第24話 距離感
夏休みの終盤に謎の集会があった。
集まったのは、一組六班。三組二班。四組四班の相生満。
ここに加えて、相談役として招集されたのが春斗だ。
発起人は一組第六班の多田羅目円である。
というのは彼女の独特のノリのせいであり、発起人には、勝手に立候補して就任している。
この集会は元々、春斗が三組二班の人たちと会う約束になっていた事から始まっていた。
彼が、そこに向かう際に、たまたま友人の相生満と校舎の角でバッタリ会った事で、そのまま五人で動こうとなった所で、さらにたまたま横入りする形になったのが、一組第六班の面子である。
だから、この集会は春斗以外が初対面だらけという不思議な集会なのだ。
皆の注目を集めてから、円が手を挙げる。
その後も彼女は元気一杯なので、ぴょんぴょん跳ねながら、手を上下に動かした。
「春斗君。私の質問に答えなさい!」
動いていた手が止まり、春斗を指差す。
「私たちは、アルト様と香凛様に近づいてもいいのでしょうか! 許されるのでしょうか」
「はい。別にいいんじゃないでしょうか」
誰かの許可を取るような事じゃないですよ。
春斗は、そんなニュアンスで答えた。
「駄目です」
質問してきた人が答えを言う。
意味が分からず、春斗が素直に驚く。
「え? ど、どういうこと」
春斗の様子が面白くて、桃百はクスクスと笑ってしまった。
彼が真剣だったから、自分のせいで気を悪くしたら悪いと思い、彼女は手で口元を隠している。
「春斗君。あの二人に気軽に近づいてはいけません! 話してもいけないんです!!」
「なぜですか?」
春斗は意味が分からないので、素直に聞いた。
「そうですか。君はその答えがわかりませんか。それじゃあ! そこの君、分かりますか!」
円は、目力の強い少年【相生満】を指差した。
他のクラスの子だから、名前が分からない。
「え。私?」
「そうそう。そこの少年よ! なぜ、お二人に近づいてならぬのか。答えてみよ!」
言い回しが古臭くなった。
「そ。それはですね・・・そうですね。私の立場に置き換えれば・・・・まあ。それは、話しかける側の実力不足となる。それが原因じゃないでしょうか!」
「その通~~~~り!!!!」
テンションの高い円は、茂野に耳を引っ張られる。
真っ赤になってから指を外してもらえた。
「いたたた」
「円。皆さん、困ってますよ」
「里ちゃん。いいじゃん。こういうのやってみたかったんだから」
二人の会話の後に続いたのが、この議題が始まる前から静かにしていた男性。
ぼそっと話し出した。
「迷惑だよ。たぶん・・・」
「敦君。違いますう。迷惑じゃないですう! 意見発表の場ですう」
「意見よりも、声が大きいのが迷惑だよ」
「ぐさっ!?」
自分の声の大きさは変えられない。
たしかにうるさいかもと円の心に特大ナイフが刺さった。
「春斗君。申し訳ありません。私の班の人が失礼を」
「いえ。茂野さん。お気になさらずに。いや。皆さん、いつもは静かですけど。今日は明るいですね。特にお二人が」
茂野里美と同じ班の多田羅目円と新城敦は、春斗たちの前の席にいる第六班の人たちだ。
そして、この二人は普段大人しいのが基本だ。
特にアルトと香凛がいる時は、ほとんど話さない。
話した姿を見た事がない。
なのに、今は楽しそうに話すことが出来ている。
「はい。この二人は、あのお二人を崇拝していますから、あの席にいると話せなくなる。病気みたいなものです」
「え。病気!?」
と素直な春斗が驚いていると。
桃百が近くに来て、耳打ちをする。
甘い香りがして、春斗はドキッとした。
「春斗さん。例えですよ。例え」
「え。そうでしたか。なるほど」
冗談が通じる時と通じない時の差が何だろう。
桃百は、春斗の心だけが読めないから、春斗の素直な反応を面白がっていた。
「それじゃあ、茂野さんは、あの二人と話せないんですか?」
「私は大丈夫です。春斗君も大丈夫でしょ?」
「はい。別に彼らは普通ですよ」
「ええ。私も思います。会話すれば普通の男の子と女の子です」
眼鏡をくいッと上げる。
彼女のこの癖は肯定の意味がある事に、春斗は最近気づいた。
「それに春斗君だってDですよね」
「え。あ。まあそうですよ」
違いますよとは言えないので、どぎまぎしながら答える。
まったくもって調査員としての演技の才が無い!
「でも普通に会話しますよね」
「はいもちろん」
「じゃあいいですよね。実力が違っても、普通の友人としていたって。駄目ですかね」
「ええ。当然良いに決まってますよ」
茂野の言葉が何より正しい。
春斗は深くうなずいた。
「で。でも。それ無理じゃありません。気の持ちようが難しいです。力の弱い人からしたら、あのお二人は殿上人・・・みたいな感じですよ」
目が力強い青年の名は相生満。
春斗のダンジョンフレンドの一人だ。
彼とは五月頃に知り合って、友人となっている。
経緯としては、彼のバックのキーホルダーがエクレストというモンスターであったために、春斗から話しかけた事から始まった縁だ。
彼の能力はパワー。
身体強化系であるが、Eなので常人とそんなに変わりない。
能力が成長をすることを期待して、彼は学校に入学した。
この学校はそういう子の方が多い。
153名の内。能力Eは42名いる。
毎年そのくらいの数がEとして入学して、でも卒業する頃にはその九割以上が一つ上のDにはなる。
たまに二段階成長をしてCまでいけて、極稀にBまで成長する者もいる。
能力は努力をすれば成長していくのだ。
ただし、その場合でもさすがにAの壁が分厚い。
なぜなら、BがAになる確率は、EがBまで成長するよりも低いのだ。
それと、Sへの道はそれよりも狭い。大成長する者はほぼいない。
だから、香凛の成長もすぐには起きていなかった。
彼女の実力は、一年生の段階ではAまでである。
「殿上人?」
春斗にはその感覚が分からない。
殿上人とは、政府であると思ってる。
永皇六家の人間たちがそれに該当するために、アルトと香凛は力があっても一般人であるとの認識だ。
春斗は人の能力の大小で、人の価値を決めない。
能力は使い方次第で、精神力次第だとも思っているからだ。
特にダンジョンではそこが重要となっているからこそ、人を馬鹿にすることがない。
やはり、春斗はダンジョン基準での考え方をしている。
「春斗さん」
「ん? モモさん。どうしました?」
再びモモが耳打ちをする。
「引け目があるんですよ。そんな感じの声が、皆さんから聞こえます」
「引け目って、何のです? 何を引け目に?」
「はい。自分なんかが話し相手になっても良いのかなって感じのです。実力不足を感じているようです」
「なんと!?」
皆がそんな事を思っているのかと春斗が驚いていると。
ガンを飛ばす男が現れた。
春斗の正面に立って、理人がメンチを切る。
「・・・・」
「え? なんですか?」
春斗が戸惑うと、微かに声が聞こえる。
「モモちゃんに近づくな。モモちゃんに近づくな。モモちゃんに近づくな」
名前を呼んでいるだけなのだが、呪いの言葉かよっと思うのは、彼の隣にいる成実だ。
「リっちゃん、ぶつぶつ何言ってんのだぞ。それじゃあ聞こえないんだぞ! ハッキリ伝えないから、モモちゃんを取られたんでしょ」
成実が大きな声で言った後に、肩を叩いた。
「取られた? 自分がモモさんを取った??? 何の話ですか?」
春斗は近くにいた桃百と茂野に聞いた。
二人ともキョトンとした顔をしている。
「「さあ」」
二人の返事直後に、友達に怒られてテンションダウンをしていた円の目が輝いた。
そういう話が大好物な彼女は、成実と同じ部類の人間。
恋する乙女系の話が大好きである。
甘酸っぱい話を嗅いで、頭の中はお花畑となる。
「そんなの決まってんじゃん! モモちゃんと、春斗君が付き合ってたんだね! そんで取られたってことは、この子からの略奪! 略奪愛。うひょう!」
キランっと言って、彼女は自分の右目にピースサインをした。
テンションが大復活の円は、元気一杯になった。
「「え?!」」
今度は春斗と桃百が驚いた。
良き友人関係だとは思っているが、付き合うなんて、そんなつもりがない。
「ん? 違うの。さっきから二人ともイイ感じなのに? イチャイチャしてたのに! 内緒話はね。彼氏と彼女の鉄板なんだ。誰にも聞かれたくないって、秘密はね。恋の炎になるんだよ。真っ赤な情熱にね!」
偏った知識を持つ円の話だ。
それを聞いた二人は。
「え。違いますよ。付き合ってなんかいないです」
「はい。私たちは違います」
首と手を振って同じ断り方をした。
「怪しい・・・君たち、同じ動きをしているでござる!」
昔が昔を呼んだ。
円は陽気な女性である。
「いや。これはたまたまで。ねえ。春斗さん」
「はい。そうです。たまたまです」
二人が再び同じような事を言うと、円は目を瞑り出した。もう少しで閉じそう。
「そうですか・・・たまたまで一致・・・君たち。すでに一心同体なくらいに・・・相手を思いやってるのですね・・・・拙者。感服したでござる!」
勝手に話を進めて、仲良しカップル認定していた。
今のが尊すぎて、腹切りをしますと、切腹ポーズを決める。
地面に膝を突いてから正座になって、両手を腹に置く。
「ちょっと。何やってるんですか。円さん。やめてください。足元が汚れますよ」
地面に座る彼女を心配して春斗が慌てると。
「いえ。春斗殿・・・拙者。今幸せを十分貰えたので、今生に悔いはなしでござる。ラブラブパワーは万病に効く・・・致死量の尊い話・・・・ああ、私の肩こりも治りそう」
意味不明な事を言って、満足していた。
ニマ~と笑ってから、エヘヘヘとなって昇天している。
間近で恋愛パワーを浴びた事で、ご満悦なのだ。
ラブパワーごっつあんですとも言っている。
「春斗君」
「はい。新城さん」
「気にしないで。この子。テンション高いだけだから」
「え。あ。はい」
この意味不明な円はいつもの事だからと、新城はここでもぼそっと指摘してくれた。
ほっとけば直る。
構うと長引くんだよ。
との有難いアドバイスをしてくれたのである。
しかしこの流れ、二人の関係が良いことの象徴となってしまい。
ますます彼が落ち込む。
「ふ。ふざけるな・・・なんで。もう。僕の・・・モモちゃんが・・モモ・・・・ちゃん・・が・・・」
がっくりと落ちた肩に、手を差し伸べても無駄となるだろう。
誰も彼に声を掛ける事が出来なかった。
この時、この声は心の声でも反芻されて、当然に桃百にも聞こえている。
桃百は、これが嫌だった。
相手の気持ちが勝手に聞こえてしまう。
それで、理人の気持ちも幼い頃から知っていて、別に嫌いじゃないのだが、好きでもないのだ。
それは、彼の心の声が聞こえながらも、その彼から出る言葉が、思いと逆だったからだ。
理人が自分を好きだと思っても、彼から出てくる言葉が別の言葉なら、幼い頃に人間不信となるのはしょうがない部分だった。
しかし彼女も段々と大人に近づいてくると人間は本音と建前があるのだと理解して、彼の事は気にしなくなった。
自分を好いてくれるから良い人ではある。
それが、桃百が思う現在の理人への感情だ。
だから、自分の好きな人ではなく、良いお友達の感覚で止まっている。
自分が本当の意味で、誰かを好きになる事があるのか。
そんな事を思っている矢先に、感情が揺さぶられたのが、春斗の出現だ。
相手の心の声が聞こえないから、相手が何を思っているのかは、自分の目で、耳で、五感で感じて判断しないと分からない相手は彼だけ。
これほど面白い人物は、この先の生涯でも出会えないだろうと思っている。
彼を本当の意味で好きかどうかはまだわからない。
でも、桃百は春斗が大切である事だけは、心からの気持ちとして一つ自分の気持ちを大切にしていた。
「春斗さん」
「ん?」
「ごめんなさい。私のせいで、こんな事に」
「どんな事?」
「私と付き合ってるなんて、皆さんに勘違いさせたみたいで」
「いえいえ。モモさんが謝る事ではないですよ。自分も悪いです」
「え。でも・・・」
春斗に迷惑をかけてしまった。
それが何より嫌だ。
だから、桃百は一心に謝っていたのだが、そこに眼鏡をくいッと上げた茂野が話しだす。
「モモさんでしたね」
「はい」
「大丈夫ですよ。心配しなくても。お二人は一つも悪くありません。この人が圧倒的に悪いんです」
ビシっと指差した先は、円だ。
円は指を差された事で、ギョッとした顔で驚く。
「この脳内桃色少女が、勝手に勘違いしたことが悪いんです」
「そ。そうなんですか」
「はい。お二人にはご迷惑をおかけしました。ごめんなさい」
代わりに茂野が謝った。
本来は円が謝るべきなのに。
「い。いえ。私にそんなことは・・・」
桃百はこの人物が心から謝っていると知っている。
茂野の心の声も合致しているのだ。
「ですよね。敦君」
「うん。これが悪いね」
敦もビシっと指を差す。
すると円の首はうな垂れて、ガーンっと言いながら気落ちしている。
テンションの乱高下だ。
「はい。ですから、お二人は気にせず、お友達付き合いすらも辞めないようにお願いします。先程のような茶化すような真似は絶対にさせませんので。お二人とも仲の良いままで」
こんな事で二人が距離を取ったらいけない。
この中で一番大人なのは、茂野里美であった。
「は。はい。わかりました。そんなに丁寧に謝らなくても」
「そうですよ。茂野さん。自分は辞めません」
桃百と春斗は、茂野に顔を上げて欲しいと言った。
「はい。それと我儘ですが。これからも私たちとも仲良くしてもらえると嬉しいです。こちらのどうしようもない円ともどもですが。私たちもお願いします」
「僕もお願いします」
茂野と新城が頭を下げて、この場は丸く収まった。
集会は、春斗にとって貴重な良い集会となる。
友人たちとの交友を深めるきっかけとなったからだ。




