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第7話 落ち着く事も更に大事

 三体いたスライムの内。

 一体だけは、一度春斗たちに姿を見せてから、暗闇の中に消えていた。

 その一体は迂回して、香凛の背後に回っていたのだ。

 香凛の真後ろにいきなり登場したことで、香凛が叫んでいた。


 「そっちにいったんですね。アルト。ここのもう一体を頼みます。自分が彼女の方に行きます」

 「おう。まかせておけ」


 二体目の撃破をアルトに任せて、春斗は香凛の元に向かった。


 ◇


 「香凛!」


 移動しながら声を掛けた。でも返事は帰ってこない。

 彼女はパニック状態で返事をする余裕がなかった。


 「こ。来ないで。気持ち悪い」


 うにょうにょと移動するスライムは地を這うタイプのスライムだ。

 ぴょんぴょん飛び跳ねるタイプのスライムが多い分。

 この行動は大変に珍しいので、春斗のテンションが一人勝手に上がる。


 「おお! 面白い。後で動きをメモしておこう」

 「ああ、ああ」


 足がすくんでコケてしまった香凛の右足にスライムが張り付いた。

 ゲル状なだけだったら、ひんやりして気持ちいいけど、モンスターだと思うと感触が気持ち悪い。


 「いや。浸食されるの。これ。食べられちゃうの私!?」

 「いえいえ。普通のスライムは、窒息死させる気がありますが、人間を溶かす気はありませんよ。だから、あなたが冷静であれば対処できるんです。なんで力を使わないんですか?」


 春斗が一瞬で香凛の元に到着。

 彼女の顔を見つめていても、助ける行動をしていない。


 「ちょ。助けてよ。気持ち悪い」

 「いいえ。自分で出来ますよ。テレキネシスで剥がすんです」

 「む。無理。力が出ないもん」

 「それはあなたの精神状態が普通じゃないからですね」 

 「そ。そうよ。気持ち悪いんだってば」

 「はい。でも甘えてはいけません。あなたは今ダンジョンにいるのです。出来る限り自分の事は自分で対処が出来るようにならないといけません! この先、チームとして進めませんよ」

 「そ。そんな事言ったって・・気持ちが・・きゃあああ」


 会話をしていたら、スライムが這い上がって来ていた。

 ふくらはぎを越して太もも。そして股間へと進もうとしている。

 

 「と。取ってよ。春斗」


 本来は涼し気な目元であるが、今は怖くて涙が出ている。


 「駄目です。自分でやらねば、この程度のモンスターで泣きべそかいていたら、BやAが出てきた時には、気絶してしまいますよ」

 「そ。そんなぁ。あああ。来る。入ってくる。私に入ってくるのが、気持ち悪い」

 「仕方ありません」


 彼女のあまりの泣きように春斗は行動を起こした。

 打撃で殴る振りをして、スライムの体に音を合わせて殴る。

 上手い具合の衝撃波を作りスライムを殺さずに彼女から剥がした。


 「香凛。いいですか。あれを自分で倒すんです。まずは、行動制限。テレキネシスを使用して、スライムの動きを止める! はい。やってみて」

 「え・・だ・・だってさっきまで」


 自分の上を這いずり回っていた気持ち悪い物。

 もう少しで自分の中に入りそうだった物。

 彼女は躊躇してしまった。


 「そうです。あれは、あなたを攻撃していました。しかし、ここでそのトラウマは、倒して乗り越えるんです。これ以外の方法で、ダンジョンでの気持ちの整理はないです。リベンジこそが克服のきっかけ!」


 気持ち悪い思いをしたのなら、お返しは倒す事。

 トラウマは早めに無くすのが先決である。


 「う。うん」

 「普段のあなたなら楽勝です。まずは動きを止める。はい。どうぞ!」

 「うん。やってみる」


 両手を前に出して、香凛は集中した。

 テレキネシスの発動の基礎はイメージ力。

 相手の行動を止めるというイメージを持つだけで相手を止めることが出来る。

 ちなみに相手を浮かすと考えれば、相手を浮かすことが出来る。移動しろと念じれば移動させることが可能だ。

 だから思ったことを実現できる凶悪な能力と言える。


 「この止まれ!・・・あ・・・あれ。と。止まれ! 止まってよ」


 念じているがスライムの動きが止まらない。うにょうにょと地面を移動してきて、先程の体をはいずり回って来た気色悪い感触が蘇ってより一層焦る。


 「止まっててば! お願い」


 香凛の集中力は、焦りにかき消されていた。

 力を発動させるのに、イメージの力が足りない。

 

 「香凛。落ち着いて」


 春斗が隣に立った。彼女の左肩に手を置いて落ち着かせる。

 体に人のぬくもりを強制的に与える事で、落ち着かせる。

 これは宗像が春斗にしてくれた事だった。


 「香凛」

 「・・・止まらないよ。どうしよう」

 「香凛!!」

 「え。あ、春斗」

 

 触られても声を掛けられても、焦り過ぎて自分の状態も把握していない。

 そんな事ではこの先S級になどなれない。

 春斗は優しく指摘してあげる。

 

 「大丈夫。君は物に対して完璧にその技を発動させています。授業中の訓練では完璧です」

 「・・う。うん」

 「基本。それと同じなのが今ですよ。訓練と違っている部分は、相手が動いているだけ。生きているだけです。ただ相手がモンスターですので、命のやり取りの最中なだけです。あなたが負ければ、死ぬ。あなたが勝てば、相手が死ぬ。それがダンジョンでの戦いです」


 生死別つのは、自分次第。

 生きたいという意思。負けたくないという意志が。

 この先を強くする。


 「うん。そうだね。わかった」

 「はい。でもあなたなら出来ますよ。彼と同じ負けず嫌いですからね」


 春斗は、彼女にアルトの方を見ろと指差す。

 振り向いた香凛は、目を輝かせて戦うアルトを見た。

 雷を微調整して、鋭い細い雷にして、相手のコアを焼き切る。

 そんな細かい事をして、戦う事を楽しんでいた。

 さっきまでは香凛と同様に、焦っていたのに。


 「うん! 負けたくない」

 「そうでしょう。あなたたちは切磋琢磨して、共にS級ハンターを目指すべきです」


 まるでベテラン指導官のような春斗が、香凛をハンターとして導く。

 ギフターズとしての力を開花させるのではなく、ハンターとしての力を開花させるのだ。


 「その最初の戦いがこれです。第一歩です。ここで後ろに下がったらいけません。ここで誰かに頼ってもいけません。香凛!」

 「はい。やってみる」

 「ええ。出来ますよ。やれます。どうぞ!」

 「うん!」


 彼女はテレキネシスを発動させた。

 イメージは停止。力を加えると即座にスライムの動きが止まった。

 だから停止を成功させたことは明白。しかしまだである。停止のみでは倒したことにならない。


 「そこから次は!」

 「コアを・・・でもテレキネシスは・・・」


 答えを言わないで考えさせる。

 春斗は導いている。


 「テレキネシスが出来る事は無限大です。イメージさえあれば、どんな事にも対処できます。だから、倒すイメージを作るんです。あなた自身で」

 「倒すイメージ・・・そっか。物理だね。さっき言ってたもんね。物理は効くって」

 

 春斗は何も返事をしない。

 頷きもしないし、言葉も返さない。

 ただ見守っていた。


 「それじゃあ。このままいって!」


 モンスターを停止させてから、移動させる。

 奥の壁に移動させた。 

 ぺちっと鳴るとスライムは形状が潰れた形となる。


 「やった。勝ったかな」

 「香凛。油断はしない」

 「え!?」

 「コアが潰れてません」

 「あ・・・ほんとだ。じゃ、じゃあ。また来るの!?」


 またうにょうにょと前進してくるスライム。

 鳥肌が立った香凛はまた恐怖していた。

 再び這いずり回られるのは気持ち悪いと頭の中で想像してしまった。


 「香凛。焦らない。先程の君の攻撃は良い線をいってました」

 「そ。そうなの」

 「はい。でも倒せない。と言う事は何かが足りません。何がでしょう?」

 「・・・壁への移動が遅いのかな?」

 「そうです。倒すにはもっと早く壁にぶつけるイメージが必要です。スライムを剛速球で壁に叩きつけるイメージです」

 「うん。やってみる」


 香凛が再び力を行使。

 スライムを停止させてから、壁へと叩きつけた。

 初動の動きの時の音が凄く【ビュッ】と音が鳴った。

 

 「いっけえええ!!!」


 ベタンとスライムが壁にぶつかると同時にぺちゃんこに潰れて跡形もなく消えていく。


 「完璧ですね。香凛」

 「やった。春斗。私やったよ」

 「ええ。素晴らしいですよ」

 「ありがとう! あなたのおかげ!」

 

 と言って全身で喜びを表現している彼女は、春斗に抱きついた。

 彼女の頬が春斗の頬と重なっても。


 「あ。そうですか。いえいえ」

 

 冷静な春斗は、淡々と返事を返した。

 美女に抱き着かれても、春斗の心はブレる事がない。

 異次元の精神を持つ男。

 それが青井春斗である。


 

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