第20話 零障の麗華
「!?」
部屋の影から突如として現れた人物。
春斗はその人物を見るために横を向いた。
日本人形のような艶のある女性。
ロングの黒髪が和服に映える。両手を体の前で組んでいるので、まるで宿の女将さんのような振る舞いだ。
「皆さんの結論が今ので決まりましたら。私が力を行使せずともよろしい。そういうことですよね。栄太さんも納得しましたか」
「まぁ、仕方ない。そうなるな」
「それでは、春斗さんをお連れしてもいいという事で?」
「ご自由に」
「はい。では、次の場所にいきましょうか。春斗さん。こちらに来てください」
麗華が歩く方向は部屋の出口。
だから春斗もそちら側に移動していく。
「え・・・あ、あなたは。麗華さんですよね!?」
久しく会っていなかったので、美しさに磨きが掛かっていた事を知らなかった。
春斗には別人に見えてしまい、失礼にも名前を聞いてしまっていた。
「はい」
四葉麗華。
当時四名しかいないS級の中でも、異質の才と立場を持つ女性。
四葉家次期当主でありながらも、能力もS級。
六家の家の中で、S級は彼女だけ。
だから特筆すべき家なのが四葉となっていた。
頭一つ抜け出ている状態だ。
「何故麗華さんがこちらに。相場がここにいるのに・・・」
「ええ。それもお話しますので、私についてきてください」
「わかりました」
ここからは麗華の案内を受けることになる。
◇
廊下を移動中。
麗華の隣には春斗がいて、その二人の後ろに宗像と五味がついていく。
「春斗さん。本当はこちらの用件が本命でありまして」
「用件が別でしたか。どうりで・・・変な会議でした」
会議に集まったメンバーが本家当主じゃなかったのが変だった。
六皇会議と銘打つなら、せめて当主は三名以上で行なわれるはず。
だから、急遽感が強かった。
「はい。まだ三カ月くらいの調査で、対面報告なんてね。変ですよね。まだお若い春斗さんだって、想像がつきますよね。嫌がらせだって」
春斗の顔を横目でチラッと見た。
彼は真顔、自分は軽く微笑む。
「麗華さんが力を行使するとは・・・どういうことですか。青井が命令を?」
ここで不満気な顔をした。
それを見て、麗華は更に微笑む。
「いいえ。あそこに居る方たちとの約束です」
「六名と?」
「はい」
「どんな?」
「春斗さんが、こちらの不利益になる行為をしている。又はするつもりならば、私の力で、コントロールしなさいとの話でした」
「なんと。そこまでしますか。六家は」
「はい。そうらしいですよ。六家は怖いですね」
あなたもその一員じゃないか。
口元で扇子を広げて、ウフフッと笑う麗華の方が怖い。
春斗はそう感じた。
「麗華さん。まさか記憶の扉ですか」
「ええ。そうですよ。私の力、あなたに届くのかもわからないのにね。お願いされちゃいましたよ。私、どうしたらよかったでしょうか? 無理ですとお断りした方がよろしかったでしょうか? どう思います春斗さん」
それを自分に聞くか。
春斗は答えられず黙った。
「・・・・」
麗華のギフターズ記憶の扉。
これは相手を握る力だ。
握るというのは、己の肉体で直接相手に触れるという意味じゃなく、その人物の思考を握るという意味だ。
相手の思考を操作して、行動をコントロールするのが麗華の力である。
彼女はこの力を戦闘にも役立てることが出来る。
例えば、モンスターが二体出た場合。
一体のモンスターを操って、同士討ちにするなどの対話者さながらの動きをすることが出来る。
ただし、対話者と彼女の違いがあって、彼女は知らない内に相手を支配する事が出来る。
対話者は対話が基準で、相手を説得することから始まっているから、相手の行動を勝手に書き換えることが出来ない。
しかし、麗華は出来る。
相手との壁がない。
相手と対峙しただけで、距離がゼロとなる。
だから、二つ名がゼロの障壁。
【零障の麗華】である。
モンスター戦でも有効な力は、対人戦であればさらに悪質となる。
人間を支配下に置くのが容易であるのだ。
だから、王となってもおかしくない。
それが麗華。
そしてその女性と相対しているのが、これまた王となってもおかしくない力を持つ春斗だ。
計測不能の力は、どこまで伸びる力なのか。
実力行使をすれば、この日本で彼を止める人間がいるのか。
これは、二人の性質上。
どちらが上だとかの話ではない。
どちらも王となれる器があるという話だ。
「安心してください。春斗さん。ほら、ここのチョーカーが作動しておりますでしょ。力は使っていませんからね。使ったらパリーンと割れていますから」
「ええ。わかっています。麗華さんは青井の話に頷いただけですよね」
「はい。そうですよ」
麗華の首には、銀のチョーカーがある。
それには、ギフターズの力の抑制の効果があり、記憶の先の力を出さないような配慮をしている。
これは学生時代から着用している。
「・・・麗華さん。それで用件とは」
「はい。これが困ったことに、こちらの面子の問題でして」
「面子?」
「はい。現在、この建物の訓練室に、スペインの使節団が来ていまして、練習試合という名の誇りをかけた訓練をしてまして、それももう三日目なんですけども。あちら側がもっと強いハンターを出せと豪語をしました。もう伸びた鼻が長い長い・・・」
麗華の声に少しだけ怒りがある気がする。
春斗は普段との声の違いを感じた。
「それでこのままあちらの鼻が伸びっぱなしは、宜しくないのです。外交上、相手の用件を飲まされる恐れがあります。力が無い国なのだから、支援する代わりに要求を大きくするとね」
会議の裏では、熾烈を極める戦いがあった。
練習試合という名の国別対抗戦のような訓練が行われていたのである。
日本は、スペイン帝国とは同盟を結んでいる関係。
第四次の際に、日、仏、西、伊、米、加、伯との同盟を組んでいて、その流れでスペインとはいまだに同盟状態だ。
現在のスペインは、スペイン帝国となっている。
その領土は、ポルトガルと、ジブラルタル海峡を越えてモロッコなどのアフリカの一部を支配している。
そのかわり、スペインは国土の北側。三分の一を失っている。
だから領土的にはそれほど大きくなったとは言えない。
しかしヨーロッパ全体で考えてみると、スペインの国土自体はかなり大きい部類だ。
フランスはスペインと隣接していた南部を失い。スイスはそのままで、イタリアは北以外の全部が無くなりイタリアという国も無くなる。
地中海に面している国はほとんどが壊滅。ギリシャなどもなくなっていて、トルコはかろうじてある状態だ。
それにエジプトもない上に、サウジアラビアの様な中東勢もなくなっているので、地中海からアラビア海とペルシャ湾が繋がっている。
そしてこの中で最も最悪なのはエルサレムがない事だ。
信仰すべき場所を失った世界は、宗教の力を失っている。
人々の心の拠り所を失っているので、国を立て直すには、強き心を各々が持っていないといけない。
苦しい状況は続く。
「なるほど。水面下での外国との戦いですね」
「はい。模擬戦をいくつかやって、全て敗北しています。どうやらスペインは、自国のS級を送って来たようです。事前に情報を知らせてもらえれば互角の人物を遅れたのに・・・悔しいですね」
「麗華さんは?」
「私は駄目です。対外国だと秘密にしなければとなっています」
国内で力を使う事は良し。
国外相手だと、隠し通しておきたい。
それが六家の判断だった。
「そうでしたか。ここに麗華さん以外のS級がいないのですね?」
「はい。S級唯一のハンター『扇大地』が今ですね。九州にいまして、しかもダンジョンに潜っているようでして、連絡が取れませんでした」
扇大地。
当時のS級四名の内の一人。
閃光の二つ名の最速の男である。
「そうでしたか。彼らもいない?」
「いませんけども。春斗さん。あの方たちって、政府の為に協力してくれるんでしょうか。無理ではありませんか?」
「それは・・・たしかに無理ですね」
彼以外の他二人を思い出すと、無理だと分かる。
日本のS級で政府に協力的と言われるのが、六家の麗華と、ハンターの大地二名で、非協力的なのが地下闘技場の王蜜田と、裏取引のブローカーである霧島の二名である。
麗華と大地が表。
蜜田と霧島が裏。
これらが二つの勢力に別れつつある日本だから、アルトと香凛の二人を手に入れて、S級パワーバランスを政府寄りにしたかったというのが、今回の彼らの調査に繋がっている。
「そうでしょう。あの霧島と蜜田が、政府の要請に応じるとは思いません」
「・・・ええ。そうですね」
「そこで。春斗さんが戦ってくれれば、いいかなと。二方と三羽と四葉とで話が出来まして」
「二方と三羽と?」
「次郎さんと明子さんです」
「あ。なるほど。四葉は麗華さんで、さっきの場所で話していたんですね」
「はい。そうです」
本来の目的はこちら。
先程がたまたまの会議であるのが、彼女の説明で確定する。
なにせ、一井。五味。六花は当主が来ていなかったのだ。
「政府が自分の戦闘の許可を出すとは・・・それって逆にいいんでしょうか?」
「はい。良いとの判断が出ました」
「正体を晒しても?」
春斗の存在は秘密にしていくというのが、政府としての基本行動。
だから、ここに来て表に出す判断を取るとは珍しい。
「はい。まあでもですよ。国内ではその力を隠しておきたいとなっているので、今回は特例措置で無観客に近い状態にしています。なので、春斗さんは気にせず戦ってください。あと、それにですね。相手の面子を潰しておこうとなったんですから、勝って下さいな」
「それはまあ。わかりました、ベストは尽くします」
「ええ。そうしてください・・・んん。そんなに心配をしないでください」
麗華は春斗の顔が心配そうな顔に見えたので、説明を強化する。
「春斗さん。ここで相手に勝っておけば、相手は他国にあなたの情報を出せませんよ。無理でしょう」
「ん? それは何故ですか?」
「ここまで全部勝って来たのに、この人にだけは負けたんだ! なんて誰が公に言いますか? そんな行為は面子丸つぶれの行為でありますからね。春斗さん。そこを発表なんて無理だとは思いませんか。あれは使節団で公式ですから」
「なるほど。政府公認の人間だから、黙る確率が更に高いと?」
「はい。でもまあ、名前くらいは向こうの政府内部でも表に出るでしょう。噂程度でです」
「それならわかりました。戦います」
麗華と、二方と三羽が、自分の情報が出てもいい下地を作ってくれたらしい。
春斗は戦う事を決意した。
政府に抗う事をしないのが、この時の春斗だった。
「しかし国内の人間にはまだ知られたくないようなので、観客は少ないです。春斗さんを知る者たちしか、今回の戦いを拝見しませんが、それでもよろしいですか?」
「ええ。別に。万人に、自分の力を自慢したいわけじゃないので。全然いいです!」
「ふっ。ええ。そうでしょう。春斗さんならそうでしょうね」
「はい」
「ええ。それでは春斗さん。出来るだけ挑発してください。こちらが舐められたまま終わるのも癪に障りますから。同盟国であろうが、ここで大きく横っ面を叩いてやりましょう・・・ね!」
クスクス笑う麗華は、優しく微笑んでいるのか。
それとも、何かに期待しているのか。
とにかく春斗との会話を楽しんでいるようであった。




