第8話 不完全な聖具
箱に触れた瞬間、白い閃光が広間を満たした。
私の腕を突き抜けるように力が走り、胸の奥が焼ける。
「うわっ……なにこれ!」
封印の棘は音もなく崩れ、箱がひとりでに開く。中から現れたのは、細身の剣。
青白い光を帯び、鞘に入ったままでも威圧を放っていた。
リオが血を流しながらそれを見て息を呑む。
「……聖具……」
ザラグの赤い瞳が細くなる。
「なるほど。主が探し求めていた光は、やはりここに」
槍を構え直す彼に、私は慌てて叫んだ。
「もうやめて!これ以上は――」
「まだ終わっていない」
ザラグが一歩踏み込む。しかし、その槍は広間の天井から落ちた光に阻まれた。
聖具の剣が淡く震え、青白い波紋を広げたのだ。
「ちっ……不完全か」
ザラグは舌打ちし、赤い魔力を収束させると、冷たい声を残した
。
「今回はここまでとしよう。だが覚えておけ――主はお前たちを監視している。勇者も、女神もな」
影が揺らめき、彼の姿は闇に溶けて消えた。
静まり返った広間で、兵士たちは尻もちをついたまま声を漏らす。
「……助かったのか?」
「勇者様が……勝った……」
リオは剣を杖に立ち上がり、私を睨んだ。
「おい女神!どうするつもりだよこれ!」
「どうするって、持ち帰るしかないじゃん!」
「いやそうだけど!重すぎるんだよ期待が!」
「勇者は期待を背負ってこそ勇者!」
「代理だって言ってんだろ!」
私はにっこり笑って聖具の剣を持ち上げた。意外にも軽い。
(でも、力の流れは半端……本当に不完全だ)
王都に戻ると、私たちはすぐに王城へと呼び出された。
広間に座す王女が、青白く光る剣を見て瞳を細める。
「……これが古の聖具」
「はい!勇者さまが命がけで手に入れました!」
私は胸を張る。
「女神の助けがなければ無理だった!」
リオがすかさず反論した。
「勇者は謙遜しなくていいんだよ!」
「謙遜じゃなくて事実だ!」
王女はそんなやり取りに微かに笑みを見せた。だがすぐに真顔に戻る。
「聖具は不完全。それでも……人々に示すには十分です」
兵士たちが頷き、周囲にいた貴族たちがざわめいた。
「勇者が聖具を得たぞ!」
「これで希望が戻る!」
リオは青ざめた顔で私に囁く。
「なあ女神……これ本当に大丈夫か? 不完全って言われてたよな」
「大丈夫!雰囲気は完全!」
「雰囲気で魔王に勝てるか!」
その夜、与えられた部屋で私はウィンドウを呼び出した。
【女神ポイント:86/100】
【警告:未登録の干渉 継続】
赤い文字は消えず、むしろ濃くなっていた。
(ザラグの言葉……主が監視している……やっぱり魔王が)
窓の外から、王都の街灯りがちらちらと見える。
けれどその奥に、何かがじっと潜んでいる気がしてならなかった。
リオが寝台に転がり、腕を枕にしてぼやく。
「なあ……俺、ほんとに勇者ってことでいいのかよ」
「もちろん!」
「でも俺、今日も半分死にかけてたんだぞ」
「勇者ってだいたいそんなもん」
「そんなもんなのかよ!」
彼の声に笑ったが、胸の奥の冷えは消えない。
未登録の干渉は続き、赤は私を見張り続けている。
次に来るのは――間違いなく、王都そのものだ。
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