第12話 近い二人
「これは・・・まあ、何かあったんですね。でもよく頑張りました」
三人のボロボロの姿で、四郎は確信していた。
ダンジョンにはイレギュラーが付き物。
それを身をもって体験している男だからこそ、皆の健闘を讃えている。
戦いに勝つ事。負ける事。
こんな事は些細な事。
ダンジョンで最も大事なのは。
「生きる事。これが大事。皆さん、よく生き残りましたね。偉いですね」
そう生きる事が最も大事である。
◇
「さてさて。春斗。その様子。申し訳なさそうな顔ですが、何かありましたか」
四郎は無表情の春斗の顔を見ても、その変化に気付いていた。
アルトと香凛は、この顔のどこが申し訳なさそうなのか。
全く分からなかった。
「はい。任務失敗です。お二人に、自分の正体を言ってしまいました」
「そうですか。それで二人は何と」
「それが・・・」
説明に入ろうとすると、二人が出てくる。
「先生。俺たちには春斗が必要です。任務は失敗じゃないです。俺たちが黙ってますから」
「うん。先生。あたしたち。春君の事は黙ってる。知らないふりするから、まだ一緒にいたいの」
面白い反応が返って来たと、四郎は微笑みながら答えた。
「ほうほう。なるほど。そういう反応になりましたか・・・」
この結果から、暫し考える。
四郎は、考え事もしくは集中したい時にガムを嚙む癖がある。
グレープ味のガムがお気に入りだ。
ポケットから取り出してひとつ噛み始める。
「ふむふむ。なるほどね・・・春斗と一緒にいたいとなったと・・・調査をしていると知ったしてもね・・・それで黙ってるね。うんうん。考えが面白いですね。子供の考えは柔軟だ」
四郎は、嘆願してきた二人の顔を見て、これはドキドキしているなと思っていた。
自分の次の意見で、全てが決まるかもと緊張している様子だ。
「こうなると。春斗」
「はい。宗像さん」
「あなたがどうしたいでしょう」
「え? 自分ですか」
「二人にこんなに思ってもらえたのです。あなたはどう思っているのですか」
「・・・ど。どうとは? 二人の事ですか」
「それもありますが、自分がどうしたいかを聞いてます」
「・・・んんん。まあ、学校も中々楽しいので続けたいとは思っています」
春斗の言葉に四郎は頷く。
「うんうん。それで。二人の事は?」
「せっかく友人になれましたし、今回で仲良くなったと思いますしね。もう少し一緒にいたいとは思いま・・・」
『すが』と続けて言おうと思った瞬間には二人が飛びついていた。
三人の顔が一か所に集まる。
「じゃあ一緒にいようよ。春君」
三人のおでこがぶつかっている状態で話していた。
「ああ。これからも学校で一緒だぜ。俺たちで最強になるのさ」
アルトが夢を語るが、春斗は冷静。
「ですがね・・・自分では決められなくて」
自分はそう思っても、自分の立場が許さないだろう。
春斗はあくまでも任務を優先していた。それは、ダンジョンの許可証の剥奪をされる恐れがあるからだ。
第一に考えるのはダンジョン。
春斗はダンジョン依存症とも言えるくらいに、頭がおかしい。
「そうですか。あなたとしては学校にいてもいい感じですかね?」
「え。まあ。宗像さんと五味さんがいいなら、ここにいたいですけど。上への報告が難しくなるのでは?」
「それは大丈夫です。こちらでもチェックしてますから、あなたがやりたいと思えば、こちらがなんとかします。自分。あなたの上司以前にですね。親ですからね」
「・・・でも我儘になりませんか。宗像さん」
四郎が春斗の頭を撫でる。
「ええ。なりませんよ。これしきの事。我儘になったら、世の中の全てが我儘になります。あなたがしたい事をさせたい、それが自分です。それと五味も一緒にやってくれますから、大丈夫」
四郎は五味を信頼していた。
「・・・じゃあ。お願いします。自分。もう少しだけここで頑張りたいです」
「そうですか。ではおまかせを。春斗はただ普通に報告書を書いてください。日記帳みたいな感じで良いですよ。あとはこちらがなんとかします。大人の役目です」
学校に通う事。
それがあなたの青春時代で最も大切なものになって欲しい。
仕事の一環として、学生時代を過ごすのは悲しいから。
四郎の親心が垣間見える瞬間だった。
「宗像さん。申し訳ありませんが、色々調整をお願いします」
「ええ。大丈夫。春斗は心配しないでください」
四郎がニッコリと笑った後。
二人が同時に春斗を抱きしめる。
「やった! これで春君と、これからも一緒だね」
「まだまだ教わりたい事がたくさんあるんだ。絶対に離さねえ!」
「いやいや。体痛いんで。そんなに抱きしめられても・・・きついです!? 喜びは別な表現で・・・」
「「離さない!!!」」
「そんなぁ」
春斗がパーソナルスペースが近いと言っていたのは、この事。
友人である二人は、調査員として潜り込んだはずの春斗を大好きになったのだ。
◇
その後。学校に帰った彼ら。
彼らがボス戦を制覇した事は風の噂になって、三年生までに知られることとなった。
ボスを突破。これは珍しい事だ。
初学年にしてボスを撃破したのは、過去に三つの班だけなのに、今回は二つの班が成し遂げた。
第一組の第七班と、第三組の第二班だ。
素晴らしい学年になったと、称賛されるのが十期生である。
そして・・・。
2121年6月11日
遠足から帰り、通常授業に戻ると、二人の距離が春斗に近い。
「あの・・・もう少し離れてもらえます?」
春斗が二人に言った。
三人一組の席。
連なる席であるから広めに出来ている椅子なのだが、真ん中に座る春斗に二人が寄って来ていた。
肌と肌が触れ合うほどに近い。
「狭いんですけども」
「いいんだよ。狭くねえよ」
「そうそう。あたしさ。この間の・・・」
指摘は無視されて、話が勝手に進む。
「あの・・・まあいいか」
春斗はダンジョン以外の事では、深く考えない人でもある。
寛容と言えば、寛容な方だろう。
無関心と言えば、確実にダンジョン以外は無関心なのだ。無頓着と言い変えてもいい。
こうして、春斗と二人の関係が良くなる一方で、他のクラスメイトとはどのような関係になったかと言うと、香凛とアルトにあった棘のようなものが消えて、人を寄せ付けないオーラも消えたので、二人が少しだけ親しみやすい存在になり、会話がスムーズに出来るようになったことでクラス全体の仲の良さも出た。
この二人の明るい変化が、春斗のおかげである事がなんとなくクラスメイト達も察してくれて、春斗自体も受け入れられる形となった。
だから二人と仲良くなったことが、間接的にクラスメイトとも仲良くなることになったのである。
特に前の班。
第六班の茂野里美とは気軽に話せる間柄となる。
近い二人がいなくなった後。
「青井君」
「はい。なんでしょうと聞きたいところですが。その前に出来たら春斗でお願いできますか」
「春斗の方がいいの?」
「はい。あまり青井が好きじゃないので」
「そうなんですね。それじゃあ、春斗君。こちらの計算が間違っています。こっちが正しいものですよ」
「ん? おお。そうでしたか」
数学の課題の計算問題を間違えていたらしく、端的な言葉で正しい計算を教えてくれた。
「よく一瞬で分かりますね。あまり自分の方を見ていないのに」
「私の能力のせいです。私の力は記憶関係なので、一瞬見れば覚えてしまいます」
「へえ、なるほど。内政系なんですね・・・それでは、ダンジョンは厳しかったのでは」
能力には系統がある。
大まかにすると戦闘系と内政系があって、NSSでは戦闘系のみならず内政系も鍛える事になっている。
それも戦闘系の人物と一緒にだ。
これは大人になった時に、内政系の人間も重要である事を知ってもらうためだ。
互いに協力をし合う環境作りをしている。
「はい。でも同じ班の二人が強いので前へ行けました。私は覚えている範囲でデバイスを使わずにモンスターの情報を教えていました」
「へえ。凄いですね。記憶の力ですか」
このようにギフターズには、メインを張らずに補助をする人物もいるわけだ。
春斗の母秋子もだが、他にも能力が戦闘向きじゃない人がいる。
学校に来て実力を見せるのは何も戦闘の力だけじゃない。
こういう補助の形でも貢献する人はたくさんいる。
「ええ。ですから、覚えていて欲しい事は私に任せてください」
「はい。そうします」
茂野里美と青井春斗は学校で出会えていた。
交友もあった間柄である。
春斗の懐かしき思い出の中には、良い思い出があったのは確かだ。
彼女との出会いは間違いなくその一つである・・・。




