第4話 王都到着!
王都は想像していた以上に巨大だった。
城壁の門をくぐった途端、目に飛び込んでくるのは人の波。
「すごい!すごいよリオ!人がいっぱい、建物がぎゅうぎゅう!」
「“ぎゅうぎゅう”はやめろ。感想が田舎者すぎる」
「だって!神界は真っ白で、音なんて祈祷の声だけだったんだよ!?
ほら、あっち!串焼き!わたし食べたい!」
「まず宿だ。金はあるのか」
「神界通貨なら」
「使えないだろ」
初めての王都に私は浮かれっぱなしだったが、リオは相変わらず冷静だった。
王都に来たり理由は装備だ。
勇者代理を演じるためには、格好くらいは整えないと誰も納得しない。
木の枝を杖代わりに持っている男が勇者ですと言われても、王都の人間は信じないだろう。
武具屋に入ると、筋骨隆々の商人が笑顔で迎えた。
「いらっしゃい!いろんな剣と鎧をそろえてるぜ!」
「じゃあ、勇者に相応しい装備はないかしら」
リオは渋い顔で私を見た。
「お前、余計なこと言うなよ」
「細かいことは気にしない!はい、この剣!」
私はきらびやかな剣を突きつけた。
リオが試しに持ち上げると、顔が引きつる。
「……重い」
「勇者は重さに耐えるもの!」
「無茶苦茶だな」
それだけで終わらない。
私は赤いマントを背中に回し、さらに盾まで抱えさせた。
「ほら見て!これぞ勇者って感じ!」
「ただのコスプレじゃないか」
「勇者にコスプレとかないの!」
リオは抵抗したが、商人は完全に乗り気だった。
「いやぁ勇者さま、お似合いですぜ!値段は張るが、一流の品だ!」
「高すぎる……」
「勇者は見栄えが大事!財布は犠牲だと思え!」
私は心の中でガッツポーズをした。
リオが勇者らしく見えれば、あとは私がフォローすればいい。
その瞬間、通りから悲鳴が上がった。
「魔獣だぁぁ!」
「地下から這い出してきたぞ!」
灰色の巨大なネズミが石畳を駆け抜けてくる。
体長二メートル、赤い目を光らせ、露店をなぎ倒しながら人々に襲いかかった。
私は顔を引きつらせた。
「うわっ、不衛生すぎ!」
「悠長なこと言ってる場合か!」
逃げ惑う人々。
倒れる屋台。
泣き叫ぶ子供。
リオは剣を握りしめたまま固まっていた。
私は彼の腕をつかんで叫ぶ。
「チャンスだよ!勇者のデビュー戦!」
「やめろ!俺はそんなつもりで剣持ってない!」
「大丈夫!私がサポートするから!」
気づけば人々の視線が集まっていた。
勇者と呼ばれた男に期待の目が注がれる。
「勇者さま……!どうかお救いを!」
リオの顔色が真っ青になる。
「……おい、本当に俺がやるのかよ」
「勇者でしょ?やるしかないじゃん!」
魔獣が突進してきた。
リオは必死にかわし、ぎこちなく剣を振るう。
私は横で奇跡をちょこちょこ使った。
爪を鈍らせ、石畳を爆ぜさせて牽制する。
(大爆発はもうしない!ポイント節約!)
リオは何度も転びそうになりながらも、最後の一撃で剣を突き立てた。
鋼のような牙が鳴り、魔獣は断末魔を上げて崩れ落ちた。
しんと静まり返った広場に、誰かが叫んだ。
「勇者さまだ!」
「魔獣を倒したぞ!」
「本物の勇者さまだ!」
大歓声が湧き上がる。
リオは呆然と立ち尽くしていたが、私はすかさずその背中を押し、群衆に手を振った。
「はい!こちらが勇者さまでーす!私はそのサポート女神でーす!」
人々の歓声はさらに大きくなる。
「勇者さま万歳!」
「女神さまも万歳!」
リオは剣を握ったまま、かすれ声で私に囁いた。
「おい……俺、本当に勇者にされちまったんじゃないか……?」
「うん!立派に勇者デビュー成功だよ!」
「嬉しそうに言うなぁぁ……」
人々に押し上げられるようにして、私とリオはその場の英雄になってしまった。
けれど、その喧噪の端で、私の耳がかすかな金属音を拾った。
甲冑のきしみ。
風向きが変わり、乾いた匂いが鼻をくすぐる。
通りの影に、鎧姿の兵士が三人、こちらを鋭く観察していた。
「……見られてる」
「誰に」
「城の人。たぶん招待、される」
私が小声で告げると、兵士の一人が前に出た。
紋章の入った胸甲、磨かれた槍、訓練の行き届いた足運び。
口上は滑らかで、目だけが笑っていない。
「そこの剣士、および……女神を名乗る者に通達。王城にて面談を賜りたい」
リオがわずかに身じろぎする。
「俺は剣士じゃ……」
「勇者さまだよ」
私は肘でつつき、笑顔を貼り付けた。
「喜んで伺います!」
兵士はうなずき、淡々と言葉を継いだ。
「なお、先ほどの魔獣出現はこれで三件目だ。
王都の下水に何者かの術式が仕掛けられている形跡がある。事情を伺う必要がある」
私は思わず眉をひそめる。
(術式……?ただのネズミじゃない)
兵士は続けた。
「そしてもう一つ。王女殿下が勇者にご興味をお持ちだ」
わぁ、それは面倒くさそう。
「興味って、どういう」
「腕前を見たい、とのことだ」
リオが青ざめる。
「今のは偶然だぞ」
「偶然でも勝ちは勝ち!」
私は親指を立て、兵士に向き直った。
「ご案内、お願いします」
行列のざわめきが道を割り、私たちは王城へ向かう。
歩きながら、私はウィンドウをちらと呼び出す。
【女神ポイント:93/100】
【監視:調整局オンライン】
目に刺さる赤い文言に、喉が小さく鳴った。
(見られてる。神界にも、王城にも。楽しいのに、胃が痛い)
リオが囁く。
「なぁ、本当に大丈夫か。俺はただの村人だぞ」
「大丈夫!見た目は十分勇者」
「中身は空っぽだ」
「そこは私が埋める!」
胸を叩いてみせると、リオは顔をしかめて前を向いた。
城門が近づく。
私は深呼吸をした。
その時、空の色がほんの少しだけ変わった。
雲が裂け、光がひと筋、王都中心に落ちる。
耳の奥で、またピコン。
【未登録の干渉を検知】
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