第21話 春斗 VS エミリオ
スペイン使節団『レイソル』
表向きの仕事は、同盟国との友好を深める事が目的となっている。
しかしその裏は、同盟各国の実力を測るために動いているのだ。
どちらが本当の目的かというと、裏が本当の目的。
表裏一体とはいっても、裏が真実に近い。
使節団団長エミリオ・フェルナンデス
三日前からの模擬戦から数えると、14戦14勝の全勝をマークしている。
これ以上負けてたまるかと、こちらの本部にいる強者たちが、挑むもののこれもまた負ける。
面子も丸つぶれとなっている状態の日本側は最終兵器である春斗を出して、スペインに挑戦することになった。
訓練室に先に入った麗華が挨拶する。
同時翻訳音声ソフトにより、外国人との直接の対話がスムーズとなっている。
これより少し前の時代から、通訳という職業はなくなっていた。
「エミリオ団長。失礼します」
発せられる言葉とほぼ同じに翻訳される。
「麗華殿か・・・」
彼女の言葉に即座に反応したエミリオは、辺りを見渡した。
前日、前々日と見学がちらほらといたのだが今はいない。
「人が減ったのだが、これはどういう事だ。我々にお手上げで、兵士を用意できないという事か?」
自分に勝てる人間がいないから、人が減ったのだと思い込んだエミリオは、挑発を仕掛けてきた。
日本は弱い。
そのレッテルを張りに来たのだ。
「いえ。違います。こちらの人間を用意するために人払いをしました」
しかしそれも暖簾に腕押し。麗華が冷笑の笑みを浮かべながら答えた。
「・・・・ん? 人払い?」
麗華は春斗の背に手を置いて、前へと促す。
「自分がこちらに来たために、人が減ったんです。勘違いをさせたようで、すみませんでした」
「貴殿が来るために人が減った・・・」
エミリオは考える。
人を減らしてまで呼んだ。
というよりも、人が減ったからこの人間が来た。
つまりは・・。
「貴殿。機密性のある人間か」
エミリオは、目の前の人物の価値を見定めた。
隠し事の多い対戦相手であると理解したのだ。
「はい。そうみたいですよ。自分」
「曖昧だな」
その言葉とは違い、戦う事には自信がある様子だ。
エミリオは相手の顔に不安な面が無いことに気付く。
「その態度、面白いな。我の圧をものともしないか」
薄く張られているオーラに力を感じる。
春斗はエミリオの強さが直接目で見えているのに、無視をしているのだ。
余裕の態度を崩さない。
「圧ですか・・・なんのでしょう」
のらりくらりとエミリオの会話を躱しつつ、使節団を見つめる春斗。
使節団のメンバーの中には、別な場所を見てやる気の無さそうにしている人もいれば、この挑発に頭に来ている人物もいて、春斗を睨んで嚙みついて来そうな勢いの人もいた。
しかし、そんな人たちの中に一人異質な人がいた。
端の方で、べたっと地面に足を広げて座る人物だ。
春斗の勘は、その人物が大変に面白い人物だと囁いている。
「ほう。いいだろう・・・でもまだ子供のようだな」
外国人から見ると、引き締まった良い筋肉を持つ春斗の体格がまだ華奢に見える。そして顔立ちも日本人だからという事ではなく、そもそもが若いだろう。
エミリオは全力で戦うにも、子供相手ではなと、戸惑っていた。
「その言葉・・・あなたは、子供と戦うのが嫌などではなく、戦って負けたらどうしようと思ったのですか?」
「なに」
「自分のような子供に負けたら恥ずかしいですからね・・・そうでしょう? ならば、今日はお開きにしますか?」
学校に通う事で、少しずつ人間の感情を理解し始めた春斗は、どのように話したら相手が嫌なのかをなんとなくわかり始めていた。
話し相手が四郎と五味のみだった時代よりも、豊かな発想での言葉遣いが可能となった。
「ほう。そういう言葉で来るのか。いいだろう。いますぐやる」
挑発に乗ってやる。エミリオは、優位な状態で戦闘に入ろうとした。
「はい。いいですよ。そちらが準備できているのであれば。いますぐでも」
しかし追加の挑発で、エミリオのこめかみにある血管がはち切れそうになる。
ピキピキと鳴っている。
「よし。ここからだな。お前たち下がっていろ」
使節団のメンバーが場外に出て行く。
◇
互いが距離を取り、開始線の上に立つ。
「子供だからとて。手加減はせん」
開始線から第一に駆け抜けるのはエミリオだ。
春斗よりも先手を取るために動く。
「了解です」
それに対して、春斗は開始線の上で待つ。
相手を見つめるだけに終わっていた。
この余裕の態度がイラついているエミリオが、渾身の右拳を前に出した。
遠い距離からの拳の突き出しに、春斗は一瞬考えを止めてしまった。
「ん!?」
さっきまでは、距離にして10m先に拳があったはず。
なのに、今は拳が鼻の先にある。
春斗は反応が遅れた!
という言葉では説明が足りない事態に陥っている。
拳がハッキリ見えていたのに、一瞬での移動があったのだ。
こんな拳の速度だと、反応云々の問題だ。
「ふん!」
春斗は、オーラを全開にして、おでこを使う。
相手の拳にビビらずに、突っ込む事を選択した。
「なに!?」
「があああああ」
「根性のあるガキだ!!!?」
奇襲に成功していたエミリオの方が驚く。
自分の拳の勢いに、恐れる事もなく、攻撃相殺すると決め込んでからの実行力もさることながら、なによりも春斗のこの決断力が驚くべきポイントだった。
驚愕に値すると感心している暇はなかった。
頭突きの勢いが上がる。
拳が体側に若干戻された。
「はああああ」
「ちっ」
拳と頭突きが互角になってしまい。ここからだと相手側に自分の攻撃を押し込めないと判断したエミリオは、一度引くと判断した。
態勢を整えて次の一撃を渾身のものにしようと下がった瞬間。
異変が起こる!
「この男。なんて反応をしている!?!?」
後ろに下がる移動に合わせて、ピタリとくっついている春斗。
拳がいきなり引かれて、頭突きのバランスを悪くしていたのに、その前傾姿勢となってしまったことを逆に利用して、そのまま前方へと加速して飛んできていた。
間髪入れずの行動の連続。
静から動へと動き出す力強さと速さ。
今目の前にいる男がとんでもない戦士だと、エミリオは春斗を認めた。
そして、今度は春斗の拳から始まる。
右のストレートで、エミリオの左の脇腹を狙う。
「ん? この人・・・」
途中まで上手くいっていた春斗の攻撃が、突然失敗に終わる。
確実に当たると思われた。
その手前でエミリオの体が横にズレた。
躱したという感じじゃなく、急に横に移動した形だった。
「勝手に体がズレた・・・足を使ってない・・・ですよね?!」
春斗の驚きが今回の勝敗の分かれ目。
先程の行動で一旦離れていたエミリオの体がすでにこちらに向かっていた。
「しまっ・・・」
「本当に感心した。貴殿に敬意を」
消えてから一瞬の行動。
その速さはどこから来る。
春斗は、もう仕方ないとして、ここ音の力を使用する。
解放せし力の一つ目は、エミリオの拳の軌道に障壁を一つ作る事。
音壁
高密度に音を重ねて、指定位置に壁を出現させる技。
壁の硬さは、岩並みに硬度をあげて登場させた。
エミリオの拳は、その障害となった壁を破壊して一度は止まる。
しかし、止まってから再度動くのだ。
突然加速する拳は、壁があった位置から始まり、一瞬で春斗の顔面へ。
「ん? これは。そうか。あなたは・・・エアロキネシスの使い手か」
「今わかっても遅い! 少年!!」
「遅くないです。申し訳ない」
再び、鼻先に拳があっても、春斗は焦らない。
己の力を瞬間的に出す。
ほんの一瞬。瞬き一つ分。
この力を解放した。
マッハモード。
音速の世界で移動する春斗は、エミリオの拳を頬に伝わらせて躱して、その拳が突き進むのと同時に、自分の攻撃を仕掛けた。
「な!? なに??? そこからクロスカウンターだと!!」
相手の腕に絡ませた春斗の攻撃は、エミリオの左の頬を捉える所で。
【バン!?】
強烈な音が出て、春斗の拳が止まった。
しかし、これはマッハモードが出した音ではない。
何かに当たって止まった音だった。
春斗が、原因に気付く。
「なるほど。空気ですか」
エミリオが顔面に出した空気と、春斗の拳が衝突した音だった。
「・・・これは・・・いいだろう。これは我の負けでいい」
あと少しで自分の喉元に攻撃が入った。
その事実だけで、負けで良しとした。
エミリオは万歳する。
「え? 自分、あなたを殴ってもいませんよ」
「いい。数年経てば、どうせ貴殿の勝ちだ。それを今あがいてみせて、一時の優越の為に必死になって勝ちに行くのは、我にも貴殿にも失礼だ」
今は互角でも、これから先で確実に実力差が出る。
ならばここは負けておこう。
エミリオは春斗と拳を交えていく内に、潔い本来の自分に戻っていた。
正々堂々と戦えた事に誇りを持っている。
「先程の戦い方も、能力に頼らない面がある。修練の成果を感じるな。貴殿は相当な修行をしてきたな」
「え。まあ。親が厳しいもので」
春斗は、訓練室の入り口にいる宗像を見た。
「そうか。感謝するべきだな。その親に」
「ええ。もちろん。自分の一番大事な人です。自分が死ぬ。最後の時まで感謝するつもりです」
「ふっ。そうか。イマドキの子でも、素直に感謝を言うのだな。それも一番だなんてな。羨ましいな。その親!」
「え。普通に言うものじゃないんですか?」
「いいや。我の子なんて、一回も言ってくれんのだよ。ガハハハ・・・・って。ああ、自分で言っていて悲しいな」
豪快に笑った後、エミリオは悲しそうな顔になった。
娘から、大好きお父さんと言われたい。
とも呟いて、この戦いは終わったのである。
最後は寂しさが勝った素晴らしい勝負だった。




