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綾香の笑った音が、怜生に聞こえていた。
怜生は辺りを見回した。誰もいなくて…怖かった。冷や汗を感じた。その時…
『怜生?』と、良一が怜生を呼ぶ。
「あぁ、わりぃ。 なんか、笑い声が聞こえたからさ。 誰もいなくてこえんだけど。」
『お前も、だいぶ訛ったな。 あいつの昔よりはいいがな。』笑いを堪えているのに皮肉を言う。
「あいつって、お母さん? 今は感じないけど。 たまに伯母さんと話してると、何言ってるかわかんないけどね。」
『クスッ』
「おい、親父何の用だよ?」
『最近、変わったことはないか? 何でもいいんだが。』
「は? 意味わかんねぇ。 なんだよそれ?」
『ないのか?』
「ん~、あ~、ない。 ないぞ何も。」
『聞き間違いなのかな』
「何が?」
『世の中狭いもんだ。 聞こえることもあるんだ。 聞きたくないことさえ。』
「意味不明。」
『些細なことでいいから、変わったことがあれば連絡をくれよ』
「は? 親父らしくねーな。」
『たまには、俺の言うこと聞け。』
「あー、うん。」子どもぽく言った。
『まだまだ子どもだな』
「は?」
『またな』
良一は半ば一方的に通話切った。
「親父?」
『ぷーぷーッ』
既に切れていた。
「なんだよ」切れたケータイに向かって文句を言った。が、良一には聞こえない。虚しくなった。
そこも、綾香はクスクスって見ていた。