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第6話 力でも技術でもない 大事なのは心

 春斗の淡々とした声が二人の耳に届く。


 「来ますね」

 「え? どこから!?」

 「ようやくか!」


 二人は身構えた。

 この暗闇の中、どこから来るのか。

 それにどんな奴が来るのか。

 モンスターなんて図鑑や記録映像でしか見た事がない。

 緊張感が増していく。

 手の平の汗もこれ以上ないくらいに出ている気がする。

 一階層くらいのモンスターであれば、自分たちでは楽勝だと分かっていたとしても、震えは止まらない。


 「前から3体です」


 春斗は聴力と目視で確認している振りをした。

 実際は、自身の音の能力で確認済み。

 反響音で数を把握して、敵との距離も把握している。

 まだ安全圏だ。


 「この感じ、スライムかな」


 春斗は目を凝らして、暗闇の先から出てくるよと合図した。

 でも実際は、移動音でスライムであると確信している。

 ダンジョンに入ってモンスターと幾度も対戦している内に、モンスターの移動音を覚えているのが春斗である。

 ダンジョンに魅せられているから、ダンジョン関係の情報を熟知している。

 

 「スライム!?・・・・なぁんだ」


 香凛はあからさまにホッとしていた。

 緊張して損をしたという言い方をした。


 「香凛、油断は禁物。そんな考えを持つと死にますよ」


 春斗は、そこを指摘。

 ダンジョンに望む心構えがなっていない。


 「え」

 「初めて出会うのがスライム。だから怖くないと思っているんですか」

 「う。うん」

 「そうですか。ではスライムに致死性の攻撃がないと思っていますか?」

 「・・・」


 香凛は、そもそもモンスターすら直接目で見た事がなく、スライムも授業などの映像記録でしか情報を得ていない。

 その記録映像でも倒されている映像しかないから、スライムは楽勝だろうと考えていた。

 だから、スライムの攻撃方法など気にしていなかった。


 「駄目ですよ。彼らは、攻撃目標を顔だけにします。何故か、わかりますか」

 「・・・ううん」


 首を横に振った。


 「それは窒息死させるためです」

 「え・・・窒息!?」

 「はい。人間に息をさせないという目的の為に、彼らは決死の体当たりをしてきます。自分の身が削れても、こちらを殺すために必死になってきます。ここはダンジョン。人対モンスターで命を削りあう戦場なんです。慢心も油断もいりません。必要なのは倒すことに集中する事のみです」


 弱くとも一矢を報いる。

 そんな突撃を仕掛けるのがスライム。


 「いいですか。敵の動きが遅くとも、あなたが油断をしてしまえばね。よくありません。もしもですよ。あなたがあっさりと掴まれば、呼吸困難でスライムの海の中で息絶えます」


 淡々と恐ろしいことを言ってくる。

 そんな春斗に、香凛は少し恐怖した。

 戦う直前であっても冷静なのだ。


 「・・・・そ。そんな」


 今から戦おうとしているのに、脅されるなんて。

 スライムを舐めていた香凛の手は汗だくになっていた。


 これほど釘を刺す理由。

 それは春斗がスパルタに育てられたためであった。

 彼は、幼い頃からダンジョンに入り、11歳からになると、四郎と共にダンジョンの中に潜って戦いと調査をする日々を過ごしていた。

 様々な知識を身に着けていくことで、春斗はダンジョンのおかげで成長していった。


 春斗の初陣も、スライム戦だった。

 しかしそれは異常な戦い方。

 なんと四郎は春斗の体を縛って戦わせたのだ。

 無抵抗状態になった春斗は、スライムの攻撃を受け続ける。

 その行為は、窒息攻撃からの脱出方法を勉強させるためだった。

 実践で学んでもらうために無茶をさせたのだ。

 階層が浅い段階はまだ敵が弱い段階。

 その内に、倒す方法をたくさん持つことが、後々のモンスターを倒す工夫に繋がるという頭がぶっ飛んだダンジョン狂人者である四郎なりの考え方だ。


 最初から身を危険にする考えが、まったくもって意味不明なのだが。

 それが、春斗をより一層強くしたのは間違いない。

 宗像四郎は頭がおかしい。

 これだけは覚えておいて欲しい。

 宗像四郎は、変態紳士で、春斗への愛情が人一倍あっても、成長に関しての考えがおかしいのだ。



 ◇


 スライムが暗闇から飛び出てきた。

 水色の肉体でプリンのような艶がある。

 これを人間に例えると、プルンプルンの肌。

 女性が憧れる。

 赤ちゃんのような肌だろう。


 スライムは、こちらを見つけるまでは、のそのそと地べたを進軍して、見つけてからは、小学生のハードルくらいの速度で飛んできた。

 だから、こちら側が普段通りに動ければ、スライムの攻撃は躱せない速度じゃない。

 心が落ち着いていれば、ちゃんと対応が出来るのだが。


 「俺がやる。雷だ!」


 初対戦。

 焦ったアルトは雷の力を真っ先に出していった。

 しかし、彼が出した力は黄色の雷。

 普段であれば赤から始めることが出来るのに、ここではCランク相当の力しか出なかった。

 それほど、初戦に緊張していたのだろう。

 Sの力を持っていても、出せる力がCであるのは、よろしくない。


 「き、効かねえ。なんでだ。俺の雷が!」


 相手はE。自分の出した力はC。

 焦っていたとしても、モンスターよりも強い力を出したのに。

 まさか効かないなんて。

 アルトがたじろぐ。


 そこに春斗からの指示が出る。


 「アルト。下がるんだ」

 「え!? わ、わかった」


 迫って来たスライムニ体から遠ざかる。


 「今の攻撃。当てましたか」

 「あ。ああ。当てたはずだ。でも効かなかった」

 「そうですか。では、なぜ黄色で攻撃しましたか」

 「あ、いや、咄嗟だったからさ」 

 「アルト。さっき焦りましたか」

 「・・・あ、ああ。たぶん、ちょっとな」


 恥ずかしそうにアルトが苦笑いをした。


 「いいでしょう。そういうものです」


 素直に返事をしたので、春斗は安心した。

 ここで意地を張ると教えるのにも苦労する。


 「ダンジョンにいるスライムを倒すのに、物理攻撃をしない場合。攻撃はコアを目指さないといけません。ここで説明します。意外になるのでしょうが、スライムは、コア以外の肉体。物理以外に耐性があります。黄色程度の雷では、体の表面を焼くには至らないんです。威力の高い青い雷からが、有効となります。それならスライムの外皮ごとコアを焼き切ります」

 「そ。そうだったのか。じゃあ。ここで」


 威力判断を間違えただけ。

 自分は弱くないと一安心したアルトは、次の力を準備した。

 しかし、春斗が止める。


 「いいえ。青で攻撃しないでください」

 「ん? な、なんでだよ。今こっちに来るんだぞ」

 「ええ。来ますよ。でも、緊張感の中で、力と技のコントロールを学びましょう。黄色の雷で、あのスライムのコアを破壊してください」

 「は?」

 「精密射撃の訓練です」

 「・・・俺の雷をピンポイント攻撃にするのか?」

 「そうです」


 パイロキネシス。エレクトロキネシス等々の魔法攻撃のような異能を持つ者たちは、その力に溺れて、精密に力をコントロールすることを疎かにする。

 最大火力で攻撃できれば、あとは敵を焼き殺せるだろうと考えてしまうのだ。

 しかしそれでは、弱点部位に精密に攻撃をするという行為をしなくなる。

 モンスターには必ず弱点がある。

 その弱点に効率的に攻撃できれば、余計な力を使わずに、ダンジョンを進むことが出来る。

 

 ダンジョンは戦い。戦い。戦いの。

 連戦状態を背負う形となる。

 潜っている間は、ほぼ戦いずくめなので、ハンターたちの撤退理由の一つに疲労があるのだ。

 モンスターに勝てないから、先に進めないのではなく、これ以上自分の能力を使えなくなって、戻るしかないという現象が起きるのだ。


  

 「俺に出来るのかよ」

 「はい。出来ますよ。これはモンスターの弱点を狙う訓練です。それにですね。これは弱体化している部分を探る訓練でもありますよ。真ん中にあるコアにまで雷を届かせるイメージで攻撃です!」

 「クソ。ムズイ要求だな。この状況で」


 ポヨンポヨンと動いて来るスライムたち。

 その姿は愛くるしい部分もあるが、こちらを殺そうとしているのはたしか。

 その緊張感の中でアルトは雷を準備した。


 「あそこのさっきの俺の攻撃で、体が欠けてるところから・・・雷で傷を広げる感じがいいか」


 自分で考えて敵の攻略方法を見つけたアルトは、黄色の雷を精密にコントロールして、スライムのコアにまで届かせた。

 コアが焼失して、スライムが消失する。


 「やった。倒せたぞ。春斗」

 「ええ。アルト、素晴らしいですよ。一発で出来るのは偉いです」

 「ああ。お前のおかげでサンキュ・・・って、なんでお前に褒められなきゃいけ・・・」


 嬉しそうにしたアルトが、ここから悪態をつく寸前で。


 「きゃああああああああああああ」


 彼女の声が聞こえて、二人の意識がそちらに向かった。



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