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第4話 変わった人たちの変わった日常

 入学式の次の行事は遠足となる。

 六月にある行事だ。

 重要局面となるだろうと気合いの入る場面だと思われるが、そこに至るまでであっても春斗はいつも通りで、淡々と日々を記録している。



 春斗の日誌のような記録報告。


 4月19日。

 人は皆。

 彼らの顔を見ては惚ける。

 何かの目標を持って廊下を歩いているのに。

 彼らがふと視界に入ってしまうと、急にぼんやりとしてしまい、そのまま廊下の柱に顔や頭をぶつけたりする。

 これもまた面白い反応だと、自分はそっちの人の方の記録をしてしまいそうだった。

 たんこぶ一個とか。

 腫れた頬二か所とか。

 観察対象はこちらの二人だというのに、余計な作業をしてしまいそうだった!

 


 ◇◇◇


 報告書はこのように感想も込められていて、春斗らしい部分があった。

 それと、春斗自体の心の変化も読み取れていく事になる。

 今まで人と接して来なかった彼が、徐々に人らしくなっていく。

 そんな気がしたものだと宗像や五味の二人は、笑顔で読んでいたそうだ。

 春斗自もは問題なしだと、上層部に報告をしていた。


 ◇◇◇


 

 4月20日。

 彼らに友人が出来る気配がない。

 彼らは異質。

 能力的にも、一段上とかのレベルじゃない。

 数段上の実力者だから、他の生徒たちは、おいそれと話しかけることが出来ないようだ。

 それに彼らは造形が美しい。

 彼女だけじゃなく、彼もまたカッコよさを通り越して、中性的な美しさがあるから、男性の方も緊張するみたいだ。

 友人が出来ない環境が続く。

 可哀想だ。



 ◇◇◇


 と言っている春斗の方も友人がいないだろう。

 五味と宗像は、春斗へのツッコミが止まらなかった。



 ◇◇◇



 4月21日。

 この日。自分の方にクラスメイトを含め新入生たちの視線が来ている事に気付く。

 今までは二人に向かっていた視線が、自分に来ているのだ。

 これは何だろうと、音を収集して見た。


 集音。

 音の力を持つ自分の能力の一つで、遠くのコソコソ話などを聞くことが出来るからこれを使ってみた。


 「なにあいつ」

 「そうだ。ずっと香凛様とアルト様のそばにいるじゃん」

 「ズルだズル」

 「あんなボンクラが。あのお二人のそばに。それじゃあ。私でも良かったじゃん」

 「それ。本気で言ってる。あの二人に囲まれたら緊張して無理よ」

 「だよな。だからあいつ変じゃね。平気な顔して間にいるけどさ」

 「うんそうだよ。緊張もしないでいるもんな」


 罵詈雑言の中に気付かされる発言があった。

 平気な顔をしてこの二人の間にいるのはまずいんだと!



 4月22日。 

 この日。オドオドして二人の間にいればいいんだと思った自分は、自分なりにオドオドしてみた。


 「あのさ」

 「ななななな。なんですか」

 「どうしたお前?」

 「いいいいい。いえいえ」

 「は? いつものお前らしくねえな。具合でも悪いのか」

 「そそそそそ。そんな事はないですよ」

 

 と、緊張感を自分から出して話してみました。

 騙されてくれと願いを込めて演技をしましたが。


 「変じゃないこいつ。今日に限って、皆と同じような反応じゃん」


 香凛には分かれてしまった。

 皆の真似をしたら、嘘を見抜かれた。

 この人たちが、鋭い感覚を持っていたと割り切って、この作戦は諦めようと思う。


 ◇◇◇


 という報告があったが、宗像はこの報告を見た時。

 春斗の演技が下手糞だったんだろうなと、思いっきり笑ったのだそう。

 後でここを読んでいる五味も笑ったらしい。

 春斗の不器用な感情表現を、頭の中で想像すると大爆笑ものだったらしい。


 ◇◇◇


 

 4月23日。

 オドオド作戦はやめて、普通に接する事に決めた。

 人には得手不得手があるのです。

 出来ない芝居で変に勘繰られるよりも、淡々と自分らしく生きていこうと思います。

 あの二人に自分が調査員だとバレた場合は、宗像さんと五味さんのせいにしよう。

 ええ。そうしよう。

 出来ない事をやらせた政府が悪いことにすれば、万事解決だ。

 全ては政府が悪い。

 そういうことにしよう!

 本当に政府が悪いから、自分は一切悪くない。



 5月1日。

 話しかけても逃げられる。

 話しかけても目を合わせてもらえない。

 話しかけても。話しかけても。

 彼らは無視じゃなくて、相手をしてもらえない。

 

 他の生徒たちは、学校一のマドンナと、学校一のイケメンから無造作に話しかけられたら、勝手に心が浮ついて、普通の会話が出来ないようだ。

 だから逃げるが勝ちみたいに皆いなくなる。


 でも自分だけは、彼らの話に普通に答えるからなのか。

 彼らはぶっきらぼうながらも良く話しかけてくるようになった。

 話し相手は誰だって欲しいだろう。

 こんな無表情の自分が相手だとしてもだ・・・。



 まずこの日のアルトから。

 次の座学授業の準備をしていると、右から声が聞こえた。

 

 「次の授業ってなんだっけ」

 「基礎知識です。分野はサイキックですよ」

 「へえ。サイキックか・・・ってなんだ?」

 「厳密に言えば違いますが、ギフターズの昔の呼び名と言ってもいいです」

 「そうなのか」

 「はい。ギフターズはあれらよりも明確に強さが出ますからね。それに変わっています。色んな能力がありまして、身体にも特徴が出るので、ギフターズと言う名称に変更されたそうですよ」

 「そうなんだ。お前物知りだな」

 「いえ。自分は要領が悪い方なんですが。自分の父親代わりの人に、コンコンと詰められたので、無理くり覚えているだけです」

 「父親代わり?」

 「はい。自分は捨て子で、拾ってくれた義父が育ててくれました。変な人です」

 「な!? お。お前・・・苦労人だったのか」

 「苦労人?」

 「悪い。俺、そんな事知らないで、お前の家庭事情を聞いちゃって。すまない。ごめん」

 「え? 何が?」

 「ん、いや、捨て子だなんて。簡単に聞いて悪かった」

 「よくわかりませんが、あなたは悪い事なんて言ってませんよ。別に捨てられたくらいで不幸だなんて思ってません。むしろ幸運でした」

 「え??」

 「拾ってくれた親の方が立派な方ですから」

 「そうか。よかったな。お前」


 申し訳なさそうな顔のアルトが、ほっこり笑顔になってくれました。 

 この話を書いたのは、理由があります。

 

 これを読むのが政府であっても、ここは書きます。

 自分の親は宗像四郎だけです。

 何があろうとも、宗像四郎だけ。

 青井に誇りを持っていません!

 それだけは宣言します。

 この記録を見るかもしれない永皇六家よ。

 自分程度の報告書を読んで、驚くこともないでしょうが、自分はそれを誇っています。

 その誇りに傷をつけた場合は・・・。

 


 ◇◇◇


 この日記のような記録書兼報告書は、政府上層部まで行く可能性がある。

 つまり、永皇六家が読む可能性があるのだ。

 

 しかし、その前に宗像と五味が事前にチェックを入れている。

 春斗が書いた。

 場合は・・・。

 に続く文章を読めたのは、その五味と宗像だけだった。

 二人はそこだけは改竄して提出した。

 なぜなら、傷をつけた場合は、永皇六家であろうとも、自分は戦います。

 と宣言していたからだ。

 育ての親がとても大事だから。

 今はあなたたちとは戦わないだけ。

 そのような思いの丈をぶちまけた文章だったから。

 青井春斗の身を案じた二人が文章の改竄を行ったのである。


 ◇◇◇



 5月2日


 今日は左から声が聞こえる。

 朝日を浴びている彼女の髪は神々しく燃え上がる。

 赤の薔薇が咲いているみたいに、真っ赤だ! 眩しい!

 アルトと席を交換した方がいいかもしれない。

 窓辺は危険かもしれない。


 「あんたってさ。ランクなに? なんの能力なの」

 「自分は、身体強化ですね。Dランクです」

 「へえ。Eじゃないんだ」

 

 Eじゃないんだには、他人を馬鹿にする意図が感じられなかった。

 この予測として成り立つのは。


 「聞きたかったのはバランスについてですか。香凛?」

 「ん?」

 「今の発言。この班のバランスを考えていたのでしょ?」

 「え。まあ。そうね。だって、私ってAでしょ。それでアルトがS。だったらあなたはEでしょ。バランスが悪いもの。他の人たちの所を考えるとね」


 その通り。

 このクラスでも平均値が最高でもB近くでまとまっているのに、この班だけ記録上A寄りなのだ。

 でも実は、A寄りじゃない。

 自分がいるので、この班の平均はSです。

 ごめんなさい。

 他のクラスの人たちにも謝っておきます。

 実力が違い過ぎる班であります。


 「まあ。いいんじゃないですか。学校が決めてることですしね」


 と言うか。

 こちらの班編成については政府が決めている事なので、学校レベルじゃどうにもできないです。

 

 「そうかな。なんだか悪い気がして」

 「どうして?」

 「え。だって、成績を出しやすいじゃない。この学校さ。評価基準が個人のものもあるけど、班のもあるじゃない」

 「まあそうですね」

 「特にダンジョン試験なんて楽勝になるじゃん」

 「ん?」

 「だって。モンスターなんて、アルトと私で楽勝でしょ」

 「それは聞き捨てならない」

 「え。ど、どうしたのよ。怖い顔して」


 自分の好きなものを馬鹿にされた気がして、少し怒りが出ていたらしい。

 声に出したつもりがなかったが、顔に出ていたらしいんです。


 「いえ。でもその言葉は聞き捨てならない。ダンジョンは簡単じゃない。実力Sが、ダンジョンに挑戦しても、毎回同じ結果にならない。それくらいに難しいのがダンジョンです」

 「え。でもさ。強さがちが・・・」


 話の続きを言わせぬ迫力があったのかもしれない。

 彼女は言葉を途中で飲み込んだ。


 「でももないです。ダンジョンにイレギュラーは付き物。それに環境変化やモンスターの生態。これらの知識がないと駄目です。上へと。下へと。先へ進むことが出来ない。あらゆる状況に陥れられても、そこで冷静に判断しなくてはならないのです。ダンジョンを深く理解しないと駄目なんです」

 「・・・え・・・う、うん」


 自分の迫力に完全に負けたのか。

 驚いた顔をして、香凛はここから黙ってしまった。

 せっかく誰かと会話が出来ただろうに、申し訳ないことをしたと自分は反省した。




 5月3日。


 朝の授業前に、席に座るといつもと雰囲気が違う。 

 左右から怒りの感情が飛び出ている気がした。

 ゴゴゴゴって鳴っている気がする。

 音に敏感な自分だから気付けたかもしれない。


 「・・・・」

 「・・・・」


 無言の二人はさっきまで会話していたのだろうか。

 自分ではこの二人の仲を取り持つことは出来ないので、経過を観察することにした。



 ◇◇◇


 この時。その仲直りも仕事だと思ってやれよと、五味と宗像は思っていた。


 ◇◇◇



 5月10日。


 仲が悪くなった原因が判明した。

 二人は能力勝負をしたらしい。

 学校の特殊体育館で売り言葉に買い言葉の喧嘩から戦いが始まったようだ。

 隣のクラスの冴島君が言っていた。

 

 それで、結果が互角だったことが不満に繋がったみたいだ。

 互いにプライドがあり、今まで誰にも負けた事が無く、当然の事だが、引き分けともなった事がない。

 だからこそ不満みたいだ。

 子供だな!

 


 ◇◇◇


 だからそれをなんとかしろと。

 五味と宗像は思った。


 ◇◇◇



 5月20日。

 あれから十日が経っても二人は口もきかない。

 文句は言わなくても、目線も合わせないので、班体制の授業になると面倒。

 正直早く仲直りしろと思う。



 5月30日。

 この人たちは意地っ張りだ。

 約一カ月、二人は不機嫌のままである。

 そこまで、負の感情を出し続ける忍耐力。

 あっぱれである。


 この根性はきっとダンジョンに役立つだろうと、自分は感服した。 

 自分ではおそらく出来ない。

 ここまでの意地!

 立派だと思って、自分は二人の観察を続ける事にした。



 ◇◇◇


 一カ月近く。

 同じ班の人が喧嘩していても、平然とその間にいるお前の精神がどうなってんだよ。

 そう思う五味と宗像であった。


 ◇◇◇

 

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