第18話 修行
校庭を借りた二人は、春斗を先生として向かいに立つ。
「ハル。ようやく修行だな」
「ええ。そうですね」
ここから始まるのは修行の話だったのに、一人そのテンションじゃない。
「春君。おとといは楽しかったの」
言葉に棘があった。でも春斗はその棘の先の鋭さを感じていない。
「楽しい?」
「なんか今日もさ! 楽しそうだね。なんかね!」
ムスッとした顔の香凛は、まだ不満があるようだ。
無表情の中に柔らかさがある事に気付いている。
これは女の勘だ。
「今日? 自分はいつも一緒ですが?」
「違うもんね。ああ、ああ。春君。今日違うもんね」
「?????」
拗ねるなよと、アルトが間を持つ。
「ハル。こいつの事はいいからさ。さっさと修行始めようぜ」
「わかりました」
春斗は、校庭の地面に図を描いた。
「自分の実力をSへと引き上げるよりもまず先にですね。第一段階の技を教えたいと思います」
「第一段階?」
「はい。こちらです」
春斗の周りに白い光が現れた。
薄く幕を張ったような光だ。
「自分はこれをオーラと呼んでいます。ギフターズの上位層もそう呼んでいるはず。これは力の可視化だと思っています」
「・・・可視化ってのは何だ?」
「はい。ギフターズの力は基本内包されているものだと自分は考えています」
「体の内側に常にある感じか?」
「はい。そうです」
「そっか! 当たりか!」
春斗の肯定に、アルトは安堵した。
親友の言っている事が理解できないのが嫌だからだ。
「この力が強いと、相手に対抗できる。そしてこの力が強ければ、己の力にも負けないという考えが自分にはあります」
「ふんふん」
「アルトは自分のマッハモードを見ましたよね」
「ああ。立っているのだけは見えた。でも、ハルが動いたらさ。速すぎて分かんなかったわ」
自分の目で追える速度を超えていた。
それほどあの力は段違いだった。
「ええ。まあ、そうでしょう。あれはこのオーラが無ければ、自分が死んでますから。それくらいに速いです」
「え?」
「はい。あの速すぎる行動に体がついていかないんですよ。だから、このオーラの力で自分の体の制御をして、力は外にだけ影響させていくんです。オーラの内側と外側で、別物にするイメージを作ります。内側は己の保護。外側は力の出力という感じです」
「そうなのか・・へえ」
よく分からねえ。とはアルトは言いたくなかったので、感心した振りをした。
「それで、アルトの場合は、この力の外側から雷の出力をするんです。そうなれば、雷生成に失敗しても自分の雷が自分を焼くという事になりません」
「な!? そうか。そういうことか。そのオーラの外側から思いっきり雷を作ればいい! だろ!」
ここで言っている事を理解した。
急に顔が明るい。
「はい。そうです。自爆リスクをゼロに持っていくんですよ」
「だからその力を磨けってことか」
「そうです。これはギフターズを持っていれば、誰にでもある力だと思います。この力の大小が存在するだけですね。こんな風に」
ドンっと大きな音が鳴ると、春斗のオーラが大きくなった。
白い膜が全身を覆うのは変わらないがその厚みが出ている。
「すげえ。大きくなったな」
「はい。このコントロールをすれば、自分の力を自由自在に出せると思います。これが基本だと思っています」
「よっしゃ。さっそくやろうぜ!」
「はい。やってみましょう」
二人は意気投合。
しかしこちらは。
「ふ~~ん。ふ~~~~ん。ふ~~~~~~ん」
香凛はまだ拗ねていた。
色んな音色でふ~んと言っていた。
◇
しかし、その修行。
始まってみれば結果が別れる。
「香凛。才能がありますね」
「ほんと! あたし、凄い?」
「ええ。素晴らしいです。こんなに簡単に・・・それに真っ赤なオーラだ」
白じゃなくて赤のオーラ。
春斗も宗像も白のオーラだったが、彼女のは赤いものだ。
「赤ですか・・・どういう現象でしょうか。面白い」
春斗の興味が、一瞬でも自分に向いた。
その事で、香凛がご満悦となる。
機嫌がよくなり体調も一気に良くなる。
「本当! 春君どう。あたしを隅々まで調べてみる」
足を組んでから、チラッと体育着を上にずらす。
誘惑してますよと、誘うつもりがあるのだが。
春斗は真顔で香凛の顔を見ている。
誘惑のポーズを気にしていない。
「うううん。どういう事でしょうかね。内包する力の影響? それとも感情? 人の心の力ですかね。自分は白。宗像さんも白。それで香凛が赤ですか。赤は初めてだ。五味さんは何色だろう?」
彼女を見ているが、別な人間の力を想像していた。
誘われていると全く気付いていない。
「くそ。何で出来ねえんだよ。こいつに出来て、俺に出来ねえのか!」
A級の香凛に出来て、S級の自分に出来ない。
その焦りもまた良くない。
力の全ては心にある。
アルトは、春斗の最初の言葉を忘れている。
「アルト、それでは駄目です。冷静に。冷静に。力は、己の中にあるんです。香凛にあるんじゃないです。外じゃないですよ」
比べる事がいけない。自分を見つめるんですと指導をした。
「わかってるさ。でもこいつが出来るとな」
焦る。とにかく焦る。
友達だと思ってるけど、一番のライバルだとも思ってるから、余計に焦ってしまうのだ。
「ふふん! どう。アルト。あたしが一歩先に行ったよ」
「ちっ」
この煽りも普段ならば気にしないが、この状況では一番効く。
「こら、香凛。駄目ですよ。アルトの集中の邪魔をしちゃ」
「え!?」
春君に怒られたぁ、と香凛はしょぼんとした。
首ががっくりうな垂れる。
「アルトは集中が上手くいっていないだけです。それと焦りでイメージを作るのが甘いだけ。しっかり考えていけば、大丈夫」
「そうか。そうだよな」
「はい。考える事と冷静でいる事は、両立します。アルト。落ち着けば大丈夫。自分の力を薄く纏わせるイメージです」
「やってみるわ」
深呼吸して、目を閉じる。
いつも。力を出すイメージは手からだった。
だからそのイメージを全身に与える。
雷を出す時と同じイメージでオーラよ纏えと念じた。
「来い!」
アルトから、ぶわっと力が溢れ出す。
元々のS級の力が、彼を神々しく大きく輝かせた。
「紫???」
春斗の驚いた顔を見て、アルトは自分の成功を確信した。
「成功だな。よし。やったぜ俺。ようやくか・・・って紫だな!」
自分の手を見ると、紫色に輝いていた。
「色の違い。紫は初めて知った。面白いですね。違いを知りたいな・・・あとで五味さんにも聞いてみよう」
「これってさ。もしかして、政府の秘密とかだったりするのか。ハル?」
「ん。この力ですか」
「ああ」
「いえ。多分学校でやらないだけだと思いますよ。これは、ハンターの上位陣で、必須の力かと。得に戦闘系の人にとってだと基礎であると思いますね。他の人でも見た事があります」
「そうか」
「はい。オーラは、戦闘の基本としたいんです。だから普段からこうします。出し入れするために、しまう形ですね」
「ん?」
春斗の白い光が消えていく。
体から何も発していない状態となった。
「見えねえけど?」
「はい。でもこの皮膚の薄皮一枚の部分に、白く薄く張っています」
「マジかよ」
「ほら」
春斗が右の人差し指をアルトに向けた。
薄い光が覆っている。
「ほんとだ。すげえ」
「これをすると、ギフターズ戦で役に立ちます」
「役に立つ?」
「はい。香凛のテレキネシスにも対抗出来て、精神操作系も出来ます。それと直接攻撃系にも抵抗できるんです」
「・・・マジか。それってすげえじゃん」
「はい。だからSの力のあるアルト。それにSになれる器がある香凛がこちらを学んだ場合。他のS級の人間の攻撃を回避することが出来るかもしれない。Sの能力だったら、万人に効いてしまいますから、対抗できる措置があるのは大きいです」
「・・・そうか。それを第一に修行する理由は、対人でも負けるな。そういう事か」
「ええ。そうです。いつ何が起こるのか。それがS級には分からない。命か。それとも能力か、どちらかを狙われるかもしれませんよ。S級って、曲者しかいませんからね」
春斗はしみじみと言った。
「わかった。それを修練しよう」
「ええ。そうしましょう」
この修行は一朝一夕では身に付かない。
春斗も完璧に学ぶのに4年も要した。
音の力の制限をするに、この力の制御から学んでいったのだ。
10歳から14歳までの間、四郎が手伝ってくれてようやく出来るようになった技である。
だから、香凛とアルトが一生懸命勉強しても、すぐに身につくものではなかった。
◇
修行終わり。寮に戻る間。
「はぁあ。駄目か」
「駄目じゃないですよ。二人とも最初と考えるとかなり良いと思いますよ」
「ほんと。春君」
褒められてウキウキな香凛が春斗の腕に抱き着いた。
「暑いので離れてください」
言葉では言うが、強引には引き剥がさない。
春斗は出来るだけ女性に触れあわないように気を遣う人である。
そちらから来た場合は、拒絶しない。
「いいじゃん。帰ろ!」
「ええ。帰りはします」
もうしょうがないなと、春斗はため息をついて寮へと帰還した。




