第3話 勇者は村人A!?
「救世主さまだー!」
「女神さまが村を救ってくださったぞ!」
村人たちの歓声は、さっきまでの恐怖を忘れたように明るく弾んでいた。
畑を荒らしていた魔物は消え去り、残ったのはぽっかり空いたクレーターと焦げた草。
そしてその中心で、私は額の汗を拭いながら、ひきつった笑顔を貼り付けていた。
(やばいやばいやばい! 救世主扱いされちゃってる! いや、確かに魔物は倒したけど、ただの暴発オーバーキルだし! しかも女神ポイント一発で5も消費しちゃうし!)
本気で胃が痛くなってきた私をよそに、村人たちは口々に感謝の言葉を浴びせてくる。
「女神さま、本当にありがとうございます!」
「この村はずっと魔物に悩まされていて……女神さまが来たってことは勇者様もどこかに?」
「えっ勇者? あ、うん……(来ないけどね!?)」
私は慌てて言葉を飲み込む。
――そうだ。一般人には勇者召喚の失敗なんて知らされてない。
彼らはただ「女神が魔物を退けた」と理解しているだけ。
(あぶな……危うく世界の機密ばらすとこだった!)
そんな私の挙動を、冷ややかに観察している目が一つあった。
他の村人より少し年上くらいの青年。
背は高くも低くもなく、服も地味。腰には木の枝を杖代わりに差している。
――勇者らしさゼロ。むしろ「村人A」として背景に溶け込むタイプだ。
けれど、その目だけは違っていた。
浮かれている村人たちとは対照的に、妙に落ち着いて私を見据えている。
「……女神、なんですよね?」
その声に、私はびくっと肩を震わせた。
「そ、そうよ! 雑用女神だけど……えっと、世界を救ってあげるんだから!」
「雑用?」
「い、いやっ、なんでもない!」
青年はため息をついた。
「にしては……危なっかしいな。さっきの光、完全に制御できてなかったろ」
「うっ……」
図星を刺され、言葉に詰まる。
村人たちは「無礼だぞ!」と青年を非難したが、彼は怯むことなく、私を真っ直ぐに見た。
「そのままだと、あんたのほうが先に倒れる」
――初めて言われた。
神界でも村人でもなく、この青年だけが、私を「救世主」じゃなく「危なっかしい存在」と見抜いた。
「……君、名前は?」
「リオ。ただの村人です」
「よし、決めた。リオ!今からあなたを勇者に任命します!」
「……は?」
村人全員がきょとんとした。
リオは額に手を当て、心底困った顔をする。
「なんでそうなる」
私は小声でリオに話す。
「だって! 救世主って、一人じゃ大変じゃない? 勇者が来ないなら、代わりにあなたを勇者代理にすればいいのよ!」
「いや、俺はただの村人だって」
「大丈夫! 私が女神なんだから、私が言えばそれが勇者になるの!」
ピコン。
【補佐対象を登録しました】
【勇者代理:村人リオ】
光の板が浮かび、システムが承認した。
リオの顔が一瞬で青ざめる。
「は!? おい待て! 本当に登録されたのか!? 俺、そんなつもり――」
「ほら! システムが言ってるんだから、もう相棒決定! 拒否権なし!」
「勝手に巻き込むな!!」
村人たちからは「おおー!」「女神さまが選んだ勇者だ!」と拍手が起こる。
完全に祝福ムード。リオだけが全力で抗議していた。
――そのとき。
「女神さま! まだ魔物が!」
畑のほうから、別の村人が駆け込んでくる。
見ると、瘴気をまとった狼型の魔物が群れで押し寄せてきていた。
「よーし! 救世主らしく私が――」
右手を掲げた瞬間、リオが私の手を掴んだ。
「待て! ポイントのこと、考えてるのか?」
「えっ」
「さっきの光、一発で五減ったんだろ? 十九発でただの人間になるんだろ?」
「な、なんで知って……」
「戦闘中にぶつぶつ言ってただろ」
(やば、完全に聞かれてた……!)
リオはきっぱり言った。
「俺が囮になる。あんたは最低限だけ奇跡を使え」
「え、いやちょっと! 囮って危なく――」
「村を守りたいなら、無駄撃ちするな」
そう言うとリオは木の枝を振りかざし、魔物の群れに飛び込んでいった。
村人たちが一斉に悲鳴を上げる。
「リオ!? 無茶だ!」
「ただの枝だけ持って行ったら死ぬぞ!」
けれどリオは冷静だった。
石を投げ、叫び声を上げて注意を引きつける。
突進をギリギリで避け、地面に滑り込みながら魔物を翻弄する。
「……すご。あれ、戦術になってる」
私は唖然とした。
ただの村人だと思っていた彼が、あんなふうに魔物を捌けるなんて。
派手さはない。でも冷静な判断と地味な動きが、確実に村人達を守っていた。
「……仕方ない! 私も!」
私は狙いを定め、奇跡を一発。
さっきより力を抑え、狼一匹だけを蒸発させる。
畑は無事。クレーターもできない。
ピコン。
【女神ポイント:94/100】
「よし、セーブできた!」
リオが残りを追い払い、群れは退散していった。
村人たちは大歓声。
「女神さま! 救世主さま!」
「リオもすごいぞ!」
私は笑顔で手を振った。
……でも、リオは額の汗を拭い、私にだけ冷ややかに言った。
「な? 無駄撃ちするなって言ったろ」
「……う、うん」
私はしょんぼりとうなだれる。
――勇者不在の真実を知らない村人たち。
救世主として担ぎ上げられる私。
そして、地味だけど妙に頼れる村人・リオ。
(……私、一人じゃ絶対に無理だ。リオが相棒になってくれなきゃ、この先もたない)
この瞬間、雑用女神と村人リオの凸凹バディが、本当に始まったのだった
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