君に守られたでしょ」
「え。あ。はい」
「カッコよかったよね!!」
「まあ。そうですね。とても恰好良かったですね」
辛口の茂野も褒めるくらいに、春斗のあの時の動きはカッコよかった。
自分に迫って来ていないボールを追いかけて、内政系の人間たちを守るために動いていた事だ。
それとその後の生着替えが良くなかったらしい。視線を貰っている事に気付いていない春斗が、汗をかいたからと服を着替えた時に上半身が全部出た事がいけなかった。
均整の取れた腹筋と胸筋がちらりと見えるどこからだ。
全部が露わになってしまったのだ。
それを見て、ときめかない女子はいないだろう。
争奪戦はあそこから始まっている。
「だよね。あああ、皆にバレちゃった。春君のせいだぞ」
「え。自分?」
香凛が春斗に迫る。
いつものように顔が近い。
もう少しでキスが出来る距離だ。
「怒らないでくださいよ。香凛」
でも春斗は一切動じない。
慣れが生じている。
「怒ってません」
「じゃあ、顔は少し離して。眉間のしわしか見えませんよ」
「怒ってません。カッコイイから見てました!」
「ああ。そうですか」
このやりとりも慣れてきた。
もはや、褒められているという認識じゃなくて、普段通りのやり取りになりつつある。
「まあ。同意はするよな」
「アルトもですか」
「ああ。俺でも思うぜ。ハルはカッコいいからな」
本気で戦っている時がな。
とは言えないので、アルトはそこで言葉を切っている。
マッハモードの春斗は間違いなくカッコいい。
アルトの中の最高到達点の強さは春斗だと思っている。
少しでも近づけるようになりたいと日々努力しているのだ。
「自分では思いませんね。自分の中のカッコイイとは・・・それは、養父しかいないですね。それしかない」
春斗の中のカッコよさの頂点。
それが宗像四郎だ。
何もかもが全く関係がない自分を・・・。
それを昔の恋人の子だからと言って、無条件に愛を注いで育ててくれた。
これ以上のカッコよさは、この世にないと、春斗は思っている。
「そうか。見た目じゃない。生き方か」
春斗の理解者であるアルトが聞いた。
「ええ。そうです。カッコイイとは生き方から来るものだと。自分は思っています。自分もああなりたいと思いますよ」
「そうだな・・・かっこいいもんな。お前の親父!」
「ええ。当然です」
第一に信頼するは、宗像四郎。
春斗の思いの全てはそこにあった。




