第19話 政府の上層部
CLにて。
机の上に突っ伏して一応の仕事をする振りをしている男性。
めんどくさそうな雰囲気そのままに、やる気無さそうである。
しかし、春斗と宗像がそばにまでやって来ると、スッと立ち上がった。
「おいおい。春斗かよ」
「はい。五味さん。お久しぶりです」
「しばらく見ない内に、大きくなったな。いい男になりそうじゃねえか。能面ガキから進化してるぜ」
五味は、春斗の肩をバシバシ叩いて成長を喜ぶ。
以前の無表情から多少の変化があるように感じる。
無は変わらないが、若干柔らかい気がする。
「そうですかね?」
「ああ。イイ感じだ。秋子さんにも似てきたわ」
「母にですか」
「ああ。目元とか似てるな。なあ、シロウ」
五味は、春斗の裏側にいる四郎を見た。
「ええ。そうですね。似てはいますね。でも春斗は春斗ですよ」
「そんなのは当り前だわ。この仏頂面! 俺がそこんところを理解してないとでも?」
「どうでしょうか。あなたは・・・まあいいでしょう」
「なんだよそれ。全部言えよ。言いたい事、隠すなよ。この野郎」
「ええ。まあまあ。そんなに怒らずに」
「は!? 相変わらずだなお前。それと俺、全然怒ってねえわ」
「顔が怖いですよ」
「ハハハ。クソ。相変わらず遠慮しねえな。馬鹿!」
五味と四郎は親友。
関係性で言えば、アルトと春斗と同じである。
人懐っこい五味とアルト。
冷静で淡々としている四郎と春斗。
互いを補完している間柄だ。
「それで五味さん。今日は何の用で? なぜ自分もなんですか」
春斗が聞いた。
「ああ。呼べってうるさくてな」
「呼べ? 上ですか」
「ああ。上層部だ」
「・・・ふぅ。わかりました。いきましょう」
「おい春斗。まだどこに行くか言ってないだろ」
「あ。そうでしたね」
しっかりしているのか。間が抜けているのか。
春斗は子供らしい部分と大人のような部分の両方を持っていた。
「五味。春斗は何で呼ばれたのです?」
「最初は、六皇会議かららしい。奴らが仕掛けてきた」
「あの会議ですか・・・なぜ春斗が出なければいけないのでしょう」
四郎がたじろぐ。
今から行われる会議に驚きを隠せない。
「本当は別件だったんだけど、ここで急遽会議が決まったらしいんだわ。あいつら、こっちに準備をさせないつもりだぜ」
「んんん。春斗。気をつけましょう。いいですね」
「はい。宗像さん。頑張ります」
急遽会議に参加する事となった。
◇
六皇会議。
六家それぞれの人間の内、最低でも一人が出席して会議が行われる。
話し合われる議題は、決まっていて、三家が集まる事に賛成すると、集まらねばならない。
特殊な会議である。
今回の会議メンバーはこちら。
一井家からは栄太。
当人はまだ青井家当主だが、一井家をほぼ牛耳っているために、栄太が出席。
二方家からは次郎。
宗像の兄である。
三羽家からは明子。
出席理由は当主だからである。
四葉家からは代理で、相場紀彰
相場秋子のいとこで、相場の当主である。
五味家からは代理で太未民子
五味の当主は外交で忙しいために、民子が入った。
六花家からは律。
当主の年の離れた弟で六花律。
以上の六名と内一人が遅れてくるのが、春斗が参加した六皇会議であった。
◇
会議室の扉が開くと同時に春斗が扉前の警備をしていた人に頭を下げてから、部屋中央の長テーブルにいる六名にも頭を下げ続けた。
「失礼します」
面接会場?
そう思った春斗は、内心で戸惑っても、平静を装って前へと進んだ。
「来たか」
栄太の声が聞こえたような気がした。
そう聞こえた気がしただけだと、春斗は真っ直ぐ前を見る。
「よろしくお願いします。皆さん。お久しぶりです」
「春斗。来たのか」
またまた栄太の声が聞こえたような気がした。
これは気のせいなので、春斗の視線は、真っ直ぐのまま。
三羽明子と相場紀彰の間に向いていた。
だから彼女が心配する。
「春斗さん。どうかしましたか? 具合でも悪いですか」
三羽が優しく聞いた。
「最近、耳の調子が悪いみたいで、反応が遅れます。申し訳ありません。明子様。皆様」
「あら。それは大変。医務室にでも行きましょうか? 手配をしておきましょうか?」
「いえ。大丈夫です。明子様」
「ほんとう? 駄目だったら言ってください。それに、たみたみ。もしもの時はお願い」
三羽は、一つ飛ばした先に顔を向ける。
「合点承知!」
民子は自慢の太い腕をまくって返答した。
NSSの校長は、近所のおばさん兼肝っ玉お母さんでもある。
「ちっ」
春斗は、たまたまだが栄太の舌打ちが聞こえたような気がした。
苦虫を噛んだような顔をしているのが、見ずとも分かる。
「自分。今日は、なぜ呼ばれたのでしょうか。これほどの方々が集まるのは、自分を送り出した時くらいです」
春斗の正論から会議が始まる。
「本題の前にだ。春斗」
「はい。次郎さん」
不愛想ながらも、次郎は軽く笑った。
春斗がまるで弟のようで四郎味を感じる。
「うん。最近どうだ」
「どうだとは?」
話が通じない。ここも弟と似ている。
「元気なのか。それに学校は?」
具体的に聞いてあげた。
「はい元気であります。学校も面白いです」
「そうか。それはよかったな」
「はい」
四郎よりも口数は少ないが、その受け答えには温かみがある。
春斗は次郎の事も好きだった。
四郎も当然好きであって、六郎も好きなのだ。
春斗はとにかく宗像家そのものが好きなのかもしれない。
話が終わったので次の人物が話しかける。
「春斗。今夏休みだろ」
「はい。紀彰さん。そうです」
「こっちには遊びに来ないのか」
「相場にですか」
「ああ。線香一本あげに来い」
「そうですね。お伺いします」
「そうしてくれ。そしたら、秋子も嬉しいだろ。年に一度くらいは喜ばせてあげろ。いつでも来い」
「はい。ありがとうございます」
秋子は、相場の墓に入っている。
青井家で死んだというのに、死後の離婚のような形で、秋子は出戻りとなっている。
血も涙もない栄太のおかげである意味では助かる形でもある。
憎き青井に、母がいなくてもいいからだ。
「それもいいけど、さっきの次郎ちゃん。そもそも学校は楽しむところよ」
民子が出てきた。
恰幅の良い彼女は、お腹をポンと叩いてから発言する。
いちいち動作に合点承知が結び付く。
「春斗ちゃんね。学校が楽しくなかったら、たみたみが面白くしてあげるからね」
「あ。はい。わかりました。民子さん」
「うん。まかせてちょーだい!」
近所のおばさん感満載の民子は、満面の笑みで春斗を応援する。
「ねえ。それで、話は? 世間話するなら俺っち、帰るよ。俺っちさ。代理過ぎて何をすればいいか知らないんだけど」
つまらなそうな顔をして、そっぽを向いているのが六花律。
当主代理としては、やる気がない。
「今は情報を聞くためだ。六花の仕事をする気が無いなら黙っていろ律」
「へ~い」
栄太に釘を刺されても、能天気に返事を返す。
場の雰囲気などに惑わされない男が、律である。
「春斗。例のS級の情報を出せ。あんな報告書ではこちら側が理解できん。下らん事ばかり書くな。奴らはどんな人間だ。使えるのか。使えないのか。政府に反抗的か? それくらいは書くべきだろう」
栄太からの矢継ぎ早の質問。
しかし春斗の体は、いまだに正面を向いたまま。
「皆さん。今のが本題なんでしょうか?」
栄太には聞き返さずに、全体に聞いた。
完璧な挑発であるが、栄太は怒るに怒れない。
ここで怒れば、子供じみた犯行をする春斗と同じ土俵に立つからだ。
「それに近いのですが。青井の質問を言いかえますね。春斗さんの口から直接報告を受けたかったんです。春斗さん。彼らはどういう子たちなのでしょうか?」
三羽が優しく聞いてくれたので、春斗が返事を返す。
今回はしっかり三羽の方に体を向けた。
栄太への当てつけである。
「はい。普通の子です。普通の高校生と変わらないです」
「なんだと。そいつらはSだぞ。そんなわけが・・・」
栄太の邪魔があっても、春斗は話を続ける。
「クラスメイトと遊んで、日々を楽しんで。そこでたまには喧嘩をしたり。戦闘に恐怖をしても、苦難を乗り越えていく。そしてまた強くなるために授業に勤しむ。全部が普通ですよ。それ以外に説明しようがない」
「春斗。貴様・・・調査員なんだぞ。しっかり調査をしろ! 温いわ」
「では、知られてもいいと」
「何?」
ここで春斗は、初めて栄太に反論をした。
「これ以上のテンポで調べろとなればです。強引に調査となります。実は今。友達から入れば良しとなっていた前回の話の通りに進んでいるんです。自分は彼らと友達になれた。ですが、今以上の速度での調査をしろとなれば、こちらが調査員だとバラシて、強制的に聞くしかないですよ!」
「・・・・」
実際は春斗が調査員だとバレているのだが、ここはアルトと香凛に正体がバレていない形で話を進めていた。
ここでの春斗の演技が良いというよりも、栄太が嫌すぎて、上手い具合に演技が嵌っているのだ。
「それでよろしいのであれば、自分はそれでもいいですよ。ただ、その場合。彼らが政府に協力的になるのでしょうか。あなた方は、彼らを国家の力にしたかったんですよね。だから、彼らの自主性で、ハンターの門を叩いて欲しかったんですよね? 裏社会に行って欲しくなかった。あの二人のようになって欲しくなかった。そうですよね!!」
ハンターになる際にも、出来るだけ政府の力になって欲しい。
協力的になってほしい。
だから調査員を入れて、動向を探るつもりだったのだ。
その方向性を見極めるのに数カ月で結果を出せとはどういうことだ。
春斗は、意見を突き返しているが、栄太にだけ返している。
他の六家は、春斗の意見に頷くだけであるからだ。
「しかし、手ぬるいのだ。貴様これが重大な任務だと気付いていないのか・・・まったく、その温い行動に言動は、四郎のせいだな。奴の性格が乗り移って、調査の邪魔をしたのではないか。春斗!」
「なんだと、貴様!?」
間髪入れずに怒りの表情になる春斗。
一番嫌いな人物が、一番触れられたくない部分に触れてきたから、一瞬で沸点へと到達した。
音の力が漏れ出して、マッハモードに近い状態にまで来ると、彼の後ろに二人がやって来た。
「こら。春斗」
「おい。駄目だろ」
二人が肩に手を置くと、春斗の力が治まっていった。
「宗像さん。五味さん」
「危ない所でしたね皆さん。申し訳ない。自分の指導不足です。責任は自分に。春斗はまだ子供なので、この子の責任問題になるのはご勘弁を」
四郎が頭を下げた。
春斗が一瞬の圧で、六皇の会議メンバーを威圧してしまったので、時間が少し経ったとしても、彼らが言葉を出せなかった。
それほどに強い力を春斗が放ってしまっていた。
「そうだな。春斗はまだ子供だ。青井よ。この歳で結果を求めるすぎるのは良くないぞ。そうだ。この子は、そもそもが子供だ。大人並みの責任を押し付けるのはよろしくないわ。俺はそう思う」
二方次郎が言った。
淡々と話す姿は四郎と一緒だ。
「ふっ。何を抜かす二方!」
栄太が反論した。
「子供でも、力は化け物だ。それ相応の責任があるだろう。宗像、二方。自分たちを棚に上げるな。育てている者の責任でもあるぞ」
それに被せて次郎も反論した。
「そうか。それは青井の意見だな。じゃあ。俺の意見は、このままでいいと思っている。そのまま春斗が学校に通うべきだ。友人の振りでもいいし。そのまま友人になってもいいんだ。とにかく、無理をさせなくていい。まだまだ子供なんだからな!」
負けじと栄太も続こうとするところ、民子が来た。
「そう。次郎ちゃんの言う通り。まだまだ春斗ちゃんは子供。大人のような責任の取り方なんて必要ない。それに無理くり子供を縛るのも良くない。春斗ちゃんだけじゃなく、あの子たちの子ども時代だけでも自由でいさせてあげて! だってそうでしょ。子供の頃から政府の犬にするなんて、そんなの辛いわ。たみたみはね。せめて子供の間だけでも、国とは無関係の。自分の人生を歩んで欲しいと思ってる」
彼らはS級ハンターになれるかもしれない。
今から成長すれば、その判定を確実に受けるだろう。
そうなると、その道はいずれ大人になってしまえば、国へと合流するはず。
運命を抗えぬ立場へとなるはずだ。
ならばせめて、子供の間だけでも、子供でいさせてあげてと。
子供思いの民子は、三人を案じていた。
さすがはNSSの校長。
学校の廊下で、ただの井戸端会議をするだけの女性じゃないのだ。
「俺っちはなんでもいい。そいつに対して言えることはない。代理だから」
律は意見を述べず。
「私もたみたみと同じです。子供の時から強制するなんて、やっぱり納得がいきません」
三羽も同じくで。
「俺は、春斗の責任にするには理由が弱いと思う。それにこれで断罪したら、青井の独断がすぎるわ」
相場も反対となり。
結局は一家対四家の戦いになり、多数決で春斗はそのままの状態で良しとなった。
このままの形で終了するかと思いきや。
最後の声で別な展開へと進む。
「六家の皆さんが、そのような結論となるのであれば・・・私の仕事はありませんね。栄太さんも納得しますか?」




