第22話 気怠い男ダニエル
傲慢そうに見えたエミリオは、潔い良い武闘派のおじさんだった。
勝者を讃えてからは、普通の態度で接してきた。
「うん。貴殿は面白いな。何の能力だ」
「それは・・・」
春斗がチラッと麗華を見ると、彼女が代理で答えてくれる。
「私共の企業秘密です」
優雅に頭を下げた。
「なるほど。だから人払い」
そこが人がいなくなった理由。
この男性の存在が駄目なのではなく、能力を隠したいという訳を理解した。
「旦那ぁ」
会話をしている春斗たちから見て、使節団の中で一番奥にいる人物が話し出した。
その人物は、春斗が一番最初に使節団を見た時に、面白そうだと思った人物だ。
「ん?」
「音じゃないすか」
地べたにたむろする人間のように、今度は片膝に片腕を置いて、だらしなく座る男がタバコを咥えていた。
話しにくそうなのに、器用に話す。
「ダニエル・・・ここでタバコは吸えないからな」
「そんなのわかってますよ。だから咥えてるだけっす」
ちゃんとしている所は、ちゃんとしている。
タバコに火が点いてない。
「その子。最初の段階は身体強化系かと思いましたがね。まあ、あまりにも旦那と似たような感じで戦っているんで。違うと思うんすよ。その子は能力を上手く使って、肉体強化してるんじゃないすか。万能タイプっすよ。めっちゃ珍しいっす」
「そうか。なるほどな。空気で戦う我と似たような戦闘スタイルか」
空気を操って行動をするのがエミリオだ。
最速の動きを実現させているのは、空気を圧縮して押し出して移動していたから。
拳が瞬間的に移動するのも、肘の位置に空気を置いて、そこから前へと射出している形で攻撃している。
ちなみに反動などは、以前春斗が言っていたオーラの力の制御している。
「しかしそれが機密になる事か?」
「なりませんね。音の能力者はスペインにもいますよ。ですけど、これほど上手く戦闘する子はいませんね。能力をフル活用できている。そんな人物はスペインでもほんの一握り。至宝や旦那くらいじゃないですか」
そろそろこのタバコにも火を点けたいなと思いながら、ダニエルは答えていた。
「ふっ。お前もだろ」
「俺は・・・・使えないっすよ。面倒だから」
「駄目な理由は、やる気がないだけだな」
「そういう事にしておいてください」
気怠そうなダニエルは徐に立ち上がって、近くにいた職員に聞く。
歯で軽く挟んでいる自分のタバコを指差しながら、職員の女性の顔を見ていた。
「これ・・・喫煙所ってあります? レトロなタバコっすけど、入れますかね?」
「大丈夫です。あります」
「じゃあ。案内、お願いできますかね」
「いいですよ。こちらです」
「うっす」
男性は喜んで職員の女性の後ろを歩く。
「旦那。俺。タバコ吸ってきます」
「わかった。でも休憩は少なめにしろ。すぐ戻れ」
「へ~い」
やる気のない男性は訓練室から出て行った。
「音か。なるほど。あのクロスカウンターの時の音は、そういう事か」
春斗を見て、しみじみと言ったエミリオだった。
◇
相手に言い当てられても、『そうです』とは簡単に答えられない。
能力が『音』だと分かられたとしても、重要な所は、計測不能であることが知られない事だ。
今の状態は、そこが五分五分だった。
腹の探り合いの中で、綱渡りの会話が続く。
「あなたは、風ですよね。エミリオ団長」
春斗が話題を替えようとした。
スムーズな展開で切り替えたので、五味と宗像の二人は驚いた。
上手くやれていると!?
「そうだ。風・・・空気でもある」
「なるほど。空気から風を生み出していると」
「それも出来る。能力は使い方次第。貴殿と同じだ」
「・・・はい。そうですね」
能力は本人の自由な発想によって、使い方が変わる。
春斗の本来の力は、相手に音を聞かせる事だ。
爆音で相手の耳を壊すのが基本戦術となる。
そこから春斗はイメージの力で、音波と音速を操っているのだ。
春斗の能力だと、アルトや香凛のように自分が持つ基本スタイルだけでは、相手を圧倒できない。
だから応用スタイルが多くなるのだ。
「しかしだ。その戦闘スタイルが身についているからと言ってだ。その肉体の方にも何かがあるな。あれほどの強さを受け止める身体能力が無ければな。あの動きは再現できないだろう」
たしかに、春斗と触れ合えば、そこが謎となる部分だろうが。
ここは政府と宗像の仮説が出ている部分だ。
春斗の力の大部分は、秋子からギフトを貰っていると予想されている。
神からの贈り物であるギフターズの力。
それが人の手で強化された唯一の人物。
それが春斗だ。
だから計測不能となったとされている。
でもなぜ、彼女の一時強化だった力が永続的に働いているのか。
これは謎であるが、宗像はこう思っている。
春斗への愛の力なのだと・・・・。
彼女の強い愛が、春斗の全てを救うのだと、変態紳士宗像四郎は思っている。
「ええ。まあ。父に鍛え上げられているので、そこらへんは、父の教えが良かったとしか思えませんね」
「そうか。ずいぶんと信頼を・・・」
親子の関係がいいのだなと、エミリオが微笑んでいると、人がぞろぞろと入って来た。
「ん?」
「団長殿。全体での訓練をしますか?」
麗華が話しかけてきた。
「ああ。いいだろう。我も満足したし、こちらもそちらも鍛えるべきだな。同盟国同士で連携をする機会があるかもしれないしな」
今すぐの戦争がないとしても、いつか来るかもしれない戦争に備える。
スペインと日本は、同盟国の中でも、しっかりとした連携の基盤があったのだ。
◇
レイソルを統率するエミリオが指示を出して人を選抜。
日本政府が選抜した兵士たちは、彼らとの集団模擬戦をしていた。
その間に、春斗は上からその様子を見下ろすことが出来る席で、全体を見ていた。
五味と宗像は、別の仕事が入って移動した後で、麗華は、模擬戦の補助をしているので下にいる。
なので一人きりだった。
「スペインの方が練度がある・・っと思う」
軍の事は分からないけど、動きの良さで言えばスペインが上。
春斗は、個人個人の動きだけじゃなく全体の動きを観察していた。
「それは、旦那の指導力っすね」
「え?」
気配がなかったので、背後にいた事に気付かなった。
春斗が後ろを振り向くと、タバコ休憩をしていた男性が、ベンチ型の席に寝そべっていた。
「うっす。坊ちゃん」
「あ、はい」
「さっきの疑問は、こっちの方が連携戦闘に慣れてるんですよ」
「慣れている?」
「日本って、世界大地震以降にどっか別の国と戦いましたか?」
「・・・おそらくはないかと」
「じゃあ、無理っすね。こっちは、アフリカと殺し合いの対人戦をしているんでね」
「え? 戦っていたんですか」
「ええ。西アフリカと東アフリカの小競り合いが消滅した時に、西アフリカとの戦いがありましてね。その時はギフターズ勝負でしたから、こっちの方が練度があるんすよ」
「・・・なるほど」
ぼんやりと全体を見ているであろうダニエルは、訓練で戦っている人たちに向けて指を差した。
「あそこ。旦那の左に立つ女性。あれが指揮官です。テレキネシスBっす」
「あれでですか」
「そうっす。あれでB。でも実力的にはAにも劣らない。それはなぜか。能力の使いどころがいいからです」
「使いどころ?」
「そうっす。日本。スペイン。第四次世界大戦の同盟国である。中央国たちは同じ基準で動いているっす。坊ちゃん、知ってます?」
「はい」
第四次世界大戦は二つの考えの元で戦いが起きた。
左右国と中央国の考えだ。
左右国は、皆が使用するエネルギーを全体で収集して、大国が一時管理してそこから分配すると考えた。
ロシア。中国。イギリス。オーストラリア。アルゼンチン。インド等々の国である。
こちらは、生活を維持するために、エネルギーを使えるだけ、使っていこうとする考えだった。
それに対して中央国は、エネルギーを持つ国が、残量を見極めることが出来るから、そこから分配を決める考えで動いた。
日本。アメリカ。スペイン。フランス。イタリア。カナダ。ブラジルが主な国だ。
これらの国はエネルギーの枯渇をコントロールする考えだった。
代替エネルギーが出来上がる前に、今のエネルギーを無くすまで使うのはナンセンスであるとした考えも決して悪くないのだが、今ある生活を維持できなくなるのも良くないと考える方も悪くない。
だからどちらの国も間違っていて、どちらの国も正しいとなる。
この戦争は避けられない考えの元で起きた戦争だった。
仕方のない戦争とも言えなくもないが、話し合いがもっとあるべきでもあった戦争だ。
なぜなら、結局は枯渇の方へと向かったからだ。
人類は愚かである。
魔晶石が無ければ、世界は人がいなくなるまで戦ったかもしれない。
「勉強熱心だ。いいですね」
ダニエルはニヤニヤと笑う。
おそらくはニコッと笑っているつもりなのだろうが、やる気のない表情が板に付きすぎて、顔が締まらない。
「全世界の正確な国際基準とは言えませんがね。元中央国のギフターズランクは、統一規格っす。うちらと坊ちゃんの国は同じ基準。でもBがAに見えるでしょ」
「はい。あの力はどうみてもAですよね」
複数に同時にテレキネシスを発動させているのは、Aが出来る神業の一つだ。
それを彼女は、人に対して行っているのでなおさらA判定を出せる。
「そうっす。でも彼女の計測レベルはB。これは戦闘技術で高く見せることが出来るっす。たとえば、複数を止めているテレキネシス。あれは、最低箇所だけを止めているっすね」
「最低ですか?・・・まさか、足のみ?」
「そうです。あの人が全部を止める必要が無いんすよ。いいっすか。手を止める必要がない。体を縛る必要がない。だって、皆で戦っていますからね」
ダニエルは自分の膝や肘を触って説明していた。
「なるほど。足さえ止めれば、味方がなんとかしてくれるから、そこを確実に抑えているんですね」
「そうっす。それも、味方とタイミングを合わせていれば、一瞬だけでいいんで、効率がいい」
楽して戦うのが一番良い。
無駄に力を使うのは面倒。
そんな感覚でダニエルは話している。
しかしこの考えは、ダンジョンに使えると春斗はダンジョン基準で話を聞いていた。
「・・・わかりました。なるほど。ソロ基準で考えたらBでも、効率を重視した連携で動けば、Aに見える。そういうことですね」
「そうっす。だから能力は自分次第っすよ。使い方次第で縦にも横にも。無限に広がるっすよ。君の音もかなりうまく使っているけど、まだまだ先があるっすよ」
「自分の能力。あなたは完全に気付いているんですね・・・」
ダニエルが頷く。
力を音そのものじゃなく、イメージを爆発させて、音速を再現している事にも、ダニエルは気付いている。
「そう。あと大切なのは、イメージ力もあるっす。ギフターズが、物理法則を越えた力を出せるのも、イメージの力。自由な発想が新たな力を生むっす」
「はいそうですね。その通りだと思います・・・あ。そうだお名前は?」
そういえば、話に夢中になっていて、名前を聞いていなかった。
春斗はこのタイミングで尋ねた。
「ダニエルっす。ダニエル・ペレスっす」
「自分は、春斗です」
「春斗ね。おっけっす。覚えたっす」
「はい。ダニエルさん」
「それで春斗君」
「はい」
「ダンジョンが好きっすか?」
「え? なぜそれを」
「いや、俺と似ているなと思って」
「そ。それは・・・」
ダニエルが胸ポケットから出した物。
それが春斗が持っているものと同じものだった。




