第14話 好きになってもらいたいよね
ある日の放課後。
教室の隅にいた二人はコソコソ話していた。
「春君が、ナイスバディな女子と密会!?」
アルトの耳打ちに、驚いたのは香凛だ。
「ああ。なんだかさ。桃色の豊満女性と一緒にいたって話だぜ。一班の阿武が言ってた。すげえ羨ましいってさ。あいつ、体がクソデカくて大人みたいなのにさ、エロガキだよな。阿武ってさ!」
「ほ。豊満!?」
香凛は自分の体を見た。
自分だって負けてないはず!
しまる所はしまって、出ている所は出ているはず!
自分の容姿に自信だけはある香凛である。
「そこはどうでもいいんだけど。あいつが女性って珍しく・・・もないか。うちのクラスだと。茂野とかと仲良いしな」
「え。そうなの!?」
「お前、知らんの。あの二人、結構話してるんだぜ」
「そうだったの。茂野さんが!!! 許せん!!!」
燃え滾る恋の炎が背中から出ている。
頭からは湯気も出そうだ。
「そんなの許せよ。あいつらのは、ただの会話だ。それにさ。ハルの脳みそで恋愛なんて考えると思うか」
「どうして! 誘惑されたら、男の人ってコロっていっちゃうんでしょ。美人だったら、ホイホイついていくって話よ。だから勝負するなら、先。先。先。先手が大事だって。あなたが好きなんだって言って。印象付けが大切なんだってよ。告白先手必勝も、勝者になるための近道だって言ってた!!」
「それ。誰が言ってたんだ?」
「パメに載ってた」
「電子雑誌の話なのかよ! 人が言ってたのかと思うじゃねえか」
パメは中学生向けの女性雑誌である。
香凛の知識は、中学生で止まっている。
「つうか。お前。ハルを落とせるとでも思ってんのか」
「落とすもん! 絶対!!!」
顔を真っ赤にするくらいなら言わなきゃいいのに。
そんなんで出来るのかよと、アルトはため息をつく。
「やめとけ。時間の無駄だぞ」
「なんですって! あたしが出来ないって思ってんの」
「いやさ。俺があいつを口説けねえんだ。お前じゃ、もっと無理」
「へ?」
「俺さ。卒業したら、一緒にハンターになって。ギルドを組もうって誘ったんだけど断られた」
「え。そうなの。意外だね。ダンジョンの事なのに」
ダンジョン関連の話なら、あの春斗なら二つ返事で承諾すると思っていた。
彼が食いつくはずの話題だからだ。
「ああ。それなのに駄目なんだってさ。ハルの奴」
「ふ~ん。アルトだからじゃない。あたしだったら、うんって言うよ」
「なんだよ。その自信。じゃあやってみろよ。無理だぞ」
「ええ。やってやりますとも」
春斗のいない間の二人は、こういう痴話喧嘩を常に繰り返していた。
春斗がいないと知能指数が下がりがちである。
◇
次の日の授業前の朝の時間帯。
「春君!」
香凛が、春斗の体に寄りかかってから、彼の肩に頭を置いて話しかけた。
「近いです。それと暑いです。この季節なんで、やめてくれません」
このお決まりの素っ気ない返しも、癖になって来た香凛である。
春斗と接している時だけ、香凛はどMである。
「春君。あたしと、ギルドを作ろう。一緒にハンターになろうよ」
「いいえ。自分はいいです」
「どうしてぇ。駄目ぇ」
上目遣いでお願いすると良しと雑誌に書いてあったので、実践している。
香凛は影響されやすい性格をしている。
「どうしてもなにも。自分は自分を決められないので、無理ですよ」
そんな行為が春斗に効くわけがない。
雑誌は統計学から男性攻略を宣伝しているが、春斗に統計学を使用しても無意味。
変わり者に通用するわけがないのだ。
「あ。そうだ。アルトがやりたいと言ってましたので、アルトと組めばいいじゃないですか。彼に言っておきますよ」
「いらない」
「なんで。ギルドを作る話でしょ。ちょうどいいですよ」
「いらないもん。春君と一緒じゃないと意味ない」
「なんで。自分と一緒じゃなくても意味はあるでしょう」
「ないもん・・・ぷん」
「え?」
なぜ怒られた?
春斗はそっぽを向いた香凛を見て戸惑った。
◇
その日の放課後。
「ほらやっぱりな。質問するのも無駄だったろ」
アルトがニタニタ笑いながら話しかけてきた。
そこに腹が立つ香凛は、顔を背けて返事をする。
「ふん!」
「ああ。ああ。拗ねちまって。だからやめとけって言ったのによ」
「ふんふん!」
「増えてんの」
俺でもお手上げなのに、お前無理するから。
アルトは、肩をすくめて指摘していた。
「あいつに言葉を届けられるのは、宗像先生しかいないだろ。俺もお前も駄目なんだ。そうなりゃ、あとはあの人だけだろ。育ての親しかいないのさ」
「・・・うん。それもわかってるよ」
香凛は寂しそうな声で答えた。
「じゃあ。そんなにがっかりするなよ」
「だって。あたし。春君大好きなんだよ」
「それはお前だけじゃないわ」
「・・・んじゃあ。百歩譲ってアルトもね」
「譲るのかよ」
少し時間が経ってから、香凛が諦めたような小さな声で呟く。
「二人して、こんなに大好きなのに。この声って届かないのかな」
「・・・さあな」
「無理かな」
「どうだろうな」
「出来ないのかな」
「・・・粘り強くいくしかねえだろ。どうやっても、宗像先生並みの付き合いに、今からはなれないんだ。だったら俺たちは、せめて学生時代だけでも常に一緒にいれば・・・あいつの意識だって変わるかもしれないだろ」
「・・・・うん。そうかもしれないけど。やっぱりさ。信じて欲しいよね。好きになってもらいたいよね」
「それはそうだな」
「好き同士でいたいよね」
香凛の意見には欲望が紛れ込んでいる。
それをアルトは聞き逃さない。
「それはお前だけな」
「え。アルトもじゃないの」
「お前の言い方だと恋人だろ」
「うん!」
「俺は親友になりたいの! 恋人になりたいわけじゃねえんだわ」
「そうなんだぁ」
「当り前だろ!」
「あたしと張り合ってるから、恋人になろうとしてるのかと思ってた」
「はぁ。馬鹿だな」
「なんですって!」
「聞こえてねえのか。大馬鹿だな!!!」
「はぁ!!!?」
二人の喧嘩は続く。
◇
翌日のお昼休憩時間。
春斗の動向を探っていた二人は、教室から抜け出す春斗をたまたま見た。
いつもの彼ならば、いつの間にか教室から消えていく感じでいなくなっているのに、今日はなんだか楽しそうにして、図鑑のような大きな本を持っていたから、彼の気配を察知できた。
二人は追いかける。
T字路の廊下を右に通って、階段を上がり、二階の隅へ。
職員室を越して、図書室へと入っていった。
「図書室? ん??」
「あの子たち誰? 春君が入ったら、あそこの奥から移動して入口の前にいるよ」
香凛とアルトたちが到着する前に、図書室の影に男女の二人組がいた。
彼らは春斗が入ると同時に移動して、中を覗いていた。
「あれが、春君狙いか!」
「なわけあるか。春斗が入る前から、あそこにいたんだぞ」
「でも春君が移動したらそこに・・・」
二人も近づくことにした。
◇
図書室の前。
男女の会話はこのような会話である。
クリクリの目の栗色のお下げ髪の少女は、握った両手を上下に振って興奮気味だった。
「モモちゃん。なんかイイ感じなんだぞ!」
片目が髪に隠れている青年が、中の様子を見て悪態をつく。
「くそ。誰だ。あんなヘタレみたいな奴は」
「何怒ってんの。リっちゃん」
「うっせ!」
「ああ。モモちゃんが、他の男の子に取られるかもって、焦ってんの。妬いてんの。このこの。そんな事じゃ、モモちゃんに振り向いてもらえないんだぞ。駄目なんだぞ!」
女性が腕で男性の右胸を突いた。
「うるせ! このクソ女」
「はいはい。そんな悪態ついたってね。うち。全然怖くないんだぞ!! リっちゃんの一人称。僕だもんね!」
というやりとりが、こちらの男女にも聞こえた。
「その話。何!」
ガンギマリの目の香凛が二人に迫る。
「「え!?」」
「そのイイ感じって話。なに!!!」
血走ってる目に強烈な威圧感を感じる。
さっきまで仲良く話していた二人は押し黙ってしまった。
「おいおい。この人たちを睨んでどうすんだよ。香凛」
冷静なアルトが香凛の肩を掴む。
「あ?」
「そんな睨むなよ。俺にもよ・・・」
振り返った香凛の顔は、戻らない。
怒の感情が抑えられない。
「そんで君たちは? なんで春斗を見ていたんだ?」
社交的なアルトは、優しく聞きたい事を聞いた。
「え。うん。うちら、モモちゃんの後をつけてきたんだ。なんだか最近男の人と一緒にいるって話をクラスメイトから聞いたから、彼氏でも出来たんじゃないかって、うち、ワクワクしてたんだぞ。三組の女子の間では持ちきりの話題で、彼氏いる人が少ないから、珍しい恋バナは栄養補給なんだぞ!」
女性が目を輝かせて答えた。
乙女の話はキラキラ成分が多めなのとも、続きを話していた。
「へえ。そいつは俺たちと同じ事を・・・」
「彼氏ぃ!?」
ゴゴゴゴゴっと、香凛から怒気が沸いているがここは無視。
「そうか。君たち一年三組ってことか」
「うん。そうだぞ。あなたたちはその容姿だと・・・アルト様と香凛様でしょ」
「様?」
「うん。他クラスの人間だと、二人は様付けで確定なんだぞ。二人はやっぱ神々しいからね!」
「・・・ふ~ん。じゃあ、君たちは。誰かな」
あまり神格化して欲しくないんだが。
アルトはそう思って言葉を詰まらせていた。
「うちはね。西儀成実。こっちの怒りながら残念がってるのは吾妻理人だぞ」
「そうか。じゃあ、成実でいいか。こっちは理人か」
「うん。それでいいと思うんだぞ」
「君が決めてもいいのか」
「だって、もう無理なんだぞ。この人。モモちゃんに集中しちゃってるもんね!」
成実とアルトは、普通に会話が出来ていた。
しかし、香凛と我妻は、図書室の方に目が釘付けであった。
彼らの問題は、中にあるからだ・・・。




